あるRTWPC達 第21話 決意。それはあまりに悲しくて

「…やめてくれ、ヘイムダル。いくらもともと敵だと言ったって、味方を失いたくは無い!」
「チコラブさん、貴方はあれと戦わなければならないんです!…お願いです、私の作戦に…」
「嫌だ、そんな事は出来ない…お願いだ、考え直してくれ!」

例によって例の如くチコラブの拠点、瓦礫の街…
「…さて、準備は万端…だね」「準備、出来た?それなら、空間、開く…」
「…全く、何故おまえたちはこうもトラブルを呼ぶのやら…」
ゲームマスターが愚痴を吐く。
「GM、固い事は言わずに…ね?ヒスミンもそう思うだろう?」
「まあ、な…」「…どうしたんだい?ヒスミン?」
怪訝な顔をする黒月…その視線の先にはチコラブが暢気に空間のひずみを作り出すのを眺めている。
「何か、違和感があるんだが…」「ヘイムダルちゃんがいないからじゃないかい?」
「それなら良いんだがな…」そう呟いたとほぼ同時、ニフリートが空間のひずみを開く。
「黒月さん、イデモンさん、行きましょうか」
ナイラが声をかけ、それに従うように空間のひずみへと歩いて行く。
『がんばってくれよ、皆…特に、チコラブ。帰って来い…!』

「うわぁ…」「ちょっと、冗談じゃないよ…」
ナイラとチコラブが今日が最初に絶句し、続いて出てきた黒月達も驚愕の色を見せる。
…RTWに出現しない筈の魔物たちが大量に待ち構えていた。
「なるほど…こりゃまた…」「…チコラブ様、黒月、イデモン、先、行って。敵、足止め、する」
「ブレッシング!速度増加!エンジェラス!グロリア!ハイシャープネス!…頼んだぞ」
「珍しいね、GMが支援に徹するなんてさ」チコラブが呟く。
「チコラブ様、黒月、イデモン…合図をしたら、行ってくれ」
ディアマンテの言葉に、三人がうなずく。
それを確認し、戦いの火蓋が切られる。

「…今です!行ってください!」「OK!行くよ、黒月さん、イデモンさん!」
海を渡るモーセの如く、魔物の海に道が出来た。そしてそれを渡るチコラブ達。
「…やっぱり、何か変だな…」「ヒスミン、だから気のせいだろう?」

豪華な調度品が並べられ、緑の絨毯が敷かれている廊下を疾走して行く三人。
「チコラブくん、後どれくらいだい?」「もうすぐなはず…」
そう言葉を交わし、廊下を曲がる。…急に体が軽くなったような気がする。
「…ピット、か」「忘れてた…」「どうするんだい?」
「…落ちるしかないでしょう?イデモンさん、黒月さん…」
チコラブがそう言った途端、三人の体が落下する。

「…ん、んん…?…あれ、僕は一体…?
 …空間のひずみ、向こうに見えるのは大量の魔物、そして手元のレビテーションカイト…まさか!」

ピットはそれぞれが独立していた。薄い壁にさえぎられてそれぞれが別の空間へと落ちる。
「…えーと、確か…ヘイムダルの話だと、此処は迷宮になってるんだってさ…」
「…やれやれ、全く面倒だな」「そうだね、ヒスミン」
「まあ、先を急ぎましょう、黒月さんにイデモンさん」
「そうだね、さっさと進もうか、ヒスミン」「…ああ…」
黒月は疑問を抱えながら、他の二人は早く『兵器』を破壊するために…目の前の闇へと歩を進めた。

「…!?馬鹿な、チコラブ様!?先に進んだのでは…!?」
「実は、気付いたらヘイムダルに気絶させられてて…おそらく、先に入った僕はヘイムダルだよ…!」
「と、とにかく…チコラブ様、今の突入は危険」「大丈夫。盗賊アビと凧があるから…ね」
そう呟き、空から入り口へと向かう…もう一人のチコラブが居た。

光が溢れる部屋に、先刻のチコラブとは違うチコラブと、もう一人…女性がたたずんでいた。
「…ヘイムダル。茶番はお終いになさい」
「…ばればれ…ですか。流石ですね、ヴォイド」チコラブの姿が薄くなり、ヘイムダルが現われる。
「貴方は光を操る…忘れていたわ。それで、銃王は貴方を捨て駒にした、と」
「違います。私の意思、我侭で…チコラブさんは、『あれ』へと向かっている…」
「それで、どうするの?貴方を倒し、彼女を妨害するのは容易い事よ」
「彼女はパンドラの箱に残った光。そして私はすでに外に出た闇。
 闇は光にあこがれ、闇を裏切った。けれども闇は光とともに歩めはしない…」
「…何が言いたいのかしら?」ヴォイドが苛ついたように腕を指で叩く。
「それを知った闇は、光を包む闇とともに無へと落ちる…
 …つまり、こういうことですよ」ヘイムダルがヴォイドに歩み寄る。「『ファイナルバースト』」
…部屋が、爆炎に包まれた。

豪華な調度品が並べられ、緑の絨毯が敷かれている廊下を飛んでいくチコラブ。
廊下を曲がったところに、ピットを発見したが…飛行しているので無視。
直後、轟音が響いた。「…これは、まさか自爆技!?」
思わず着地しそうになるが複数のピットが仕掛けられている可能性を考慮してそのまま飛んでいく。
「ヘイムダルの大馬鹿野郎…!!」涙が、絨毯を濡らした。

暫く飛行し、重厚な扉が見えた。
「…此処が、ラストの部屋か」「待ち…なさい!」
重傷を負ったヴォイドが何も無いところから扉の前に出てきた。
「…悪いけど、大ボス前に消耗するつもりは無い」チコラブがバスターシューターを構える。
「違うわ…警告よ…!主は…私たちに…『あれ』を…起動させて…この世界を…壊そうと…しているの。
 …けども…『あれ』は…私たちが…制御…出来るものじゃ…無い…!
 『あれ』は…私たちの…力を…上回る…!」貴方には…倒せ…」
「どうせやらなきゃならないんだ。選択肢は『やる』しかないんだし。…どいてほしい」
「…馬鹿ね…貴方は…」「馬鹿で結構。行かせてもらうよ」
「健闘を…祈るわ…もって…行きなさい…」
消え行くヴォイドの投げたものを受け取る。…指輪。強力な魔力が篭っている。
「…有難う。有効に使わせてもらうよ」

「…貴様…ヴォイドを退けたか…」山の如く巨大な『モノ』が在った。
「…アンタが『兵器』かい?」「…我を…破壊する、と…?」
「まあね。…全力を出させてもらう!」「ふん…貴様如きで…倒せるとでも…思うか」」
『兵器』の肩の機関銃が火を吹く。チコラブはそれを難なく回避し…
「『パルス・エミッション』!」短いレーザーを数発発射。
「こざかしいっ!」ケーブルを鞭代わりにレーザーを叩き落す『兵器』。
「『イセリアル・ブラスト』!」その隙を突き、膨大な光帯を放つ。
「まだまだッ!!『ディーンドライブ・F・H』!!」
いまだ光帯を照射するチコラブの真下から、もう一人…半透明の分身が音速を超える連続攻撃を繰り出す。
さらにもう一体の分身が、ただ一点のみを打ち抜く連射を放つ。
「…エネルギー充填120%、対反動防御ON、ターゲットロックオン…波動砲、発射!」
負けじと光帯を放つ『兵器』、しかしチコラブはすでに回り込み…
「バスターシューター、フォルムチェンジ…ソード!『エンド・オブ・ハート』!!」
バスターシューターを剣に変形させ、さらに神速の斬撃を繰り出す。
そしてさらにもう一体の分身がただ一点のみを貫くように銃弾を放つ。
「ぐぅッ…調子に…乗るなぁッ!!」ケーブルでの攻撃でチコラブのバランスが崩れ、其処に熱線が放たれる。
(しまっ…!避けられない…!!)

「『メロー・ファ』!!」「『デモンズランス』!!」
熱線を水弾がさえぎり、黒い槍がチコラブのセイントローブに刺さるようにして彼女を護る。
その攻撃を放ったのは…「…黒さん、イデモンさん…」
「…やっぱりヘイムダルが化けていたのか?」「え?ヒスミン、何を言って…」
「貴様らァァァッ!!!」ケーブルでの攻撃が飛んでくる。だが…
「ふっ!!…どういうことなんだい?ヒスミン、チコラブくん」ケーブルを殴り払うイデモン。
「よっと…その話は後!早くこいつを倒さないと…!!」身軽な身のこなしでケーブルを回避するチコラブ。
「ああ、そうだな…」そして、ケーブルを全く意に介せず切り払った黒月緋純。
…いや、切り払ったかと思えばすでに『兵器』の懐に入り、刃を閃かせていた。
「さすが黒さん…なら、僕だって…!クローンスキル『十七分割』!!」
チコラブも負けじとバスターシューターを剣に変化させ、黒月の動きを真似るかのように斬る。
イデモンは魔法で鞭のように襲い掛かるケーブルを薙ぎ払い、熱線をさえぎる。
「エネルギー充填120%、対ショック防御問題無し、すべてのターゲットロックオン完了…拡散波動砲!!」
三人とも即座にクリーミーカードを装備、即座にテレポートする。しかし…
「…かかったな…ははは、もう全ての破壊に興味は無い…貴様らを道連れにしてくれる!!」
「な…!?」「しま…」「ミニオンシールドォ!間に合えぇぇぇ!!」
刹那、轟音とともに炎と閃光が部屋を包んだ…

「…くそ、間に合わなかったか?  …!なるほど…チコラブさん、アンタはやはり俺が見込んだ人だ…」