あるRTWPC達 第25話 パクられた世界のパクられた人たち

暗黒都市シンジュク。冥魔を狩るためにチコラブは其処にいたはずだった。
だが…ワープポイントを抜けると其処は洞窟の中。目の前に水鏡。
「…チコラブさん、これは一体どういうことなんでしょうね」横にはシンジュクに居ないはずのアンク。
「僕に聞かれても困るんだよねぇ…」警戒を解かずに暢気に答える。

不意に、水鏡の水面が揺れる。
「!」水鏡の上に二人の人影が出てくる。
…それは「…チコラブさん、どういうことでしょうか?何か僕たちが目の前に居るような」
「そりゃあ『試練の水鏡』とやらなんだし…これも試練でしょ?アンク君」
そう、その場に居るアンク、そしてチコラブである。
…だが、見た目が色々な点において違う。
アンクは銀髪、白い鎧…だが、もう一人のアンクは黒髪に黒い鎧を着込み、顔に黒い模様が入っている。
そして…もう一人のチコラブは緑髪、猫耳尻尾、白いチョーカーに小さな鈴。
「…なるほど。ウルザ岩窟寺院、かな」「なんですかそれは?」
「SO3の裏ダンジョンでね…こうやって2Pカラーの仲間たちと戦うのさ」
「ちょっと君たち、何訳のわからないことを言ってるのかな?」
「チコラブさん、…試練なら、早く倒して進みましょうよ」
もう一人のアンクが言い放ち、黒く、禍禍しい槍を構える。
「そうだね、それもそうだ…偽者の僕たち、覚悟してもらうよ?」
もう一人のチコラブは素早く無駄の無い動きで銃を抜く。
「…チコラブさん」「判った。…自分の事だから戦い方とか判ると思わないでね」

チコラブ達が居た場所の左手の方向に道がある…その道にアンクともう一人のアンクが飛び込んだ。
「「『跳弾』!」」チコラブ達の戦いは、銃弾で銃弾を弾き落とす戦いとなっている。
「さすが2Pカラー…強い!」「もう、何なんだよさっきから…」「「『アダムアップル』!!」」
同時に射線の同じ銃弾が放たれる。勿論、両者の中間で弾かれるのを
「「『跳弾』!」」銃弾で弾き、攻撃への布石とするのだが…やはり銃弾同士が衝突する。
「ああもう、埒のあかない…!?」詠唱にチコラブが気付く。
「時間よ、檻をなして絶望を振り払いたまえ…『ナグース』!」
チコラブを捕らえようとする大気を上手く回避する。
「「『ルイネーション』!!」」お互いの銃弾が弾かれる。
チコラブは無駄の無い動きで充填を済ませるが、もう一人のチコラブは…
「凍てつく風、鋭き氷片…舞い踊れ!『ストームガスト』!!」
「な…」チコラブが、吹雪に包まれた──

二人のアンクが進みながら金属のこすれる音を放っている。
(チコラブさんの言うとおり…僕が知ってる僕じゃない。予想外に強い…けど、僕も殆ど同程度かな)
そう考えて油断したアンクは、もう一人のアンクの詠唱に遅れて気付く。
「しま…」「冥き光は煌煌たる闇に落ち行く…『トライワイトナイトメア』!!」
漆黒の魔力がアンクを包み込む。
「ふっ!!」ブリューナクを振り、殆どの魔力を払いのける。
「甘いッ、『ドラグーンスマッシュ』!!」その隙を突き、もう一人のアンクが竜殺しの一撃を放つ。
金属音が鳴り響き、鮮血が舞った。

「ふふん♪ずいぶんあっけなかったね、僕の偽者は…」
猫尻尾をもてあそびながら呟くもう一人のチコラブ。
犬耳のチコラブは…壁に衝突したのか、ぐったりと座っている。
「…と、油断はまだ早いかな。なんてったって僕の偽者…しぶといんだろうねぇ」「勿論そのとおり」
「!?」もう一人のチコラブの足元に手榴弾が転がり…爆発する!
「おわぉっ、たたた!?」何とか回避するが…巨大な手裏剣が襲い掛かる!
「うひゃ!」たまらず、跳躍。着地して、向き直る。
「…やっぱり、第2ラウンド?」「勿論。今度は、遊んであげない」
刹那、チコラブの髪の色が栗色から銀色へと変わる。
「─!」「『クリスタルアイ』!!」撃ち出されたクリスタルの弾丸をもう一人のチコラブが避ける。
「…あはは、それは飾り?」「…避けなきゃ長生きできたかもね」「え?」
クリスタルの弾丸が壁に当たった瞬間、花が開くように弾丸が分裂、弾幕を展開する。
「うそぉっ!!?」「ほーらほら、逃げ惑え〜…『カメレオンスティング』!!」
弾丸がチコラブの目の前で分裂、凶悪な弾幕へと変化する。
「あ、ありえないっ!!」「全弾命中よろしくお願い。…『ナイトクラッシャー』!!」
もう一人のチコラブに鎖が巻きつく。「しまった…!」そして、弾丸と鉄球が襲い掛かる!!

鮮血は、漆黒の闇を抜け、白い鎧に付着した。
「くぅ…」「『ブランディッシュスピア』!!」
アンクはその隙を逃すまいと槍での一撃を加えるが…金属音が響き、弾かれた。
「負けるものかッ!」もう一人のアンクが槍を振りかぶり──
「ねぇ、君たち──…道を尋ねたいんだけど」
「「はぁ!?」」その暢気な声に戦意を喪失し…
「う、わわぁっ!?」「えぇっ!?」もう一人のアンクがアンクに体当たりする形となって押し倒す。
「…あれ、お楽しみ中だった?…ごめんなさい、お邪魔しちゃいましたー;」
やってきた犬耳の少女は2人に答える間も与えず去っていく。
「「ちっ、ちがっ…」」もう一人のアンクがアンクを押し倒す格好になったまま硬直する。
…少しして、我に返った。「…って、こんな事やってる場合じゃなく!」「そうだよ!僕達戦ってるんじゃん!」
「…この状況…もらったぁっ!」「『オートカウンター』!」
槍の一撃を流して殴りつけた。よろめいた隙に…「『地裂衝』!」
そしてそのまま「『聖獣神衝』!!」
その一撃で、もう一人のアンクは霧散消滅した。「…勝った、かな。あぁ、疲れた…」

「…冗談じゃない。何でこんなところも再現されているのさ?」「…」
あの一瞬に、戦況はひっくり返った。
緑色の髪が赤くなったかと思うと見事な手さばきで鎖と鉄球を破壊し、
さらに弾幕を展開して弾丸を全て叩き落したのである。
「…やっぱり、僕だ。自分が最強の敵…と言うのも、頷ける」
…冷気のような殺気が洞窟を包む。お互いの殺気がぶつかり合い、岩肌に生える苔や草を凍らせていく。
「大気よ唸れ、大地よ嘶け、全てを凍らす凶気の光──『フロストノヴァ』!!」
本来の効果範囲を越えて岩肌がたちまち凍りつく。
「そう来るなら…『ファイヤーストーム』!!」
自分の身に冷気が襲い掛かる直前を見極めて火弾を発射する。発射された火弾の一部がチコラブを冷気から護る。
「そして喰らえ『フリーズクラッカー』!!」
「冷厳なる刃よ、壁を成して真実を包み隠し、脅威より我を守れ…『アイスウォール』!!」
打ち出された氷塊と生成された氷壁が相殺しあう。
「「しぶといッ!『ウィンタースパイラル』!!」」同時に吹雪を放つが、これも相殺。
チコラブはその相殺地点へと走り…「!」もう一人のチコラブの眼前に迫って──
「でやぁっ!」「はぷっ!?」体全体を捻った尻尾の一撃。
「『ミニオンマシンガン』!!」吹き飛んだもう一人のチコラブにミニオンストライクを乱射する。
「くッ…!」もう一人のチコラブがミニオンストライクの嵐に機を取られている隙に
「貰った…『零距離バスター』!!」素早く懐に潜り込んでの攻撃。
もう一人のチコラブが吹き飛び、霧散消滅する。それを確認して髪の色が戻っていく。
「…っはは、流石に参った」「ねぇ、君──」
「!」反射的に銃を向ける。「わわっ、ちょ、私は怪しい人じゃ…って、先…チコラブさん?」
「…なんだ、ぱふぇちゃんか。警戒して損したよ」其処まで行った途端、水鏡に人影が現われる。
「…これ、なに?」「ぱふぇちゃん、がんばってら〜」
「…先」「がんばってら〜」にこやかな笑顔で有無を言わせない。

「…いやはや、なんとまあ予想外の事が…」洞窟の中、一人の男性が身を潜めていた。
「シズマっちゃん」チコラブがその男性の後ろを取るような位置に移動して呼びかける。
「はぁぁっ!?」「…やっぱりあんたが黒幕かな。この騒動」
チコラブは笑顔で、だが空っぽのような表情でシズマと呼んだ男性の後頭部に銃を突きつける。
「…なな、な何のここことでしょう?」ギギギ、と不自然な動きでチコラブの方を向くシズマ。
「僕をここに呼んだことだよ…ご丁寧にアンク君やぱふぇちゃんも一緒に、さ」
「いや、真澄さんから面白い情報を聞きつけまして…ってはぅッ!?」
…チコラブが急所を踏んでいる。「…見てたわけかな。そこで脅迫したいんだけど…」
「いや、この状況…取引っていったほうがスマートじゃありません?」
「どうせ取引じゃなくて脅迫の間違いでは、というでしょーに」
「…それで、なんでしょう?」「ここで見たことを忘れてください。…全部」
「あの、僕は実践データを取るために貴方たちを…ぐぎゅうっ!?」足に力をこめる。
「…忘れろ。でないと黒月さんと一緒に襲っちゃうぞ♪」言葉尻は可愛いが内容が全く恐ろしい。
「…ちょ、ちょっと」「却下」取り付く島も無い。
「いや、何を忘れろって…銀髪になる」「まだ言うか其処の糞GM」
残酷な笑顔をたたえて銃を突きつける。
「あんたGM言う割に本当にGMなのかというほど迂闊なことばかり…
 真澄の方がGMにふさわしいんじゃないかってくらいあんたGMに向いてないよ」
「ひ…ひぃ、お助けを…」「じゃあ、忘れなさい」強烈な殺気が立ち込める。
「え…あ…それは…」「却下。忘れなさい」静かにロックバスターのチャージをはじめる。


その後、シズマは自分の日記に「チコラブさんの後ろに鬼神を見た気がした…」と書いたとか書かなかったとか