あるRTWPC達 第22話 精神世界の死闘

漆黒の空間に二人の人影が浮かぶ…
「…さて、其処の嘘吐き…てめぇ心中するとか言ってなかったか?」
「殺戮貴や狩人を巻き込めなかったのは惜しい…だが、我がそう簡単に死ぬと…思うなぁッ!!」
空間を金色が埋め尽くしていく。
それに従うかの如く片方の人影…大人の男が翼を広げる。
「…おいおい、冗談じゃあねぇ…」もう一人の人影…高校生らしき男が絶句する。
「大丈夫だ、チコラブさん。あんたは、自分が思う『最強の姿』を思い浮かべればいい」
ポニーテールの女性が金色の光の中から現われる。
「き…貴様、何処から!?」天使が驚愕する。
「俺にとって『侵入』する事何ざお手の物なんだよ。
 例え陸の孤島とも言われる刑務所だろうが侵入困難といわれるスーパーコンピューターだろうが、
 真空の壁で囲まれた部屋だろうが…精神世界でも例外じゃあない」
「…おまえさんは、一体何者だ?」
高校生姿からロングヘアに白いロングコートを着、
それぞれの手にロングソードを携えた姿へと変貌した男が尋ねる。
「大丈夫だ、チコラブさん…ジェイドやヒュドールの主、とでも言えばいいだろう」
「そうか…貴様、我の力が行使されるのを邪魔した女かッ!!」
「Yes,I do…悪いけど、此処で幕を引くにはちょいとばかり早いんだからねぇ」
「おっと、俺を無視してちゃあ…死ぬぞ?其処の嘘吐き」
天使の居る高さよりも高く跳躍したロングコートの男…チコラブが両手の剣を閃かせる。
「図に乗るなッ、サル風情がぁっ!!」羽が鋭い刃となり、チコラブに襲い掛かる。
…が、上空のチコラブは幻となって消えた。「何処を見てるんだ?」「何っ!?」
「虚栄の闇を払い、真実なる姿現せ、あるがままに…『アルテマ』!」
強力な波動が天使を襲う。「さすがチコラブさん…隙が無いな?『ヘイスト』!」
チコラブの動きが速くなる。「まだまだ遅いんだがなっ!…『MAXIMAM SONIC』!!」
次の瞬間、…一瞬で数歩も離れた場所へ移動している。
「…どうした?遅すぎるぜ、もっと俺を楽しませてくれるんじゃないのか?」
天使の翼が切り落とされる。…いや、切り落とされていた。
「…え?おい、チコラブさん…一体何時斬ったんだよ?」
「なぁに、高速で動いただけ…見えないのも、無理は…無い!」
超高速での斬撃が繰り出される。

天使がが金色の世界を、鮮血を闇に移して消えて行く…
「…終わり、か。たいした事言っていたくせに弱いなぁ?なぁ、チコラブさん」
「ふぅ、やれやれ。、気付かないか?この空気に…何も?」「…?どういうことだ?」
──何故、貴様らは生きる?──
「!?…こ、これは!!」闇から響く声が確かに聞こえた。
「流石ラスボス様、しぶとさは伊達じゃない…か。ったく、勘弁願いたいなぁ!」
──何故、貴様らは生まれる?──
「えーと、君…名前、何だ?」「真澄。…逃げようってか?」
「いや、逃げろ」「正気かオイ。…大体、一人で勝てる相手じゃないって判ってんだろ?」
「…正直、あんたほどのやり手が此処で死ぬには惜しいからな。
 同じ死ぬなら、俺一人で十分。…後は黒さんらに任せるさ」
──何故、貴様らは存在する?──
「身勝手なッ!後に残されるものの寂しさが、アンタには判らないのか!?」
「関係の無い他人を巻き込むのは嫌なんでな。それに、作業は一人でやりたいタイプなんだ」
「関係ない他人だと!?おまえを助けたのあいつらの主は誰だ!
 あんたを助けるために様々な妨害工作をしたのは誰だ!!」
──何故、消えるとわかっているのに存在する?──
「…アンタには感謝するが…ようやくわかってきたんだ。此処が何処なのか…。
 俺の精神世界だ、全部尻拭いは俺がしなけりゃならん…」
「けどっ!」言いかけた真澄の口に人差し指を当てる。
「何もあんたは俺の世界で死ぬ必要は無い。俺も俺の世界で死なせるつもりは無い。
 …OK?」その言葉に、真澄はゆっくりと頷く。
「…馬鹿野郎、死ぬなよ」真澄は闇に溶け込むかのように消えていった。
──何故だ?何故だ?何故だ?──
「…ならば何故、お前は存在する?所詮無の中の有なんて無の見る夢だ…
 無限の無が有限の有に憧れる…泡沫の夢。何故お前もそれにしがみつく必要がある?
 …その答えも出せないような奴に何故生きるかを問われたくないな」
──ダマレ、ダマレ、ダマレダマレェェェ!!──
…世界が、揺れた。

『敵』は、大樹の姿を借りて現われた。
「もう…この世界には消えてもらう!貴様の体でこの世界など破壊し尽くしてくれる!!」
「ほざけ…てめぇにゃたっぷりと例をしなきゃならん…今までやりたい放題やってきてくれた分を!」
チコラブが一瞬で『敵』の後ろに回りこむ。「『エンドオブハート』!!」
流れるように『敵』を切り裂く。しかし…「オオオォォォッッ!!」
木の枝やつたがチコラブに襲い掛かる。チコラブはそれを避け…喰らう。
「なっ…!!」「まだ撹乱できるとでも思ったか?」「現に引っかかってるじゃん」
「何…!?」なんと、チコラブは…四人もいる!!
「4枚の死神に囲まれる恐怖…どうだい?『ゾッ』とするだろう…?」
「『スパイラルピアース』!!」「『ハイパーショット』!!」「『ビッグインパクト』!!」
それぞれが槍で、銃で、拳で技を放つ。「調子に乗るなぁ!!」
『敵』の体から衝撃波が放たれ、技を繰り出した三人のチコラブが消し飛ぶ。
「…さて、散々てこずらせてくれた…なぁ?」「…」
「さぁ…とどめだぁ!!」大木がチコラブを押しつぶすように襲い掛かる。
…いつのまにか出来ていた大地にそれが破壊痕を作り出す。
「な…なんだとっ!?」チコラブは既に上空へと逃れていた。
「やっぱりちゃっかり引っかかってくれてるじゃんよ…『ファントムスラスト』!!」
不可視の速さの斬撃が繰り出される。今の彼ならば問題の無い速さではあるのだ。
「がああァァ…貴様…舐めるなぁぁ!!」「ふっ!!」
最後の悪あがき、と繰り出させる枝やつたを切り払う…しかし
「…おいおい、冗談だろ?まじかよ…」虚空に浮かぶ飛空挺へと、変化していた。
「くくく…やはり、機械の体がなじむ…」「…本気を出していなかった、と言うことか」
「貴様とて同じ事だろう?」「全く…黒さんのこといえないなぁ、俺も…」
「さて…おしゃべりは此処までだ!!」飛空挺の砲門がチコラブのいる方向へと向く。
「死ねぇっ!!」火薬がはじけ、闇に光が差す。
「…そんなちゃちなもんを当てれるほど今の俺は」「遅くないぞ?」
弾丸が直撃するかと思われたその瞬間、チコラブは既に走り出していた。
「くそッ…ちょこまかと!!」弾丸を発射する直前に苦無を砲門に投げ込み、暴発させる。
「ぐぉっ…」「とどめだ…『神速斬空閃』!!」懐にもぐりこんだチコラブは必殺の一閃を放つ。
その閃光は、飛空挺の強固な装甲を切り裂き、中枢部を確実に切り裂いた。
「…じゃあな、機械ヤロォ」「馬鹿な…我が…我が…消えるぅゥ!?」
そして、世界が崩れていく…

「…とまぁ、これが今回の事件の概要な訳ですが…」例によって瓦礫の町。
「…ですが、何だ?」「信じてもらえるかどうか」「私はチコラブさんの事を信じますが」
『私も同じ意見だ。…チコラブを疑う事など毛頭無いのだがな』
「…ま、嘘みたいな話だから疑われるかと思ったけどもねぇ…」
犬耳を片方寝かせて苦い表情をするチコラブ。
「そういえば…誰があそこから連れ出してくれたんだ?」
「さぁねぇ…誰が連れ出したんだろうねぇ?」「…あの感触は女の子だったねぇ」
「「…エロ魔人」」黒月とチコラブが口を揃えて言葉を吐き捨てる。
「ちょ、ちょっと待った!何でそれだけでそう言われなきゃならないのかね、ヒスミン、チコラブくん!
 特にチコラブくん!君に言われる筋合いは「筋合いは…?」
気付けば、いつのまにかチコラブがイデモンの首筋に銃を突きつけている。
「…まぁ、とにかくまだまだバグフィックスを重ねないとならんな…」
「んじゃ、協力しますよ」「ならば手始めに此処を」威嚇射撃。
「冗談だ、冗談だ!…まぁ、なにやらハッキングされたような形跡も有るからな。
 ファイアーウォールも改良をしなければならないな」
「…さてと、それじゃあ皆でBOT狩りにでも繰り出しますか♪」

「…やっぱり、出るタイミングが無かったなぁ」
レーニャしかいない瓦礫の町にレーニャのものではない声が響く。
『うむ。…だが、チコラブはまたここに来るさ。そのときに出ればいいだろう?』
「そうだな、レーニャちゃん。さすがチコラブさんの友人…」
『真澄、だったな…。お前ならすぐに仲良くなれるだろうさ。ただ、不正をしなければな』
「あはは、そういうことかい?不正はしてないって」