あるRTWPC達 外伝4話 『魔王』と『死神』──舞台裏

「さて。ヒュドールよ。こんな面白いログを見つけたのだが」青年がパソコンに向かっている。
画面には、『その手』の方々に人気のありそうな犬耳ナースの姿。
「んー…これは、──様が犬になっちゃったときに襲い掛かってきたって言う彼?」
「そ。そこで、お前にも協力してもらってある企みをやりたいんだよな」
「もちろん、僕が協力しないはずが無いよ。──様」チャットの要領で犬耳ナースと会話している。
「…つくづくお前って、真澄が作ったとは思えないなぁ」「あっはっはーw」

「…という訳で」「何時もながら、どういう訳なんだ?」
「LADのこと、教えてくんない?真澄」『瓦礫の街』。真澄を呼びつけたチコラブが訪ねる。
『そのLADとやらのプレイヤーに聞いた方が早くないか?何も真澄に聞かずとも』
「そうだよ、なんでわざわざ俺に…」そこまで言って、レーニャも真澄も気づく。
「…僕の知り合いに、そのゲームのプレイヤーが居なくって…」上目遣い。しかも目を潤ませている。
精神的にとても大きなダメージを受ける真澄とレーニャ。
『ちちちチコラブ…それは反則だぞ…』流れ出る鼻血を拭いつつ、レーニャが言う。
「先生、鼻血がとまんねぇ…なんて威力だ…」…真澄も、鼻血を拭っている。
「…駄目だよね、真澄も…忙しいもんね」そしてそのまま、寂しげな表情に。
「ぶはっ」『おふっ』…落ちた。二人が倒れる。
「あははチコラブさんに首輪つけて散歩して困ってる表情を独り占めするのさうへへへへへへへ」
『困った顔も怒った顔も笑った顔も可愛いがやっぱり泣き顔が最高だぞチコラブあはははははは』
「…よし」いいのか、それで。二人とも、完璧に壊れているんだが。

──あれ? もしかして、マサミさんですか?──
──うん?─よぉ。 確かリフィールとぱふぇ…だったかな?──
──うん、ものみの丘以来だよね──
──ははは…。 アレは本当に悪かったよ…──
──別にいいんですよ。 先生も気にしていませんし──
──それはそれで、なんか恐いな…──

そのログより時間を戻して──『始まりの草原』
チコラブがカオスゲートから現われる。
「あ、チコラブさん」話の輪の中の少女の一人、リフィアがそれに気付く。
他のメンバーに、用事があるから…と伝えて、チコラブの元に駆け寄る。
「それで、なんですか?話って」「…いい事思いついた」
「え?」チコラブの目が、怪しく光る。其処まで気付いた途端…気絶させられる。
「リフィア!?」当て身を喰らわして、気絶させた。
そのまま、大きなシャボン玉に包み、手の届かないところまで浮かせる。
「我は『魔王』なり。…この娘、リフィアは頂いていく」…銀髪化までして、完全に魔王になりきっている。
「させるかっ!」甲冑を着込んだ少女のその声をきっかけに、その場に居るメンバーたちが襲い掛かる。

──戦いが始まる。
だが、その戦いには…少々の違和感。
「どうした?攻めの手が先程とは弱くなっているが?」したり顔で挑発するチコラブ。
「くそっ…」徐々に、その場にいた面子は押されていく。
…だが、チコラブは何一つとして手を出していない。ただ、『避けて』いるだけだ。
何故当たらない!?そう、少女が考えたときの事だった。
「何故当たらない…か?」…!図星を突かれた。少女の顔に、焦燥が広がる。
「教えてやろう…何故、当たらないのか。『止まって』いる攻撃に当たる者は居ないだろう?そういうことだ」
言ってる意味がいまいち理解できないが、このまま戦っても体力を疲弊するだけだ。
そう、少女が考えをめぐらした刹那…!
「そろそろ茶番にも飽きたな。これで終いとしようか。
 リインフォース!STS『クロス・ファイヤー・ハリケーン・スペシャル』!」
赤が。朱が。紅が。熱とともに、『始まりの草原』を灼く。

『始まりの草原』は、静かであったその景色を一変させ…大樹の傍に居る少女たちを恐怖へと陥れた。
「…やりすぎた、かなぁ」暢気な声がチコラブから漏れる。
そう呟き、彼女は自分がやらかした事の後処理を…瞬く間に、時間停止でも使ったのだろう…こなしていた。
足元でくたばっているPC達の手当て。灰燼と化した芝生の再生。
…ただし、いくつか空間の傷は残しておいたが。
「其処のお嬢さん、伝言を頼まれてはいただけぬかな?」『…何ですか』
「マサミ君に。『彼女は預かった。返してほしくば、──』」
…見た目を気にしなければ、本当に魔王であるかのような錯覚を覚えさせる行動だった。
言動も彼女の考えうる限り偉そうに、威厳のありそうに。

──だめぇぇぇぇぇぇぇっ!!──なっ…!?──
──なんで二人が戦ってるの!? 二人が戦う理由なんて無いじゃない! だから、だから…!──
──もうやめてよっ!!──
──嘘だろ…。 『死神化』と『死天使化』が解除されている…──
──こちらもだ…。 『銀髪化』も『解放』も自然に解除されている…──
──どう言う事だ…? 本来『覚醒』とは、使用者の意志が無ければ解除されないはずだ…。──
──考えられる理由の一つは… あの光が大きな理由だと思う。──
──不思議なんだよ。 何でリフィアが『慈愛の輝光』を使えたのか…。 そして…──
──何でこいつの背に、『白い翼』が生えているのかが…な──

「ヒュドール。やっぱ駄目か?」近くにいるマサミに聞こえないように、呟くチコラブ。
「うん、駄目。何か…プロテクトがかかっているんだよね。
 『制約』とはまた別の…未知の存在。たとえれば…僕やチコラブ様みたいな、『魔王の欠片』」
「そかそか。じゃ、STSも無理…か。あ〜あ、使えたら面白そうな使い方もできそうなんだけどな」
ふと、振り返る。何もないはずの空間に、何かを見つけたかのような眼光。
「…ヒュドール。ここもログ収集対象だよな」「うん。で、今戦り合うの?」
「面倒。マサミっちゃんと戦りあったばっかだしね」「…其処まで用心する必要もない相手だと思うけどな」
「だから面倒なんだって。それに、あんな三下程度倒してもねぇ…
 さて、リフィアちゃんの容態でも見るべ〜」
近くにいないと聞き取れない声での会話を切り上げ、チコラブはマサミ達に近づく。

──なるほど…。 あれが『死神』と『魔王』の力か…まだまだ荒削りだな──
──まぁ…いい。 俺の仕事は、奴らをこの世界から抹殺する事だけだ。──
──最初は『死神』、次に『魔王』…。 あいつには悪いが、二人を仕留めるのはこの俺が先だ…──

『瓦礫の街』に生成されるログを勝手に持ち出して読んでいる青年。
…と言ったって、誰の所有物でもないため、勝手に持って帰っても問題はない。
まあ、この企みがばれてレーニャと真澄に怒られはしたが…
「…だとよ。舐められてるな俺ら」「なんて言うか、身の程知らずだね」
「大丈夫。あいつはなめてかかるタイプだしな。そんな奴が勝てる道理もない」「きっついね、チコラブ様」
ヒュドールの一言への反応に困るチコラブ。次のふきだしが出てくる。
「…で、ぶちのめしに行く?」ココアを飲みながら、ヒュドールの発言を読む。ため息。
「面倒だっての。勝手にマサミっちゃんに喧嘩ふっかけて、返り討ちにでも遭ってろ雑魚が…という感ぢだし」
「成る程。ぢで言ってる辺り、相手にはならない、と。…悲惨だね、彼w」
「『敵を知り、己を知れば百戦危うからず』…昔の人は、よく言ったものだよ。感服だぁ」
そう発言を打ち込み、エンターキーを叩く。そして伸び。

暗い空に、月が輝く。