あるRTWPC達 第5話 かなり間違えた砂漠の使い方

砂漠都市モロク──────────────────────
そこは、Ragnarok Onlineで近くにシーフに転職できるダンジョンがあった街。
Ragnarok The Worldでは、左手剣と薬剤が売られている街である。
そこの南フィールドに、彼女達は居た。

「あ゛〜〜〜、い゛い゛〜〜〜」
犬耳と首輪をつけたチコラブが首から上を出して砂に埋まっている。
「…君は何故俺をわざわざ呼び出したのかね?」
黒月は呆れた、という表情で近くに座っている。
「み゛〜〜は〜〜り゛〜〜〜」
気持ちよさげな表情のまま答える。
「…帰らせてもらっていい?」
「だ〜〜〜め゛〜〜〜」
チコラブがそういった瞬間…
「あ、黒月さん」女性の声。とともにチコラブの頭にのしかかる重圧。
彼女の名はジノ。黒月からDOPカードを貰ったPCだ。
「…踏んでるよ。」黒月がこわばった笑顔で言った。
「…い゛〜〜〜だ〜〜〜い゛〜〜〜」ジノの足の下から聞こえてくる。
「えっ、あっ、ごっ、ゴメンナサイ!!」
「ど〜〜〜い゛〜〜〜て〜〜〜」まだ踏まれている。

ちなみに説明し忘れたが、DOPとは。
現在最強の座をほしいままにしているモンスター「ドッペルゲンガー」のことで、複数の種類が居る。
それぞれが鬼のような強さを誇っているため、倒すのは至難の業である。
DOPカードというのは、こいつらのうち誰かを倒したときにまれに落とすもので、
装備するごとに25%の確立で2回連続の攻撃を行うことができる。

「それで、チコラブさん…でしたっけ。何をやっているんですか?」
「す〜〜〜な゛
「砂風呂、だってさ」黒月が遮るようにして言う。
「…服や荷物は?」ジノは汗をたらしながら訊いた。
「く〜ろ゛〜さ〜ん〜に
「俺が持たされてる。俺が持っていったらどうするんだ?」
「…地中からがぼっと」※見苦しいので普通の台詞に翻訳します。
「…嫌な─────────あ、いやいや」
「オイ、黒月。」男の声。チコラブがまた踏まれている。
「…なんだい?」黒月はこわばった笑顔で返した。
「チコラブってやつはどこに────────あだっ!!」
…見ると、男の足元にチコラブが噛み付いていた。
「…ううあ!」噛みながら言うチコラブ。踏むな!といいたかったのだろう。
「てめえっ!!」銃を撃つ男。しかし、チコラブは砂の中に潜っていったため銃弾は砂に阻まれた。
「それでなんだい?灰皿君。」
「てめえ死にてえのか?
 それよりも、チコラブってやつはどこに居る?探してもみつかんねぇ」
「…君の足を噛んでた犬耳。」黒月が答える。
「…面倒臭ェ。あんなやつ相手にするんだったらテメェとやるほうがまだいい!!」
ボゴッ!!と、黒月が座ってる横にチコラブが出てきた。
「…器用だね。」黒月は装備を渡しながら言った。
「…隠密戦は得意ですよ?」そういうと、チコラブは砂の中に潜っていった。
「…ホードか、あいつは。」灰皿───いや、アシュトレイというのだが。
ともかく、彼は絶句した。

銃の音が鳴り響いている。
「くそっ、こっちか!?いや、ちがうっ!!」
まさにもぐらたたき状態である。チコラブはアシュトレイの位置がわかるのに対し、
アシュトレイはチコラブがどこに居るのか分からない。
さらに、チコラブが銃を撃つたびに砂埃が舞い、アシュトレイの視界を妨げるばかりか
アシュトレイの銃撃は砂のクッションのせいでチコラブに届かない。
「野郎っ!!どこいった!!」アシュトレイが言い放つ。
「僕は男じゃないですよ?キャラは」チコラブはアシュトレイの後ろでそう言ってからまた地中に潜る。

(…おかしいな)黒月は思った。
ゲームの中とはいえ、この砂漠で長時間地中に潜っているのは危険であると分かっているのである。
しかし、チコラブは─────────冷属性のPCである。
黒魔術を使って自分の体温を下げているのだ。
だからこそ、長時間潜っていられるのだが、黒月はそのことを忘れていた。

「鬼さん」「こちら」「手の鳴る」「方へ♪」
もうチコラブがアシュトレイで遊んでるようにしか見えない。
一方、アシュトレイはもう汗だくである。
「…やめだ。もう、体力が…もたねぇ…」
その場に倒れるアシュトレイ。チコラブは地中から出てくる。
「うぃんっ!」握りこぶしを空に掲げた。
「…もういいのか?」
「うん。ありがと、黒さん。」そういって、黒月の頬に軽くキスをするチコラブ。
「────君が男じゃなけりゃ、素直に喜べるのにねェ…」嫌そうな顔をする黒月。
そしてそれをみてなぜかやきもちを焼くジノ。

「灰皿さん、灰皿さん。」
「テメェ…あとで…必ず…ぶっ殺す」アシュトレイの死にそうな声が返ってきた。
「僕を?頑張ってね」他人事で答えるチコラブ。
「…じゃあ、もう行っていいのかい?」ちなみにジノはすでにこの場を離れている。
「ん。報酬の1000zです。」チコラブは金を渡しながら答えた。
「…少な─────いや、いいや。じゃ」
「じゃーにー。」手を振るチコラブ。

この後、数ヶ月間アシュトレイの襲撃は無かったという…