あるRTWPC達 第16話 乱す者と収める者

「…全く、こんな事ならもっと早く相談していただければ力になるというのに…」
「御免、ナイラさん。確かにナイラさんはそう言う性格だったよね」
「ゲームマスターを相手に回すなんて、とってもわくわく〜♪」と、斧を背負った少女
「…リフィール、あんた、黒さんやないんやから」犬耳の少女が苦笑いしながら突っ込む。
「…しかしまあ、灰皿。お前もよくやる気になって…」「灰皿じゃねぇっつってんだろぉが…!」
「…さて。この中でGMと戦った事のある変人は」「誰が変人だ」短刀を抜きながら返す男。
「冗談だよ、黒さん」『…お前達はいつもこんなやりとりをやっているのか』

…此処は、瓦礫の街。その中で装備を整える9人の人影が居た。
此処に居る者全てが、ある目的を持っている。
──ラグナロク・オンラインのボス、月夜花のような少女──レーニャを、守る。──
最初に決意したのは、犬耳の少女チコラブ。…中身は男だが。
短刀を抜こうとした男は、黒月緋純。チコラブとともに、『フェイヨンの三奇人』と呼ばれる一人。
レーニャと談笑しているジャケットの少女は、ジノ。…黒月のおかげで運がn(十七分割
…気を取り直して、黒髪の寡黙な少女、セリン。チコラブとよくPTを組む少女だ。
中国風の服を見事に着こなしている眼鏡の男はナイラという名である。
槍の点検を行っている少年の名はアンク。二人とも、チコラブの友人のようなものだ。
短髪の男、アシュトレイはチコラブと戦った事がある。そのときは惨敗だったが。
そして、幼女でありながら大斧を背負っているのがリフィール。愛すべき熱血火力馬k(炎帝覇王段
…まあ兎に角、こんな面子が集まっている。
そして今しがたカオスゲートを抜けて現れた仮面の人影は、イデモン。『三奇人』の最後の一人だ。

「…レツヤさん来ないね」「…仕方ないわ」
チコラブの発言にセリンが答える。「あの二人は性格上GM側ね」
「…ということは、カズ君にレツヤさんが向こう側、か」
「となれば、注意するのはGMだけだね」「…違うわ、リフィールちゃん」「ほえ?」
「あの二人は、最近連携攻撃にはまっていて…GMや他PCの支援があれば手を焼くかもしれないわ」
「大丈夫ですよ、いざとなれば私とリフィール、チコラブさんで何とかなるでしょう」
「そういえば前に一緒に居た竜人の人は?」「天龍?関係無いから見とくって言ってた」
「…あ、アイネとセブンからだ」「どうしました?」「一緒にいくってさ。誰か迎えに…」
と言いかけた瞬間、カオスゲートから3人の人影が。
「…ああ、アイネ、セブンに…誰?」「あ、ダリア、お帰り〜、で、アイネやんにセブンちゃんいらっしゃい〜」
「ただいまです、チコラブさん。此処に入りたいっていう女の子二人見つけたんで入れましたけど」
「OKだよ」「ああ、よかった…向こうの人だったら、とんでもない事ですよね…」

──蒼い、フィールド。GM用の『倉庫』である。
紅いマントの青年に、軽装の少年、それに重装の青年が、GMたちと共に居た。
「…信じられんな、あのチコラブがバグを隠している、というのは…」GMの一人が口を開く。
「俺様は奴ならいつかやると思っていたがな」紅いマントの男が返す。
「…俺だって信じられねぇんだ。チコラブさんがそんな事をするなんて…」
「確かに…最近のチコラブくんは変な挙動が多かしな…」少年の言葉に対し、青年が返す。
「兎に角、カズさんのおかげでバグも除けますしね」別のGMが呟く。
「…よし、皆準備は大丈夫だな?いくぞ!」其処に集まった三百人近くの冒険者達がそれに答える。

『…来るぞ、チコラブ!』「…わかった、レーニャは隠れて」皆がそれぞれ決戦用の装備を施し、カオスゲートに向く。
カオスゲートに人影が現れたのより早く、レーニャは隠れた。「…何故だ、チコラブ」
GMがその睨む目のように問う。「何故、お前がこんな事を…」その表情には、驚きと怒りが入り交ざっている。
「…あいつはバグじゃない、ちゃんとした『魂』の入った…人間なんだ」毅然とした表情で返す。
「…黒月、イデモン。並びに他のプレイヤー、考え直せ。今なら」「悪いが、俺はこっちに付く」
「皆はもともとそのつもりで来たんだよ、GM」黒月とイデモンが続けて口を開く。
「…交渉の余地無し、か」「けど、この程度は予想してただろう?」
「お前達全員のアカウントを剥奪する!強制排除信号!!」GMが叫ぶが…何も起こらない。
「…そりゃあ無理。だって此処はRTWの外…GM権限は使えない!」チコラブが得意げにGMを指差す。
「…くそっ!」「七梨、こういうときのために彼等が来てくれたんですから」GMのその言葉に応じるかのごとく構える冒険者達。
「…GM、カズ君、レツヤさん…君たちにレーニャは渡さないッ!!」
その一言で、戦いの火蓋は落ちた。

「喰らえ、『マスターストライク』!!」チコラブの一撃で何人かが纏めて薙ぎ倒される。
「…ふッ!!」黒月は『十七分割』を、「はぁぁぁぁ!!」イデモンは魔法と技を駆使して冒険者を倒していく。
他のメンバーも、善戦している。戦況はチコラブ側に傾いている。『フェイヨンの三奇人』は、名実ともに評価が高い。
それを相手にする事でGM側の士気は落ちているのだ。微かでも、充分戦況に変化が起こる。

見る見るうちに体力を使い果たした冒険者が増える。。…もちろん、ポーションの瓶もだ。
「残りは…GM諸氏にカズ君、レツヤさん…」チコラブは其処まで言ったとたん…
「!?」何か、いやな予感を感じ、レーニャが隠れているほうへ走る。「チ、チコラブさん!?」
そして、──「レーニャ、危ないッ!!」レーニャをかばうように突き飛ばす。
『!?』「!?」刹那、誰もが驚いた。──チコラブが、消失したからだ。
「まさか…インティミデイト!?」「…なんだって?」ナイラの言葉に黒月がすかさず尋ねる。
「ラグナロクオンラインにおけるローグのスキルで、自分と攻撃相手を同じマップのどこかへとテレポートさせるスキルです!」
「…馬鹿な、あれは実装していないのに…何故、効果が発揮される?」『チコラブ、何処だ!何処に居る!!』

「く…まずい…」──仲間と引き剥がされた。それも、状態は万全じゃない。
…だが、この状態でもある程度の敵なら対処はできる。しかし──(みずかDOP以上の存在感──こいつ、一体!?)
ドッペルゲンガー以上の威圧感と殺気を放つ悪魔。生半可な者ならば気絶しかねない、それが目の前に居る。
(とにかく)「先手必勝シカナイ、カ?」「!?」──読まれた!?驚きと不安、恐怖がチコラブを支配する。
「ククク、ちこらぶトヤラ、オ前ハ全クモッテ素晴ラシイ…。ソコデダ、貴様ノ攻撃ヲ一発クラッテヤロウ」
(…どういうことだ?自分をわざわざ不利に…いや、俺を倒せる自信がある、ということか…)
チコラブは恐怖を振り払うように首を振る。「ナルホド、ア奴ガ言ウダケノコトハアル。マダ諦メテイナイ目ダ」
(ち…一体、こいつ何者だ…!?…けど、気弱になっても仕方が無い、…全力で行かなければ、確実に負ける相手なんだ!!)
其処まで思考を張り巡らし、装備していた左手銃を外し…青いラグビーボール状のものを腕にはめる。
「其処まで言うんなら…喰らえ!!チャージバスターッ!!」膨大な質量の閃光とともに、爆音が響いた。

『チコラブ、返事をしてくれぇッ!!』レーニャは既に泣いている。涙が石畳に染み込み、消えていった。
…爆音。「…なッ!?」「これは…!?」『チコラブッ!!』レーニャが音のした方向へと走り出す。
「レーニャさん!!」アンクが追い、残ったメンバーもその後を追う。

「ムン!!」悪魔の腕が、瓦礫を引き裂いた。チコラブが銃弾を放つ。空になった弾倉に弾を込め、そしてまた放つ。
それ全てが悪魔へと直接飛ぶのではない。瓦礫に跳ね返り、前後左右から銃弾が襲い掛かる。
しかし…「ムゥン!!」全方向から迫り来る銃弾を振り払った。。
「もらった!マスターストライク!!」チコラブはそれによって出来た隙を狙い撃ち込む。
…だが、本来の目的はこれではない。悪魔がマスターストライクを薙ぎ払った次の瞬間…
「二丁拳銃…集中砲火!!」目一杯の銃弾と光弾を放つ。悪魔はとっさに腕を戻そうとするが、遅い。
全ての弾が命中した。しかし、悪魔は仕返しと言わんばかりに腕を振りぬく。
「うあっ!!」ミニオンストライクで生成した巨大ポリンを盾にしたが、それでも衝撃波は収まらない。
後ろにあるビル(これも廃墟だが)へと数回バウンドしながら吹き飛ばされる。
…いや、なすがままに吹き飛んでいるのではなく、自分で跳ねているのだ。衝撃を逃がす為に。
そしてビルの壁面に着地・・・しかし、相手は既に間合いを詰め
「チャージバスター!!」チコラブは正面の悪魔に巨大な光弾を放ち悪魔はそれを弾き
そのまま返す腕で殴りつけるがチコラブは崩れそうなビルという特性を利用して反動を上手く使い
向こう側に抜け悪魔が瓦礫に埋まったかと思いきや其処から飛び出し…(以下、激闘続く)

『チコラ…』レーニャが飛来するチコラブを確認した瞬間、チコラブは滑りながら着地し、巨大な光弾を放つ
…防御された。『チコラブ、奴は…?』お互い、息が上がり、満身創痍だ。
間もなく、他のメンバーも集まってくる。しかし…向こうのほうも使い魔が悪魔の元へ駆けつけてきた。
「…総力戦か」「オ前達ハ犬耳ノ周りノ者ヲ任セル。近ヅケサセルナ」
その言葉と同時に使い魔達が黒月たちに襲い掛かる。しかし──
「オートサポート!!」GMによって能力が強化された…「『炎帝覇王断』!!」
「『水龍神掌』!!」『ファイアーボール!!』様々な攻撃が放たれる。
「もらった!」と黒月が突っ込む。イデモンも殆ど同時に突っ込む。
「『夢幻操武』!!」「『ドラグーンスマッシュ』!!」

金属音が、響いた。
──気付けば、黒月とイデモンは互いに向き合い、互いの武器で技を止めていた。
「な…!!」「これは…!」「二人とも、其処から離れて!!」
遅かった。悪魔の腕が振り抜かれ、二人とも吹き飛ぶ。「黒さん、イデモンさん!!」
しかし彼等とて伊達に高レベルではないのだ。ダメージを受けた素振り無く二人は着地した。
「…どういうことだ?」見れば…悪魔の前に女性が立っていた。
「…逃げろ」「スマヌナ。退クゾ、者ドモヨ」と同時に悪魔と使い魔達は逃げ出す。
「待てッ!」「GM、此処は追わないほうが得策ですよ」追おうとするGMをナイラが止める。
「…さて、お前達には用は無い。用があるのは」「俺か」チコラブは満身創痍の体で怒気を発する。
「悪いけど、チコラブくんは下がって…」次の瞬間、金属音が響いた。
「なっ…!?」誰一人、この現象の指す意味がわからなかった。
瞬間移動したチコラブと女性を除いて。そして女性は瞬間移動を行う。
「こういうことだ。そいつ以外、貴様等に万に一つも勝ち目は無い」
「…今のこの状態じゃ、俺だって勝ち目は無いけど」女性の言葉にチコラブがツッコミを入れる。
「…どういうことだ?説明…」「それは後で。…離れて欲しいな」すぐさまチコラブが返す。
「『ラリプス』!『エンジェラス』!『速度増加』!『ブレッシング』!『グロリア』!『ハイシャープネス』!
 …ならば後でこの説明をしてもらうからな、チコラブ」それだけ言うと、三人のGMは後退した。
他の皆も、チコラブをはげまして退いた。そして…二人だけが残った。

「『時空停止』!」「『タイムストッパー』!」時の進まない空間に二人が飛び込む。
「『銀の殺人鬼』!」斬撃衝撃波を辺りに放つ。其の衝撃波の中から、何本ものナイフがチコラブめがけて襲い掛かる。
「…永夜抄ルナの弾のほうがよほど難しいっての」そう言いながらギリギリ当たらない位置でナイフをかわす。
しかし、衝撃波はまだ消えていない。…第二波だ。今度は逃げ場が無い。上空すらもナイフで埋め尽くされる!
「カモン…『弾丸流星群』!!」チコラブが上げた手を振り下ろすと、弾丸の雨がチコラブの周りに降り注ぐ。
ナイフを叩き落し、さらに跳弾で女性を狙う。「ふっ!」見事な剣捌きで銃弾を叩き落す。
そして、舞台の時が進む。「『運命喰い』!」数本のナイフを放ち、其処から多数のナイフを召喚する。
「それごとぶち抜く!チャージバスター!!」巨大な光弾を放つ。──時間が止まり、お互いの攻撃が停止する。
其処から、銃弾やナイフが飛び交っていく。お互い有効なダメージが与えられない。
「く…此処まで強いとは…!!」「防御よりも回避なんでね、遠距離での戦いはこっちにアドバンテージがあるんだよっ!」
女性はナイフを連続召喚、数で圧倒するという作戦だ。
対してチコラブは跳弾でナイフを弾き、ビリヤードの要領で女性の自傷を狙う。

その激しい戦いは、唐突に終わった。「…埒があかんな」「全くもって」
お互い7割強ほど力を尽くした。しかしこのままでは決着はつかない…
「…来い。貴様の全力をぶつけろ」「…ならば、存分に」
そう言うとチコラブは集中を始め、女性は防御を固める。「喰らえぇぇっ!!」膨大な光帯が女性に襲い掛かる。
「…な!」女性の足が地面にめり込む。チコラブはまだ光帯を照射している。

数分後…
「…くそ…まだ…倒れないなんて…」「貴様とて…同じことだ…」お互い力を使い果たしている。
「…此処のところは…退かせてもらう…」それだけ言うと、女性は闇へと消えた。
「…戻る、べきだな…」ポーション類の蓋を開けながら仲間のところへ歩いていく。
「ククク…モラッタ!」悪魔の声とともに、衝撃波がチコラブへと襲い掛かる。
「がはぁっ!!」直撃した。そのまま瓦礫の山に突っ込む。
「ハハハ…隙ダラケダッタナァ!!アヤツカラ退ケト言ワレタトキニハコノヨウナコトハナカッタノダガ…」
体を動かすことが出来ない。チコラブは、虚ろな目で悪魔を見つめる。
「サテ…トドメダァッ!!」腕が振りぬかれる。衝撃波が──来ない?
「ナ…ナンダ…ト…?」腕が無い。いや、良く見れば足も無い。悪魔は急降下する。
そして、悪魔が最後に見たのは自分の切り離された胴と…黒衣の剣鬼だった。
「大丈夫か?」「…全然」大丈夫なはずが無いのだが。
「…ほれ、白ポット」「…さんきゅ」黒月はアルケミストにジョブチェンジし、白い液体の入ったポーション瓶をチコラブに使う。
「ん〜…」「で、どうだった?あの女は」「相討ち」目に光が戻った。しかしまあ、見た目はボロボロである。
「…肩、貸そうか?」「おんぶしてくれたら…嬉しいけど…」「…子供か(汗」「冗談、何とかなるさ」

「…で、あの女は?」「相討ち」カオスゲート前の広場にチコラブは戻っていた。
「それよりもGM、レーニャのことだけど…」「…解った、不問にしといてやる」
「…ありがと、GM」男女問わずかわいい物好きなら魅了してしまうような笑顔で言う。
「…さて、事の端末を説明していただきましょうか」さっきとは違うGMが尋ねる。
「えーと…事の端末とか言われても」「あの悪魔と女性の事です」
「…えーと、狙われた理由はさっぱり。拉致られたのは、レーニャが危ない目にあいそうという勘。
 あの女の人は時間を止める能力を持ってる」「時間を…止めるだと!?」
「…良く帰って来れたねぇ」「…ま、ね。これのおかげだよ」といいつつ左手の物を見せる。
「…?何だそれは?」「…え?GMも解らない?」「ああ、そんな物、プログラムした覚えが無い!」
「…ど、どうしましょう…」「…まあいい」「あはは…お手数かけます…」

「それじゃあ、レーニャの無罪放免(?)を祝して…」『乾杯!』レーニャの後に皆が続く。
飲み物にポーション類を代用し、ピュアスノーで売られているアイテムで宴会を開いている。
「や〜、ばれたときにはどうなる事かと思ったよぉ」チコラブは女キャラ連中と雑談を
「灰皿、丁度いい機会だ。…もう一回、やるか?」「灰皿じゃねぇっつぅの!!」
黒月はアシュトレイをおちょくり、戦いに。一方イデモンはイデモンでアンクにカードを見せている。
「このカード余ってるから売ろうか?」「良いですよ、これは自力で入手したいので…」こんな感じに。
「…チコラブさん」セリンが呼びかける。「カズ君のことだけど…」
「あ、別に気にしないよ。あれが彼等の正義だったって事で。あ、そうそう、これからもPTよろしくって伝えといて」
「ええ、わかったわ」セリンは笑顔でそれを言うと、メールを打ち始める。

戦いはまだ終わっていない。 だが、それでも…彼等にひと時の安らぎあれ。