あるRTWPC達 第8話 球技大会のある妙技

Ragnarok The Worldの中、炎天下の下に白いボールが宙を舞う。
ここは、港の都市アルベルタ。今はバレーボール大会が開かれているのだ。

「喰らえ僕の分裂魔球〜〜〜♪」犬耳の少女がアタックを仕掛ける。
真っ白なボールが二手に分かれて相手コートに襲い掛かる。
「おい、お前はあっち頼む!!」PCはボールを追いかける。
左側に言ったボールは何とか拾ったが、右側のボールが地面に突き刺さる。
「…!!これ、ポリンじゃねえか!!」右側のボールを見てPCが絶句した。
ホイッスル。「おい!!何でだよ!!」悪態をつくPC。
「ここ、ここ♪」犬耳の少女が指差す先には…バレーのボール。
「…じゃあ、あれは何なんだよ!?」宙を舞うボールを指差して言う。
「…これ、ポリンじゃない!!」女性のPCがボールを見て絶句する。
「おい、ポリンってピンクじゃねぇのかよ!!反則だ!!」
…このビーチバレー大会ではこれは反則ではないのだが。
この大会では技を使ってボールを破壊したりPCに攻撃を加えたりすれば反則ではあるが、
この場合は意図的に攻撃はしていない。よって、反則とは認められないのだ。

犬耳の少女は、体にフィットした黒いインナースーツで出場している。
インナースーツから出ているワニの尻尾が揺れている。
「…チコラブさんって、本当に何者なんだよ」こんな事を言う少年の名はカズ。
「結局前もはぐらかされたしなぁ…」レツヤという名の青年が応える。
そんな二人をよそに…
「白い…ポリン…?」花柄のワンピース型の水着を着た少女。名前はセリン。
「や〜、昨日色つけてたんだよ〜♪ホントは元から白いポリンがいればよかったんだけどね」
…おい、ミニオンストライクってそんなこともできるのか?

────────────────────っとと、忘れてた。
ミニオンストライクとは、「テンサウザリンカード」を装備したときに使える技で、
いくらかの固定ダメージを与える技である。
ちなみに、この技はポリンを投げつけるエフェクトだ。

「やあ、チコラブくん」仮面のPCがやってきた。
このクソ暑い中黒いローブに仮面…なにやら不気味なPCである。
「ああ、イデモンさん。次の準決勝、負けませんよ〜」
そんなPCに対して、笑顔を向ける。
「って、次の対戦相手はよりによってアンタかよ…」
レツヤが口をはさむ。
「はっはっは、ヒスミンもいるから無事ではすまないと思いなさい」
「あっはっは、冗談でしょ?こっちは強力なメンバーなんだから」
実際、チコラブはバレーは下手であるが白いポリンを使った魔球という技を持つ。
さらに、カズはバレーボール部に所属、レツヤは社内バレーボール大会のエース、
セリンはママさんバレーの大会で上位に食い込むチームの一員なのである。
正直、こんな面子に勝てる相手というのは、プロの軍団以外に考えられない。
…まあ、チコラブだけは魔球を使うだけでただのド素人ではあるのだが。

そして、「白球の魔術師」対「異端の者達」の戦いが始まった。
「異端の者達」のメンバーは、
リーダーの「異端の探求者」黒月緋純。ずば抜けた運動能力でこれまでの相手を倒してきた。
「カードマンサー・ed」のイデモンは、水の魔法を使い、ボールを拾ったりブロックしたりと大活躍。
ジノとアシュトレイは特に目立ったプレイはしていない。とりあえず人並みのことはやってはいるが。

ジャンプボールは、「異端の者達」が取った。いや、「白球の魔術師」があえて渡したのだが。
「ほれ、灰皿!やってやれ!!」黒月がトスした。
「俺は…灰皿じゃ…ねぇ!!」アシュトレイの強烈なレシーブ。
しかし、セリンは何事もなかったかのように拾う。
そして、宙に舞う白球と黒い影。
「来るぞ、気をつけろ!!」「異端の者達」全員が身構えた。
「魔球、雨あられ〜♪」白いボールがいくつも「異端の者達」コートに襲い掛かる。
「オラオラオラオラァ!!」「くっ、多すぎる!!」
4人が振ってくる白い物体を捌いていると…ホイッスル。
「イン!!」審判が言った。
チコラブがポリンを放っている間に、カズがアタックを仕掛けていたのだ。
「陽動作戦、成功〜♪」

「…ならば、こっちもだ!!」イデモンは、テンサウザリンカードを装備して言った。
ホイッスル。カズが放ったボールをジノが拾った。
「じゃあ、イデモン。パス」黒月はトスをしながら言った。
「行くぞ!!魔球、雨あられ!!」
…が、イデモンは忘れていた。そのため、「白球の魔術師」フィールドはピンクに染まった。
結局、また「白球の魔術師」チームの得点だった。

最終的に、圧倒的なゲームだった。
「…あれは…反則だろが…」「…まあ、ルール的には問題無いんだが…」
「疲れた〜(*_*)」
日陰でねっころがる三人。そんな三人をよそに…
「おやおや、三人とも。もうダウンかい?」一人元気なイデモン。
SSを撮ったばかりなのだろう、なぜか声が生き生きしていた。
「…」反応もできない黒月。
「わっほ〜、黒さん」…チコラブだ。
「あ、チコラブくん。一つ聞きたいんだが…」
「あ、あれは昨日色つけたから白いんです。だからその場で真似はできませんよ♪」
「な、なんだってー!!」イデモンはなにやらM○Rのようなリアクションをとった。

…で、まあその後も圧勝で優勝。まあ、この面子ならプロにも負けなさそうな勢いではあるが。
そして、海上で漂う数人の影。
「ふぅ〜、ちょいとEN使いすぎちゃったなぁ…」浮き輪にはまったチコラブが言う。
「青ポーション100個ぐらいつかってなかったか?チコラブさん」
「いや、正確に言えば87個。100個にはおよばねえぞ、レツ」
クロールで並んで泳いでるカズヤとレツが言う。
「あれはなしですよぉ〜(*Д*)」ジノが口をはさんだ。
「勝てばよかろうなのだ。byカーズ」チコラブは訳の分からない事を言う。
「おい、ちょ、どけぇぇぇ!!」アシュトレイがサーフボードに乗って突っ込んできた。
「ほえ?」そう言った瞬間、アシュトレイの体は宙を舞った。
アシュトレイは波止場に上手く着地した。では、チコラブは?
「…チコラブさん、大丈夫?」セレンの声。
見ると、チコラブらしきPCの足が海から生えている。

さて、ぶつかった瞬間に何が起こったのか。
まず、チコラブは浮き輪で海に浮かんでいた。ここは分かっている。
そこに、方向を間違えたアシュトレイが突っ込んでくる。
そして、アシュトレイの声でチコラブが振り返る。当たる直前で、サーフボードは海面を離れた。
その後、サーフボードは見事にチコラブの首に直撃。首輪は外していなかったものの、かなりの衝撃だ。
そして、サーフボードとアシュトレイは宙に舞い、チコラブはひっくり返った、というわけだ。

「…ああ、死ぬかと思った」チコラブがぐったりとした顔で言う。
「…なあ、チコラブさん。さっきなんか妙に笑っちまってスクショとったんだが…見るか?」
「見る〜」カズヤにスクリーンショットを見せてもらうと…
「…犬神家の一族だぁ…」そこには足をV字に開き、海面に突き刺さるチコラブが写っていた。
「…おい、何だよ。その犬神家の一族っつぅのは。おい、鎧。テメェ何か知らんか?」アシュトレイが訊く。
「鎧言うな、灰皿。犬神家の一族っつーと…金田一耕介?」カズヤが言う。
「…?そうだけど、カズさんも知らないの〜?」…いや、知ってるほうが少ないだろ?

夕刻。アシュトレイとジノはすでにこの場を離れている。
「さて、それじゃあフェイヨンダンジョンに行くか!!」カズヤが意気込む。
「ごめん、まだ首のダメージ残ってるから僕パス。代わりに経験値もって行って」
「いや、それはチコラブさんが自分でレベルアップに使いなよ」レツが言う。
「…そう。私達が使うことはないわ」セリンも言う。
「…んにゃ、僕もう落ちようかと思っているからさ。首痛いし」
「ああ、そういやチコラブさん首にボード当てられたしな」
「じゃ、乙〜」「…お疲れ様」「じゃ、チコラブさん、またな」
「うん、じゃ。みんな、乙〜」

その夜、チコラブは布団の中で首を抑えていたそうな。