あるRTWPC達 第24話 当てにならないネタばらし

「やほ、レーニャ。そして…」「おう、チコラブさん。やっとメンテナンス終わったぜ」
…瓦礫の町。見慣れた二人に加えて、…触手のように長い髪の、それはまるで…
「異議有り!!」「なっ!?」見知らぬPCからバスターシュータを受け取るなりそう叫んだ。
「僕の知っているアルベル=ノックスはそんな性格ではありません!弁護側は、納得のいく説明を要求します!」
…そう。「Star Ocean Till The End Of Time」にでてくるアルベル=ノックスに似たPCが居た。
「ちょ…チコラブさん…何をいきなり…」そのPCはチコラブの剣幕に慌てている。
「それにアルベル=ノックスは男です!…其処も納得の行く説明をお願いします」
『お、落ち着け、チコラブ…』

「…で、チコラブさん。どういうことか説明してくれ」
「俺としては真澄、あんたの方が気になるが…まあいいか。
 まぁ、簡単に言って…女体化アルベルが目の前に居たからびっくりして逆転裁判」
『…ずいぶん投げ遣りだな』「まぁね。…で、何故真澄のキャラがアルベルなのか説明してもらおうか」
「え…ああ、前に雑誌でイラストを見て…な。綺麗なお姉さんだ」「…アルベルは男だぞw」
「…は?」いきなりの不意打ちに身構えることも出来ずに聞き返す。「アルベルは男だw」
「…嘘、だろ?チコラブさん。…こんな、きれいなキャラ…なあ、女の人だろう?」
「うんにゃ、男」「う…嘘だッ!嘘だと言ってくれぇッ!!」
『あー、おい…お前ら、いいかげんに落ち着け…』

「さて…真澄。アンタ本当に一体何物だ?俺の精神世界に入り込むわ、こいつのデータを作り出すわ…」
落ち着いたところで、本来の口調で真澄に尋ねるチコラブ。
「…まあ、イレギュラーハンター、といったところかな?GMの権限でデータ関係の分持ってるし」
「何のために?」「対イレギュラー用武器に決まってるだろ」
間髪居れずにした次の質問に淀みなく答える真澄。嘘は付いていないと判断した。
「ッつーかイレギュラーハンターがイレギュラー産んでどうするんだよ(汗」
「防衛上の都合、と言う奴だ。それに俺は悪性…先のThe Worldの件のようなイレギュラーしか扱わん。
 レーニャやアイネなんかは射程外、って訳だ」「…アイネ?何故其処で出てくるんだよ」
「あれ?チコラブさん知らない?アインセル…彼女、元BOTプログラムだぞ?」
「…は?おいちょっと待てや、アイネやんとリアル関係の話したことあるんだが」
「俺もよくは知らんが…誰かさんがGMを脅しつけてこんな無茶な事をしたって聞いた」
「俺が聞いた話だと頼み込んだって話なんだけど…まぁ、あの人ならやり得るね、それ。
 …で、何でそれより前…The Worldの件についてノータッチだったんだ?」
「そのときの俺は、まだ勉強中だったんでね。まだイレギュラーハンターじゃなかったんだよ。
 で、何故RTWでイレギュラーハンターやってるかってのは頼まれたから」
「その脅されたって噂のGMに?」次々と質問を重ねていくチコラブ。
「もち。ついこの間…どのタイミングだっけ、レーニャ?会話ログあるだろ?」
『ああ…確か、この会話ログだな。前に…空間が震えた、と言っただろう?
 そのとき、何かおかしい会話ログがあったのを言わなかったんだ。…すまんな、隠していて』
「や、別にいいけど…でもそれ、『祭り』の主催者じゃないのか?」
レーニャが持ってきた会話ログに目を通しながら言う。
「違うな。まだデータが消えていないと示している。
 それに奴らは何者かによって作られえたウイルスプログラムのようなものなんだ。沸いたわけじゃない」
「…は?ちょっと待て…ならなんで世界を壊すって?それに沸いた?」
「ああ、まず前者の質問…世界を壊す、についてなんだがな。
 性質の悪い科学者がこの世界の事を知って送り込んだウイルスなんだ」
「おいちょっと待て…ヘイムダルが、ウイルス!?」
「ああ。だが…彼らは潜伏期間中に自我をもち始めた。
 ヘイムダルは自分の行動に疑問を持ち始めて、アンタに協力したんだ」
「…自分を、止めさせるために、か。くそっ、あの馬鹿…」
「続けるぞ。で、その主催者たち…一部はまだ完全に消滅していないな。
 一体どれだけ残存しているかはわからないが…そのうちの二人は、我々に協力してくれている」
「…んー、黒さん関係かな?アイネやんの件もあるし、あの人ならやりかねん」
「まあ、彼らには統一性がなかった。それが彼らの敗因だろうな」
「違うな…力量を、特に黒さんの相手をした奴は、見誤っていたんだ。
 それを言ってしまえば俺だって黒さんの『アレ』さえ出なければ勝てる…今は互角にいけそうだけど」
「…どういうことだ?」立場が逆転してしまったようだ。
「まあ、見てろ」チコラブは、そういうとバスターシューターを手にして…集中する。
見る見るうちにチコラブの髪の色が…栗色から銀色に変わっていく。そして…
「『ナイトクラッシャー』!!」バスターシューターから幾つもの鎖のついた鉄球が放たれ、舞い踊る。
「…おいおい、どんな事をしたらそうなる…って調べるほうが速いな」
「そ。まぁ端的に言っちゃえば『奴』の力が俺にくっついてる、といったところ?」
「…チコラブさん、嘘はよくないだろ」「あれ?もう調査終わったのかい。…速いなー」
「まぁ、な。これが売りなんだよ。…で、チコラブさん…『奴』を、喰った…違いないな?」
「喰った、でいいのか取り込んだ、なのかそれとも吸収した、いやドッキング?適切な表現が見当たらないや」
「…まあ、とにかく人前で使うなよ?」「使わないことを願ってるよ」

「閑話休題、次に質問の後者…沸いたってどういうことだ?みたいなニュアンスだな?
 沸いたってのは文字通り。ちょうど普通のモンスターのように」
「おいおい、そんなのありかよ」
「だが、Nullの状態から強大なモノが出てきた。…だから、俺がいる。力になるかどうかは知らないけど」
「もしかして、こうして話してる間にやられちゃってたりして」
「痛いところをつくなぁ、チコラブさん…」

「それでその作成者は?」「逮捕されたんだが…色々と不審な行動ばかりなんだよ」
「どういうふうに?」まだまだチコラブの質問は続く。
「ああ、まずあのウイルス…1セットしか作っていない上に送り込んだのはRTW。
 奴の動機は『世界を破滅から救う』…精神も正常だ。あんなものを作ったくせに、な」
「…不審だねぇ」『話が速すぎてついていけないが…今の話は、確かにおかしいな』
三人とも怪訝な顔をする。そして、真澄は続ける。
「ああ。何もRTWを標的になんかしなくてもいい。何せまだβテスト中なんだ。
 この世界に大きなダメージを与えたところで社会現象にはならない」
「ならばなぜこの世界に『主催者』を送り込んだのか…まさか」
「…チコラブさんも被害妄想が過ぎるな」「やかましい。…でも、あながち外れてもいないだろ?」
「だがその仮説を立てたところでその科学者が何故チコラブさんを知っていたか…
 何故チコラブさんを狙ったか、だな」
「…ま、こいつに関しては頭の片隅に追いやっておいても構わないなぁ」

「さて…チコラブさん。アレって普通の銃技でも適用されるのか?」「見てみる?」
『見せてくれるのだろう?』妙にうきうきした口調でレーニャが言う。
「ハイハイ、レーニャの頼みもあることだし…」そういって、空き瓶を並べて置く。
そして…髪の毛が見る見るうちに銀髪へと変わり、「『ピアッシングショット』!!」
…静寂が辺りを包む…
『…チコラブ?どうした?』「…へ?いや、もう撃ち抜いたよ?」
「なッ…嘘だろ…」弾丸が発射されたような形跡が全くない。だが…現に薬莢が落ちている。
『…と言う事は、空き瓶には…』銃弾で撃ち抜かれた物にしては妙に綺麗な穴があいていた。
「他にも…『ウィンタースパイラル}!!」銃弾を放った瞬間、銃口から吹雪が銃弾を追いかけてゆく。
吹雪は銃弾の軌道を支配し、一面の銀世界を作り出した。
「…」『…』絶句。「んでもって」枝を折る。枝の魔力によって彷徨う者が召喚された。
「『零距離バスター』!!」銃声と鈍い音が響く。
彷徨う者は…顎を狙われて撃たれたにもかかわらず、上半身が丸ごと吹き飛んでいた。
「『ハリケーンショット』!!」そして今度は通常のハリケーンショットの範囲で空き瓶に当たらない角度に放つ。
…しかし、その銃弾は当たらない距離にあるはずのビンを粉々に砕いた。
『…其処まで、出来るものなのか?』「ま、ね。…けど、まだまだ」
赤ポーションを空中にぶちまけ、それに向けて…「『凍結弾』」
ポーションが少し散ったかと思うと、みるみる凍っていく。
「他にも…『コールドボルト』!」巨大な氷塊がチコラブの手を離れ、凍ったポーションに直撃した。
「…チコラブさん、何だよそれ…」「何だよと聞かれても困るなぁ…」

「…さて、そろそろ時間だから落ちるよ」『ああ、また明日な?チコラブ』
手を掲げながらカオスゲートに消えるチコラブ。
──数時間後…現実世界。
RTW内で「チコラブ」と呼ばれる青年が、布団に寝転がっている。
「…何故、俺が狙われたのか…何故だ?何故、わかるような気がする?」
闇の中、目を覚ましたチコラブは誰ともなしに呟く。
「何故、俺は…あんなものを手に入れた?一体、何処からおかしくなったんだ?
 …気付けば、何時の間にやら強くなっている…正直、ありえるはずが無いんだが…な」
それだけ呟き「まあいいや、寝るか」そうして、彼は夢にその身を埋める。

だが、彼は知らない。何故、彼に力が与えられたのかを…