あるRTWPC達 外伝1話 人は何を想うのか

Ragnarok The World──それは、現世に構築された、ある一つの空間。 この世界には数多の人間がいる。あるものは戦う為。あるものは親しむ為…。 今日はその一部である数人のPCの日常を覗いてみよう。
ドアをノックする人の気配。そしてすぐに扉が開き、男性が現れた。 「初めまして…かな?アンク君」中華風の服を着た男性がベッドに横たわる少年に言葉を投げかける。 「え…と、チコラブさん…ですか?」ベッドに横たわる少年が起き上がり恐る恐る聞く。 「…いや、流石に私は高校生、という感じじゃないでしょう」男性は苦笑いしながら少年に言葉を返す。 「あ、すみません…。じゃあ、…ナイラさん、ですか?」 「ああ。出来れば一目で当てていただきたかった…というのは酷かもしれませんね。  さて、最近の調子は如何ですか?学校で上手くやっていっているそうですね」 ───────────────────アンク 操作者は足の不自由な少年。地属性で、主に槍を使用する。 名前の由来は彼の宝物のアンクから。近所の教会に住む少女から貰ったものである。 自分の足で歩くことの楽しみに、RTWを起動する毎日である。 ───────────────────ナイラ 操作者は旅行会社に勤務している男性。水属性で、主に打撃技を使用する。 名前の由来はナイル川からもじったもの。なかなかの好青年で、テニスが得意。 いつのまにか居る、といった事が多い。だが影は薄くないという、まさに神出鬼没の男。 「忘れ物はなし…と。それじゃあ、行ってきまーす」ショルダーバッグを携えた少女が玄関をくぐる。 「…全く。何で俺様が買い物に付きあわにゃならんのだ?」車の鍵を小指で回しながら青年が玄関から出て来る。 次の瞬間。鍵がすっぽ抜け、植え込みの中に飛び込んだ。 「馬鹿兄、早く行くよ、早くしないとセールが終わっちゃう〜!!」 「わ、分かった。分かったからせかすな…」 その後、少女は目的のものを買えたかどうかは…今は分からない。 ───────────────────リフィール 操作者は活発な女子中学生。火属性で、攻撃力至上主義である。 名前の由来は『なんとなく綺麗だから』。スポーツ万能、頭脳明晰だが、弱点は馬鹿な兄が居るということ。 操作キャラは幼女ではあるが、侮れない戦闘力を持つ。 ───────────────────ユウ・シャー 操作者は馬鹿な青年。雷属性で、ワンマンプレイヤー。 年甲斐も無く未だ勇者にあこがれている。名前の由来はそれから。 チコラブにいちゃもんをつけたために悲惨な目にあっている。 「社長、リストラが妥当と思われる人物をピックアップしておきました」眼鏡をかけた男性が豪華な部屋に居る。 「…ああ、ありがとう。机の上に置いておいてくれんか?」豪華な部屋の窓の外を見ているのは初老の男性。 「それと、あのプランはコストをもう少し削減できます。こちらに関連書類を置いておくので目を通しておいてください」 「うむ、ありがとう。野村君。キミは本当に頑張り者だね。如何だい?今日、一緒に飲みに行く、というのは」 「ええ。社長、ご一緒させていただきます。それでは、他にも仕事が山積みですので、これで…」 「うむ。頑張ってくれ」それを聞くと、眼鏡の男性──野村烈矢──は部屋を出た。 ───────────────────レツヤ 操作者は有名会社の部長。風属性で、仲間思いである。 名前の由来は自分の名前から。一家の大黒柱であり、社内ではとても信頼されている。 年下のカズとはリアルでも何度か遊んだ友人。 「いやあ、まさかあんたがセリンさんだとはなぁ…。どっかで見たような打ち方すると思ったらよぉ…」 ファーストフード店で青年と優しそうな中年の女性が向かい合って座っている。 「ふふ、意外でしょ?娘もRTWやってるけど『別人だ』って言われちゃったわ」 「そりゃあ、ギャップがすごいからなぁ…」青年がポテトを口に入れる。 「チコラブさんと同じくロールプレイしてるのよ」女性が魚のフライを口に運ぶ。 「…そういや、セリンさん。チコラブさんに会ったことある?」 「無いわよ、残念ながら。流石に大阪まで行くお金、へそくりにないもの」 「…俺としては、一度会ってみたいんだよなぁ…」 ───────────────────カズ 操作者は男子高校生。雷属性で、色々と器用。 名前の由来は自分の名前から2文字もじった。スポーツは得意だが、勉強はダメダメ。 チコラブに色々と謎を抱きつつも、結局はぐらかされている。 ───────────────────セリン 操作者は二児の主婦。火属性で、寡黙な少女を演じている。 名前の由来は夫に反対された『娘につけてみたい名前』の一つ。本来は優しいおばちゃん。 カズやレツヤとよくPTを組む。 「ねえ、お母さん。もしも、この病気が治ったら…遊園地、連れて行ってね?」 「ええ…」白い病室のベッドに横たわる少女と、その少女の手を握る女性。 「…さあ、今日はもうお父さんたちは帰るから…ね?」女性の後ろに立つ、スーツの男性が云う。 「うん。明日も来てね?」「ええ、大丈夫よ…」微笑み合う少女と女性。 パタン。と、病室のドアが閉まり、白い空間の中には彼女一人が残った。 ────────そして、数刻後。彼女は、亡き者となる。 『…と、言うような夢を見た』瓦礫のあふれ返る街にたたずむ2人の少女の影。 「夢を見た。ってあんた…」犬耳の少女が狐皮を被った少女に言う。 『…如何した?チコラブ』「それ、お前さんの前世じゃあ…」 『そのような事言われても、私は知らん』「お前、俺に似てきたな…」 ───────────────────レーニャ 操作者は居ない。いや、居ないというよりはプログラムに魂が憑依したものと思われる。 『レーニャ』とは、チコラブがつけた。意味はなく、もともと別のゲームキャラにイメージでつけたものをそのまま使っている。 チコラブ以外のPCに出会ったことは無い。 ───────────────────チコラブ 操作者は男子高校生。冷属性で自分の趣味に味付けしたキャラクターを演じる。 名前の由来はハンドルネームから。もともとの由来は『チコリータ・ラブ』である。 RTWではフェイヨンを拠点に色々とうろついている。
さて、これから彼等がどのような運命を紡いでいくのか… それは、『神のみぞ知る』とでも言うべきであろう。 ─願わくば、平穏な時を。幸福な時間を。そして…満足の行く運命を─