あるRTWPC達 第19話 そして友が裏切って

あらすじ
RTWの世界で有名な『フェイヨンの三奇人』の一人チコラブが挑戦したクエスト。
それは階層ごとに違うパートナーとともにフロアを探索、ボスを倒すものである。
第一階層、第二階層、第三階層と楽に通過。
第四階層では、男性のPC…プロメテウスとともに冥魔を撃破。
その後、その後ろにある真新しいビルへと入っていく。

「…!!」扉を開いた先には、夜空があった。…いや、宇宙というべきか。
「ちっ、やっぱり罠かよ」態度を豹変させ、向き直る。
「…そう。貴方は危険ですからね。ま、せいぜい頑張って下さいね」プロメテウスが身を翻して走り去る。
「何を…って、そう言うことか」見れば、見知った雑魚モンスターが大勢。
…但し、雑魚とは言えどもそれぞれ高い能力値を持つモンスターばかりである。
「…なるほど、こいつら…プログラムが改変されているな。
 武装も全て射撃…まさか、弾幕ごっこですか?」
…どうやら、そうらしい。親切な事に、ある一定のラインを超えるまで襲っては来ないようだ。
「…どうか、紅魔郷のルナティッククラスでは有りませんように…いくぞ!」

…弾が、飛び交う。銃弾、瘴気弾、魔力弾、ポリン。
チコラブは敵の放つ弾丸を回避しながら銃弾を放つ。
できるだけ消耗しないように戦ってはいるのだが…いっこうに埒があかない。
「…あーもう、むかついてきた!ロッ…バスターシューター最大出力!
 シールド展開!いくぞぉぉ!!彗星『ブレイジングスター』!!」
宇宙に、光帯が鮮やかな軌跡を描く。

「…な!」「追いついたっ!」並み居る魔物を押しのけてチコラブはプロメテウスに追いつく。
「このまま、潰れろォッ!!」「くっ、対衝撃防御フィールド、展開!」
…しかし、プロメテウスを襲ったのは強烈な衝撃ではなく…銃弾。
「…くっ、フェイントか!?」何とか手にした杖で銃弾を叩き落す。
しかし、叩き落した銃弾は別の銃弾によって軌道を変えられ、再びプロメテウスに襲い掛かる。
更に、他の銃弾やミニオンストライクによる多方向射撃。
「ちっ、セイフティウォール!」チコラブの放った弾丸が、全て止められる。
「…なんかムカツクな、おい」「これも戦術さ」「同感。でもこっちは使えないんだがな」
3…2…1…チコラブが呟く。何度も繰り返し、間違いを修正するかのごとく。
「…何を数えているんだい?」「見れば解るさ…0!!」
プロメテウスを守る魔力壁が消える。と同時に弾かれたはずの銃弾やポリンが一斉に襲い掛かってくる。
「なっ!?」プロメテウスは、その全てをまともに喰らい…消滅した。
「…おい、茶番はこれくらいにしとけ」チコラブは、宇宙のある一点を睨み言い放つ。
すると、何もいなかった空間にまるで染み出すかのごとく魔物が出てくる。
「…だる…バスターシューターはもうぶっ放すほどのエネルギーが無いから…強行突破、ね」
その言葉をきっかけに、戦場が動き始める。

「…やっと、追いついた!」「ああ、お疲れ様」
傷だらけのチコラブに対し、プロメテウスは多少魔力を消費しただけ、と言う顔でたたずんでいる。
「さて…今のキミの状況を鑑みれば…おおよそ勝ち目は無いね」
「それでもあんたを倒さにゃ外に出ることも出来ないだろうに…」
「まあ、間違ってはいない。だが、君がこの世界から出られる確率は…1‰より低い」
「まあ、確かに端的に言えばそうなるんだろうねぇ…。けど、此処に骨をうずめる気はさらさら無いんで」
「うずめる大地なんて無い…だが、其処まで言うのならば私が冥府への旅を手伝ってあげようじゃないか」
「せめてケルベロス辺り一緒に退治して欲しいもんだね」
そんなやりとりが終わった瞬間、魔力弾と銃弾が飛び交う。
「全力で葬らせてもらう…『メガフレアストーム』!!」
強力なエネルギーを内部に潜ませる魔力弾が多量に放たれるのに対し、
「…『ガードシェル』」チコラブは自分の目の前にエネルギーの塊を作り出す程度。
「…その程度か?舐められたもんだね」「同感だよ」
魔力弾がエネルギー塊に触れた瞬間、魔力弾は消滅し、エネルギー弾が発射される。
「何!?」意外な出来事に何とか反応し、それを避ける。「…なるほど、カウンター、か」
「ほらほら、ぬたっとしてるんじゃ…無い!『ミニオンストライク』!」
複数のポリンを召喚、多方向から攻撃を仕掛ける。
「ふん、この程度…」周囲のポリンを弾く。しかし、弾いたポリンはそのまま向きを変えて再度襲い掛かる。
「く…うっとおしい!」ファイヤーボールを使い、まとめて焼き払う。
「…おんや?もう余裕が無いのかい?」「はっ、間抜けなものだ。残存魔力量を見誤っていたとはな…」
「ま、そりゃそうだろ?お前さんにやった青ポットは、実はただの青い塗料を溶かした奴だからな!」
「…なんと姑息な…」「備え有れば憂いなし。怪しいと思ってて正解だったわけだ」

…そして、熾烈な争いが続く。
十数分ほどして、満身創痍の二人の姿。
「…なるほど…メルクリウスが…楽しむわけだ…」
プロメテウスの魔力は枯渇、体力も殆どが底をついている。
「…まあ、とりあえず…出口は…後で探すとして…とど」
ザクッ…。刃物が、肉を切り裂く音。
「…なんて…こったよ…まさか…増援…とは…な…」
チコラブの後ろに、女性。その女性の持つ剣が、チコラブの右肩に刺さっていた。
「メディウム…すまないな…」「この程度、他愛ない。危なかったな」
「さて…メディウム。すまないがとどめを刺してくれ」「ああ、わかったよ。お前は退いていた方がいい」
「ああ。後は任せた」プロメテウスはそう言うと、闇へと消える。
剣を刺さったまま振り上げ…振り下ろす。チコラブは、肩が引き裂かれる痛みを感じ、意識を失った。

「…このままで良いの?」「良いさ、別に…死んだって、運命だ」
「悲しむ人は居ないの?」「居るには居るが…死人に口なし、だよ」
「それじゃあ、レーニャの面倒は?君を頼っているんだ。君が死ねば、彼女はどうなるんだ?
 黒さんやイデモンさんにも頼んでいない。…まあ、頼まなくてもやりそうな気がするけど。
 それでもレーニャは君がいないことで大きなダメージを受ける。…もう一度、このままでいいの?」
「…」「いいわけないよね?レーニャを悲しませたくは無いんだよね?」
「…そうだ、そうだよ…!!レーニャは、俺が守るって…!!」

強烈な光がその場全てをを覆った。

「何だ…?何が起こった…?」
剣を振り下ろした先に、チコラブが居ない…。一体何処へ消えたのか、辺りを見回す。
「…!!其処か!」メディウムがナイフを放つ。
ナイフが弾かれた。弾いたのは、モップ。
モップを持つのは、水色のメイド服に身を包んだ少女。
「…ナイス、タイミング…」「そちらこそ。あのタイミングで、よく放てましたね」
「貴様…何者だ?一体何処から入った?」
「わたくしめはチコラブ様を…いえ、『フェイヨンの三奇人』方を必要とする存在。
 名前は…そうですね、ジェイド、と名乗りましょうか。
 何処から来たのか…それは、愚問ですね。私たちに空間の境界はありません」
「…それで、私を退けるつもりか?」私に勝てるわけが無い、という調子で剣を向けるメディウム。
「いいえ、あなたの相手はわたくしでは有りません」
「何?…まさか」「いいえ、チコラブ様は今からお休みになられます。私の相手は…」
「…ググ、オデ、ドデモ言イダイノガ?」後ろの闇から紫色の肌をした大男がやってくる。
「…なるほど、アトラスが。ならば私は…」「…俺だ」
メディウムが振り返ると、其処にマフラーで口を隠した男が現れていた。
「言っておくが、援軍は来ん。足止めを施しておいたが…其処の筋肉馬鹿は無理矢理壊したようだな」
「グゲッ、アノデイド、デオデヲドメデドゥドデモ思ッダガ?」
「貴様等の能力は知らん。…さて、御託を並べるのにも飽きた。さっさと決着をつけるぞ」
それぞれが別の空間のゆがみへと飲み込まれる。

「…僕、置き去り?助けもなし?というかあの二人何しに来たの?」
──チコラブ、現在放置中──
「ひねくれない。準備、万端」そんな少女の声が聞こえた途端、チコラブも空間のゆがみへと落ちる。

豪華なエリア。城の中を思わせるような空間に、ジェイドとアトラスが対峙している。
「…ザデ、オ前…美味ゾウダナ」「ええ、私、結構評判ですわ。可食部は少ないのですが」
細腕から繰り出される高速の突きを受け止めるアトラス。
「グガァァァッ!!」モップを掴んだまま振り回し、投げる。
ジェイドはその力に抵抗することなく、あっけなく投げ飛ばされる。
「…怪力があなた方の長所ですか」空中で急停止したかと思うと逆に突っ込んでくる。
「ですが…相性が悪うございますわ。わたくしの長所は…わたくしの周囲の力学的エネルギーを操りますの」
ジェイドのスピードが上がる。アトラスが拳を繰り出す。
ジェイドはモップをアトラスの腕に噛ませ、そのまま体全体を横回転。
「ガッ!!」「!!」裂帛の一喝。ジェイドが怯む一瞬を見計らってアッパーを繰り出す。
ごしゃ。嫌な音が響く。防御に回した左足が砕けた。成す術もなく空中へと舞い上がる。
「ゴアアアァッ!!」強烈な腕の振り下ろし。
べきゃ。とっさに防御に繰り出したシーツで、何とか直撃を防ぐもののダメージは大きい。
「…油断、しすぎましたわね…」そう呟き、短い詠唱。「ファリプス」
光がジェイドを包み込み、多少打撲などを回復する。
「…とりあえず、動けますわね」「グゲゲ…ガデドゥド思ッデイドゥノガ?」
「勝てる勝てないは二の次。チコラブ様さえ助かれば、わたくし達は死のうが消えようが…
 …いえ、失言失礼。チコラブ様が助かり、わたくし達も助かりさえすれば宜しいのですよ」

「…それで、貴様は何者だ?」「ディアマンテ、と呼んでもらおうか」
マフラーの男とメディウムは、洞窟の中のようなエリアにいる。
「イタリア語のダイアモンド、か。なかなか洒落た名前をつけるものだな」
「御託はいい。さっさと始めよう」不意に、ディアマンテが消える
「!?」メディウムが驚愕する。気付けば、肩が切り裂かれている。視覚の後、痛覚がメディウムに届いた。
「…くっ、一体何が…」思わず、肩に手を当てる。
「簡単な事。速く動いているだけだ。今のは、音速よりも遅い。次は…音速だ」
「くっ!!」時間が止まる。しかし、既にメディウムの腕を引き裂き後方遠くへ。
蛇足的に投げナイフを投げる。時間が動き出した次の瞬間、ナイフが宙に舞う。
「…貴様が俺に攻撃を当てる確率…単発ならば1%を切る。
 弾幕ですら上手く時間を止めて35%か」
「…何故、そんな事を言う?」
「チャンスは一度だ。遊ぶのはそれまで、其処からは全力で止めさせてもらう」
メディウムが構えた瞬間、ディアマンテが姿を消す。時間を止めるが…既に遅い。
ディアマンテはメディウムの後方、時間の止まった世界を血が紅く彩る。
今度はナイフを投げる暇すらない激痛。もたもたしているうちに時間停止の限界が来る。
「…残念だったな。貴様はもう此処で俺を倒す事はできない。
 暫く、動けない程度にはしてやるから安心しろ。…『瞬光閃』」
慌てて時を止め…られない。時間が破壊されている。
「無駄だ。光よりも速い速度で動き、時間そのものの概念を一時的に破壊しているのだからな」
仕方なく防御に徹した瞬間、空間に穴が空く。
「!?」「防御も遅い。もう充分だ、帰れ」
メディウムは空間のひずみに飲み込まれ、後に残ったのは…ディアマンテ。
「…チコラブ様は、無事に脱出できたんだろうな。ニフリート?」

豪腕とモップが交差する。何度モップ自体に攻撃を加えたか解らないが、その都度モップは豪腕を受け止めた。
「ナゼ、オデナイ?ゾンナ棒ギレ一本ガナゼオデノヂガダニダエドゥ?」
「あら、感触で解りません?この棒切れ、素材は樹木では有りませんのよ?」
競り合いが続く。「…其処ッ!!」一瞬の隙を突き、モップから針を数本飛ばす。
しかし、難なく豪腕で払い落とし、逆の手でジェイドの居た所に殴りかかる。
しかし、ジェイドは距離を詰めている。振りぬかれた腕を軸に、回転しながら近づいての一撃。
強烈な音が響き、アトラスがよろめく。その隙に、ジェイドはモップを振り下ろす為に構える。
「グ…ガァ!」倒れないようふんばった勢いでの頭突き。
しかし、ジェイドはタイミングを合わせてモップを繰り出す。
「ガ…!!」ごす…と、今までの音とは違う強烈な音が響く。
アトラスが倒れかかるのをモップの勢いに身を任せて跳び、下敷きにされないように避ける。
轟音を立てて巨体が床に伏し、…突如空いた空間の穴に落ちていく。
「…お掃除…完了。…たた、まだ痛みますね」

「おい、どういうことだ!クエスト中止ってよぉ!!」「あんまりですわ!!」
数多の罵倒が飛び交う中、GMが必死に二人のPCが行方不明になったということを告げる。
「…どういうことなんでしょう、チコラブさんはともかく、一般PCも行方不明、だなんて…」
「アンク君、微妙に酷いよ。それじゃあチコラブさんがなんか呼んでるっていってんのと同じよ?」
エリアのある一角で、黒月緋純、イデモン、アンク、アシュトレイ、リフィールにナイラが集まっていた。
「まさか、『宴』とやらか?」「それならありえるだろうね、ヒスミン」
「…おい、どういうことだ?なんか知ってんのかよ?」アシュトレイが二人の間に割って入る。
「…例の事件繋がりでしょうか」ナイラのその言葉に、言葉なく頷く二人。
「…チコラブさん、大丈夫かな…」「おおよそ重傷だったけどね」
「!?」一同、声のしたほうに向くと…見知った犬耳鰐尻尾。
「チコラブさん、一体どこへ行っていたんですか!?」
「ま、ちょいと罠にはめられて…何とか戻っては来たけど。…GMに話をしないと」
「…嬢ちゃん、その傷は?」「今は大丈夫。手当ては一応済んでいるから」
「チコラブさん、パートナーの方と失踪した、と聞きましたが…」「話は、後にさせてくれないかな…」
そう言って、チコラブは歩き出す。

このクエストは、新たな闘いへの招待状なのかもしれない。 チコラブはそう思いつつ、GMの近くまで歩いていく…