あるRTWPC達 第11話 犬耳娘と銀の盾

ある場所、ある時刻に空中に浮かぶ城。…バーンパレスと呼ばれている。
そこに…100人弱の人影。
「OK、天空の鎧は俺が手に入れる。そしてモテモテDA!」
「ケケケ!コンナクエスト、楽勝サ!!」
「天空の鎧は、このチン・ピラー様が貰う!!」
「…早く始まれ〜」いろんな冒険者達がいる。
その中に、一人…明らかに周りの冒険者達とは違う風貌の少女が居た。

廃墟に、二人の人影が居た。 『どうした?チコラブ』狐のような皮を被った少女が口を開いた。 「ん、ああ。ちょっと思い出に浸っているだけだよ」 『…何の思い出だ?』「これの思い出」チコラブと呼ばれた犬耳の少女は鏡のような盾を見せる。 『…聞かせて、くれないか?』「ああ、いいよ」

「…しっかし、よく作られてるなぁ…」少女は、壁や天井を見つめている。 「…まさか、ヒムやシグマとかと戦わなきゃならない、かな」犬耳の少女が頭をかく。 「皆さん、お待たせしました」声のほうに振り返ると、そこにはまた違う風貌の男性…GMと呼ばれている。 そして、説明が始まる。このクエストの目的のBOSS『バーン』、注意事項。 そして、質問は無いかと聞いたGMに対し… 「ハイッ!!」少女の手が挙がった。その場に居た全員がそちらを振り向く。 犬耳、紅い首輪、ワニの尻尾をつけた女の子…明らかに場違いだ。 「プッ、おい、ガキ。テメェそんなナリで本当にこのクエストクリアできるのかぁ?」 「子供はおうちに帰って寝てな」「痛い目に遭うだけだぞ」 野次が飛んでくる。しかし、少女はそれを無視して… 「オリハルコンの戦士達、出るんですかね?」とだけ訊いた。 「…ええ。出現します。注意してください。  他には質問は…ありませんね。では、健闘を祈ります。クエスト、スタート!!」 大群が目の前の塔に走り出す。その場に残っているのは…GMと、少女。 「…行かないんですか?」GMが尋ねる。 「慌てる乞食はなんとやら…のんびりいきまっさ」外見に合わない台詞を吐いて、少女は歩き出した。

フェイヨンダンジョンの奥深く。 「…なあ、レツヤ、セリン。一体全体、チコラブさんってどんな人なんだ?」 軽装の装備をした少年が連れの鎧を着込んだ青年と黒髪の少女に尋ねる。 「俺が知るか。実際、黒月さんとかでないと分からないだろが」 「…知らない」「そうか…それで、黒月さんって誰だっけ?」 メシャッ。その音が、洞窟に響いた。

「はぁ!!」モンクの『発勁』が見事に入り、金属でできた女性が崩れ去る。 「…アルビナスは倒した。フェンブレン・ブロックも倒した…あとはヒム・シグマと…マキシマム、か」 青ポーションを飲みながら彼女は考えていた。そのとき。 少女の目の前には金属でできた…人の体に馬の頭が乗っかっている魔物。 「…シグマ!!」少女は、すぐさまウィザードにジョブチェンジすると、魔法を放った。 「…無駄だ」シグマと呼ばれた馬男が、盾を装着、魔法を跳ね返した。 「やっぱり…」回避しながら、考える。 此処まで原作どおり…『ダイの大冒険』で載っている事と似たようなジョブで金属の魔物を倒してきた。 「…喰らえ、アンクルズ!!」少女が闇の塊を打ち出す。 シグマは、それを跳ね返した。しかし、少女は既に移動している。 (…やっぱり、原作どおりには行かない、かな?)魔法を放つ。 …全て、跳ね返された。となると、彼女が考えるのは… 「盗んだるぁ!!」態度豹変。盗賊Lv1を装備してシグマの見えない距離から突っ込み、スティール。 …しかし、技量は向うのほうが上。無論、盗めるはずがない。 しかし、それが…今後、彼女の代名詞となる。

フェイヨンダンジョンの入り口近く。 「ここらで休憩しましょう、セブンさん」槍を装備した少年が魔術師の女性に言う。 「そうですねぇ〜」そういって魔術師の女性は座り込む。 「そういえば…なんでしたっけ、『シャハルの鏡を持つプレイヤーが居る』とか聞いた事があるんですけど〜」 「…誰だろうね?」

宝箱が地に落ちる。見ると、シグマが腕に装備していた盾がなくなっている。 「!儲け!ファアンクルズ!!ファアンクルズ!!アイスウォールにストームガスト!!」 連続で魔法を叩き込み、シグマが崩れ落ちる。 「…ふう、これで一生分の運、使い果たしたかもなぁ」チコラブは、宝箱を拾う。 中には…期待通り、シグマが装備していた…『シャハルの鏡』。 「さて、次はヒムか…よっと」パラディンにジョブチェンジ、グングニルを装備し、盾をどうするか… 「…シャハルは、おいておこう。ミスリルシールド…と」盾を装備したとたん、眼前に立ちはだかる金属人間。 「…パラディン、マスターしてた方がよかったかなぁ?」そのまま突撃。

「ふんっ!」気合と共に、彷徨う者の顔面に拳が入る。 「さて、と。次は誰が私の餌食に?」魔雷雲が飛び掛ってくる。無論、瞬殺。 「…チコラブさん、無事みたいだねぇ。アンク君も、何とかなってる、か」 そういうと、彼は魔物の群れに突っ込んでいく。

「オーラ・ナックル!!」「くッ!!」 金属が強くぶつかる音。先に膝を折ったのは…少女。 しかし…金属人間は、後ろに倒れる。インパクトの瞬間、少女はオートカウンターを発動させたのだ。 「…さて、次は…」塔の方を向き直ると…複数の巨大なチェスの駒が降って来た。 そして…でてきたのは「キィィ〜〜ング!!マキシマム!!」 「でたよ、ある意味兵士以下…」少女が頭を抱える。 「ゆけぃっ!!」10体の金属でできた兵士達が襲い掛かってくる。 「あああっ!!」少女は高く飛び上がり、槍を振り下ろす。 ただ、本能で仕掛けたそれが、必殺の一撃…全ての駒を一撃で破壊した。 「…ノォォ〜〜〜ウ!!」マキシマムが素っ頓狂な声をあげる。 「はい、通らしてもらいますよ」青ポーションを飲みながら横を通過する少女。 「…きょ、今日は此処までにしておこう…では、また会おうぞぉ〜〜!!」 ゴスッ。金属が金属を貫いた音。貫いたのは…グングニル。 「全く、彼ってば馬鹿だねぇ…」それだけ言うと、少女は槍を回収して塔の中に入っていった。

「プ〜ニャ〜〜(^〜^)」 蒼いフィールドで、女性と獣の骨を被った男性、猫耳のついた饅頭型の物体が居た。 「…」骨を被った男は、たいそう暇な様子。 「黒月さん、どうです?」猫耳をつけた女性と、饅頭型の物体。 「…いや、どうです?とか言われても」骨を被った男が困りつつ返す。

階段を上る少女が居た。 「…長いなぁ」いつまでも続くような錯覚を覚えつつも登っていく少女。 頂上では、なにやら爆音が響く。 「…ペース、あげようかな」そして、走る。 …しかし、数秒もしないうちに、眼前に何者かが立ちはだかる。 「なっ…!!」少女がいた。それも、『自分』と同じ…犬耳、赤い首輪、ワニの尻尾。 「…こんなの…聞いて…無い…」階段の下に居る少女が言う。 「うん、そのとおりだよ。僕は…このクエストには、『存在するわけが無い』」 「…ちっ、ザボエラ、か。この作品で、『モシャス』を使えるのはあんただけだしな。  全く、こっちのロールプレイの性格も真似るとは。恐れ入った」 「…いや、僕はこのクエストには『存在していない』んだよ。つまり、僕は…このクエストで、未知の存在と…」 アイスウォール。階段の上の少女の横を通り、手すりを破壊し、空中へと消えた。 「…そうか。『ドッペルゲンガー』、か。やれやれ。火属性武器持ってくればよかったかな?」 「確かに、僕は『火属性が苦手』だからね。…『ジオンガ』!!」 しかし、シャハルの鏡が魔法を跳ね返す。そして、もう一人の少女のシャハルの鏡が、その魔法を消滅させた。 「「…いくぞっ!!」」

「さあ、俺に相応しい武具よ、出てこい!!」 『ユウ・シャーよ……あなたは優しい心の持ち主のようですね  あなたにはこれを授けましょう……』 「ふはは!!これであの魔王を倒して見せる!!」 紅いマントのPCが、教会から走り去った…

「『ダークスピア』!!」少女が放った黒い塊は、シャハルの鏡に弾かれた。 「バレバレ!『ハイジャンプ』!!」しかし、その攻撃はかわされる。 「「…!!」」金属の擦れる音。お互いの武器が交わった。 「…やっぱ、一筋縄じゃいかない、か」「…そちらこそ。シャハルの鏡があるから、だろうけどね」 「「…だあっ!!」」ナイフが弾かれた。そして、槍が少女の胸につきつけられる。 「…僕の負け、か」「…もちろん。じゃあ、さよなら」そういいながら、心臓を槍で突いた。 槍を抜くと、少女は、階段を滑り落ちていく。 「…敵とはいえ、自分と同じ格好の相手と戦うってのは、どうも…ね」そういうと、少女は階段を上り始める。 「…そういえば、何でこのクエストのボス、『バーン』なんだろう?訊き忘れたなぁ…」こんな事を呟きながら。 ─────────────────その頃、最上階では… 「ぐはぁ!!」「げふっ!!」「ぐあっ!!」多数の冒険者が倒れ、どこかへ消える。 クエスト開始時には100人近くいた冒険者が、今では20人弱まで減っている。 「…馬鹿な、強すぎる…」そこにいた冒険者達は、絶句していた。

「ちっ…暇だ」火焔魔人の紋衣を着たPCが呟く。 「あんたがアシュトレイ、だったか?」男がそのPCに声をかける。 「ああ。暗殺の依頼か?」「そう、殺して欲しいのはチコラブっつー…」 「悪ぃが、そいつは対象外だ。他の奴を当たってくれや」

「…さて。どうするか。皆、策は?」冒険者達と合流した犬耳の少女が言う。 「ない」「ないです」「ねぇよ」返って来るのはこんな答えだけ。 「…じゃあさ、ちょっと耳貸して…」その場にいる全員でひそひそと話をする。 こんな芸当ができるのは…「ほらほら、どうしたクソヤロウ!!そんなんじゃこのチン・ピラー様は倒せねぇぞ、オラァ!!」 そう、囮を使っている為である。 「…それじゃ、行くよ!!」犬耳が両手に魔法を準備しつつ飛び出る。 瞬間、バーンの『天地魔闘』の2撃が犬耳の魔法を両方とも弾き…「『カイザーフェニックス』!!」 …直撃した。だが…「…跳…ね…返…ろぉ!!」腹に仕込んだ『シャハルの鏡』がそれを跳ね返す。 そして、冒険者達が総攻撃をかけた。

「『メロー・ファ』!!『ウォーターボール』!!」 イズルードのPvPエリアで、仮面の男が戦っている。 「ちぃ!!『ガストクラッ…」「『メロー・ファ』!!」 相手のPCが崩れ落ちる。「さて、今回の景品は何なんだろうかねぇ?」

「きつっ…」「死ぬ…」「全く…」死屍累々。しかしPCの体力が0であるわけではない。 精神的疲労やら肉体的疲労やらで立てない状態なだけである。 「…それで、誰に『天空の鎧』を渡せばいいんだろうな」GMの愚痴。 「…やっぱ、犬耳の、嬢ちゃん、だろ」「ああ、彼女の、おかげで…」冒険者達が口々に言う。 「…いや、皆さんの、おかげですよ…。僕だけじゃ、全然、無理です…」 「…俺、やっぱそれいらねえ」「ワタシモダ。彼女ニシカ合イソウニナイ」 「…満場一致で僕ですか」苦笑いしながら答える犬耳。 「そりゃ、そうだろ…受け取らないんだったら、PKしてやる…」 「いや、何でそこまで言われにゃならんのですか…」更に苦笑いする犬耳。

『…それで、その鎧はどうしたのだ?』 「ん〜、それは、ねぇ…」狐の皮を被った少女の耳に、犬耳の少女が顔を近づける。

そして、彼等は新しい時間を刻んでいく。