あるRTWPC達 第6話 街は危険がいっぱいDA☆

「さって、今日もPvPにでも行くかな。ヒスミンつかまんないし─────
黒い人影がぐらりと倒れ、…まあ、何かがつぶれたような音を出した。
後ろには、不機嫌そうな犬耳の少女が人影のローブを踏んでいた。
「つつ…。おや、君は…チコラブくん?何か用かい?」
「何か用かい?じゃ無くって…君のおかげで僕の友達がPvPで勝てないから、さ」
「はっはっは、それは只の修行不足と…
銃の音が響いた。黒い人影は某バトル映画を彷彿とさせるような姿勢(ブリッジ)でかわしていた。
「あのね、君。いいレベルこいてPvP30レベル30や15になんか出てるんじゃないよ?」
「…いいじゃないか、若気の至りと
また、銃の音。2連続で、それも綺麗にかわされた。もともと、当てるつもりなど無いようだが。
「…(怒」冷たい殺気と黒い威圧が犬耳の少女より発せられる。

彼らは、有名なPC──まぁ、どちらが有名かはおいといて──である。
黒い人影はイデモン。現在実装されている職業を全てマスターし、主に魔術系、
たまにノービスを使って「なんちゃって3次職」ということをやっている。
犬耳の少女はチコラブ。現在は唯一シャハルの鏡を持つPC。
赤いぶかぶかの首輪と、ワニの尻尾をつけている。一応ネカマ。

─────────────────────────そして、PvPエリア。
「…全く、ミステイク」イデモンが杖を振り上げながら言った。
「君は魔法よく使うって聞いたからね」チコラブはポリンを手に持ちイデモンを殴っている。
「…ミニオンストライク、そんな使い方は無いだろ?」
「ポリンもう一匹呼ぼうか?」
傍目には、チコラブが怒っているとは思えない、なぜかほほえましい戦いであった。

「…また?」闘技場前。またイデモンが立っている。
「…こっちが言いたいよ」またチコラブも立っている。
「「懲りない人だねぇ…」」同時。

また、PvPエリア。
「…酷い。シャハル+ゴスリンcなんて…」
「更にアンバーcと一万c」チコラブはまたポリンでイデモンを殴打している。
やはり、ほほえましいような気がする戦い。

「さすがに3度目は…」
「来ないだろうと思っていたのに…」
二人とも、同じタイミングで呆れる。

略。

「仕方ない、BOT狩りにでも行こうか…」
「といいつつPvPに来ないでください」また闘技場の前で問答する二人。
「やれやれ、飽きないねぇ」
「お互い様です」そういいきらないうちに、事件は起こった。
「おい、そこの二人、どいてくれないか?」銃使い系のPCのようである。
その手には…なにやら時折ノイズの入る銃が…
(…?あれは…アーティラリーシビリアン!?けど…)
「あの、ちょっと聞きたいんですけど、それ、どこで手に入れたんですか?」
「…関係ないだろう?それよりも、どいてくれないか?」
「いえ、関係ないことは無いんです。何故、その銃がここにあるのか…。
 それは黒さんの七夜の宝刀や、シューゴ君の黄昏の腕輪、僕のシャハルの鏡と同クラスの武器です。
 それに、ノイズが…」銃声が響いた。石畳が朱に染まり、その色はだんだん薄くなって消えていく。
「…ぐだぐだ言ってんじゃねぇ。俺がどんな銃をどこで手に入れようとお前には関係ないだろ!?」
イデモンの威圧がPCに放たれる。
「すまないが、ゲームマスターに連絡したところ「この場から動かさないでくれ」って来たからね。
 できれば、おとなしく動かないで頂きた
「邪魔だ!!」PCはイデモンの頭に銃口を向け、トリガーを引いた。
銃弾が放たれた。鉄と鉄のぶつかる音が響く。
一瞬の静寂の後────「イデモンさん、大丈夫!!?」
間一髪。イデモンが気付いた時には、銃弾は回避できなかったのだ。
代わりに、PCの銃は…水辺ギリギリのところで停止している。
さほど離れていないように見えるが、…かなりの威圧感がこの場を包んでいる。
一歩でも動けば、二人からの攻撃を受けるような状況である。
「…チコラブくんこそ、大丈夫かい?」
見れば、チコラブは左肩から血が流れ出している。
「…GMが来るまで何とかしますよ」
「…お前ら、いい加減にしろ!!俺がどうしたって…」
銃弾がPCのほほをかする。
「この期に及んで、開き直るなん…」
絶句。PCの背後に───────────エンシェントデビル。
「…あ?」PCが振り向いた。ニタリと笑うエンシェントデビ────
「邪魔だ!!」イデモンがセイントダイアナックルを思いっきり振りぬいた。
エンシェントデビルは宙に舞い、跳んできたPCにニ分割される。
そのPCは──────────────────────
「黒さん!!」ジューダスタイプ、「異端の探求者」黒月緋純である。
「────チコラブくん!!」イデモンが叫ぶ。背後からのユピテルサンダー。
「…くっ!!」チコラブは、装備していたシャハルの鏡でユピテルサンダーを跳ね返した。
しかし、重さが重さのため、力が入る。そのため、血が吹き出た。
「…ぁっ!!」そのまま慣性の法則で後ろのPCに直撃した。
「おい、大丈夫か!?」黒月が焦る。だが、まあこんなときにはたいてい助けの手が来るわけで…
「リプス!!」魔雷雲と殴り合っていたプリーストが、いきなり回復魔法を放ってくれた。
まあ、ネットゲームではこんなこともある。いきなり貴重な蘇生アイテム3個を使うPCだっている。
「ありがと〜」今の回復魔法で大体傷がふさがった。
回復魔法を放ったプリーストは笑顔を返し、今度は近くにいたグレースライムと戦う。

枝テロを鎮圧し、男の身柄を引渡す。
「…やっぱり、これはチート品のようですね。ありがとうございます」ゲームマスターが礼をする。
「チコラブくんが言い出さなかったら、見逃してましたし」
「ええ、ノイズが見えてましたし」チコラブは、照れくさそうに言う。
「…ノイズ?何に?」黒月が訊く。
「え?あのアーティラリーだけど?ほら、またノイズが」銃にノイズがかかった。
「ああ、なるほど。もともと禁忌装備というのは一部のデータがまだ不安定なんですよ」

「…あ。そういえば」イデモンが何かを思い出したかのように言った。
「二人とも禁忌装備持ってるんだよねぇ?」
「「…それが?」」同時に切り返した。
「…俺も禁忌装備が欲しい。」
「「あはははははは…」」

────────────────やるせない一日が、地平線の向うへ消えていく…