あるRTWPC達 第33話 実際にこうなる確率はものすごく低いです。

「冥魔が現れたぞー!!」「南の方らしい、急ぐぞ!!」
暗黒都市、シンジュク。町ではあるのだが、モンスターが出没する地域だ。
銃器類はここにしか売っていなく、そのためにここまで来るプレイヤーが多い。
彼女…御堂サキと名乗る少女もそのためにここに訪れていた。
「…冥魔、かぁ…何時になれば倒せるんだろう…」
彼女は、このRTWを初めてまだ数日しか経っていない新人である。
このときも、彼女は次にジョブチェンジする銃器職のための武器を買い揃えていたのだ。
カオスゲートに向けた足が止まる。…目の前には、エンシェントデビル。
「…え、枝テロ?」「みたいだね…冥魔狩りの妨害みたいな感じかな」
「…え?」答えを期待していなかった呟きに返答が帰ってくる…周囲には誰もいないはずだった。
「200本なんて奮発しちゃって…一般人の迷惑も考えなよ。…思わないかい?」
慌てて声のした右側を見る。…犬耳の少女が、空を跳び…
「二丁拳銃、集中砲火!」エンシェントデビルに銃弾を放つ!

「ひいー!」「ぎゃー!」…悲鳴が聞こえる。
「…あ、あの…ありがとうございます」「まだ枝テロは鎮圧しきってないからね…っと」
エンシェントデビルを屠った少女が、悲鳴のした方向を向く。
「…わぁい、何この地獄絵図。DOPが5匹…かぁ」状況を把握した少女は青ざめている。
「え…DOPって、ドッペルゲンガー!?あの…絶望が服着て歩いてるようなものと噂の…!?」
「うん。…ほんっと、嫌な編隊だよ。佐祐理に栞と舞、それに真琴が2体、かぁ…」
「…ど、どうするんですか?いくらあゆちゃんや名雪さんが居ないと言っても…」
「ん〜、どうするかなぁ…逃げらんないし…おや?」
見れば、カオスゲートから獣の骨をかぶった男性が出て来る。
続いて、仮面をかぶったPC、眼鏡を掛けた中国風の服を着た男性、槍を携えた重装備の少年が出てきた。
「おお!天の助けだ!何とかなる!!」言って、走り出す。
「あ、あの…」「君はここにいて!危ないから!!」
「は…はい…」サキは、走っていく少女の背中を見送ることしかできなかった。
「…あ」さくっと言う音がしそうな勢いで少女が刺された。

「…すごい、何?あの動き…」互角…いや、それ以上の戦いだった。
PCの動きが尋常ではない。少女が跳んだ先に仮面ローブの男がDOPを殴り飛ばし、少女がそれを蹴ってまた跳ぶ。
DOPのよける方向を骨仮面の男の攻撃に入れる。少年の攻撃を戻したところに中国服の男がその隙をカバーする。
…見事な連携が其処にあった。やがて、DOPが残り一人となった。が…
ぞわっ。
サキの背筋がこわばる。とっさにその場から離れる。
「…っ!?」間一髪。死角からの攻撃を何とか回避できた。
だがそれは偶然。サキの足はもつれ、地面に尻を打ち付ける。
「あ…嘘…」…目の前に、名雪が居た。正確には、名雪DOP。
名雪が…疾る。眼前の少女を、倒すために。

衝撃が走る音。肉が、地面を転がる。…だが、サキの頭は、異常を感じてはいない。
…ゆっくりと目を開ける。
「いやぁ、間一髪。…大丈夫かな?」…少女がいた。
「え…?な…なん…で…?」先ほどの激戦にはその少女が加わっていた。
たった一瞬、一秒にも満たない僅かな時間でここまで来れるはずはない距離だった。
「理由はおおっぴらに話せないんだ。それに、名雪をどうにかしないと、ね」
少女の視線の先を見れば…吹き飛ばされていたのだろう、名雪が立ち上がっていた。
「…!!」名雪の高速攻撃を銃のグリップで、左手の青いラグビーボール状の機械で弾く少女。
「逃げて!」「は…はいっ!!」サキは、反対方向に走り…出せなかった。
反対側には、みずかが居た…
「…はっ、どーゆー絶望のバーゲンセールよ。200本でDOP7匹たぁなぁ!!」
「…えっ!?」気配を感じたのか。突然、少女の口調が変わる。
「これでカウント10か…ま、しゃあねぇな」「いや、使わなくても大丈夫だ」
走ってきた獣仮面の男が、みずかを綺麗に十七分割にした。
「ナイス黒さん。さすが十七分割m──「何か言ったか?」
「いえいえ。…もっせぃ!!」一手の差を狙い、名雪を吹き飛ばした。
「二丁拳銃──集中砲火!!」そのまま、名雪に銃弾の嵐を浴びせる。
「…その掛け声、気が抜けるんだけど?」「いーじゃんよ。個人の自由やー」

「…流石チコラブさん。16発全てでワンホイールショットをなさるとは」
「誉めても何もでないよ、ナイラさん」少女が中国服の男に笑顔で答える。
「でも、すごいじゃないですか。DOPを一撃で…」「アンク君?君は大きな勘違いをしているようだねぇ」
「…な、なんですか?イデモンさん…」少年が不思議そうな顔をする。
「状況を考えてみなよ?僕達を除く全滅した状態で彼女を狙った。
 ということはつまり足止めされていたたんだよ。高レベルPCに」
「ああ。でないと十七分割できないよ?」しれっと言い放つ骨仮面の男。
「さて、と…だいぶ順番が狂いすぎちゃったけど、君の名前は?…の前に、こちらから。
 僕の名前はチコラブ。公式認可の非公式攻略をHPでやってるよ」
「え…ええぇっ!?貴方が…あの、チコラブさん!?
 じゃ、じゃあ…其処の仮面の人二人と併せて『フェイヨンの三奇人』って呼ばれてるんですか!?」
「…ま、まぁ」「リアルラックがないのはヒスミンだけで十分だy」仮面ローブの男の頭に短剣が刺される。
「…やれやれ。自己紹介をする前にもう一仕事、か」「脈絡がなさすぎ…無粋ねぇ」
仮面ローブの男が短剣を抜きながら、5人は振り向く。…空間がゆがんでいる。
それはビホルダーのごとく…いや、ビホルダーではない。
触覚ではなく、無数の手が目玉から生えていた。
「…こ、これは?」「なぁんだ、レギオンアイ…かぁ」
「なんだじゃないぞ、まったく…厄介な相手なんだ」「真正面からまともに戦えばね」
チコラブが構える。──その眼は、目玉をしっかりと捉えた。
「二丁拳銃──精密砲火」弾丸が、ただ真っ直ぐに目玉…黒眼へと走る。
腕が妨害へと向かうが、迎撃をも計算した精密な銃弾にはかすりもせずに、
16発の弾丸が、目玉をしっかりと撃ち抜いた。
「ほらこのとおり。一撃さ」「…なんだかなぁ」
「合成技…ですか。本当、チコラブさんは普通じゃあありませんね」
「そうですよ、この間のエドガ戦だって寒いジョークを言って敵味方無差別に凍らせてましたし…」
「…?特に問題ないじゃない。バードで放ったんでしょ?」
「甘いな、イデモンさん。布団が吹っ飛んだ!ふ、飛んだのはそれだけじゃない!」
…ぱきーん。チコラブの無駄にポーズをつけたジョークで、チコラブを除く全員が凍る。
「…なるほど、こういうことかよ」「確かに異常だね、チコラブくんは」
「みょほほ〜…」「みょほほーじゃないですよ、もう…」
「でもとどめは刺せんかったよ。凰花さんにやられてね…」「とどめ云々ではないのでは…」

「それでは、ありがとうございました。チコラブさんと黒月さんとイデモンさんとナイラさんとアンクさん」
「…後半端折ればいいと思うよ。流石に長すぎ…(汗」苦笑しながらチコラブが手を振る。
「あ、そだ。これあげるよ」そう言ってチコラブがサキに投げ渡したのは…Wドライブ。
「え…え!?こんな高価なもの、いただいても良いんですか!?」
「構わにゃーよ。二丁拳銃やしそれ以外で銃使うときは片手銃の方が性に合っとるもん。
 …ま、本音を言えばダブってるからなんだけどねぇ」
「…これ、確かPvPの懸賞じゃあ…」Wドライブを持ったまま言う。
「ん、仲間内でやりあったときにもらっちゃってね。
 イデモンさんと違って他のプレイや様には迷惑はかけてないよ」
「これチミ、ひどいじゃないか」「これチミ、反論できるとお思いかね?」
イデモンの抗議に嫌な笑顔で返すチコラブ。
「じゃ、がんばって」「あ、はい…ありがとうございます」
そう言って、チコラブ達はカオスゲートを抜けていった。
「…そういえばあの人たち、何しにここまで来たんだろう?」
答え、全員冥魔狩り。枝テロ中に終わったためにそのまま帰りました。