あるRTWPC達 第27話 魔王、銀髪鬼、断罪者、そして…

──チコラブは、走っていた。
暗黒都市シンジュクで黒月の姿を見つけたが、様子がおかしい…来い、とでも言いたげに、路地裏へと入る。
其処は未実装マップ。…薄暗いビル林の中をチコラブは黒月めがけて走り抜ける。

…薄暗い闘技場に出た。
「…どういうことだ?」「こっちだってどういうことか訊きたいなぁ、黒さん」
「…誘ったのはそっちだろう?」「…全く、とぼけるんですか?黒さん」
「そちらがとぼけているんだろう」「…やれやれ、黒さんももうボケる年ですかぁ〜ッと」
一見暢気な会話。だが、…闘気が渦巻いている。
「やるのか?俺としては先の件もあるし穏便に済ませたいが…」
「とか言いつつちゃっかり戦闘体勢入ってるくせに…」
不思議な事が起こっている。
黒月の周囲は闘技場の闇より一層冥く、全てを溶かし込み…
チコラブの周囲はまるで其処で何かが発光してるかのごとく光が闇を貪っている。
「勝ったら本当の事を」「勿論負けても本当の事しか言わないけど」

埃が、舞った。
金属音。

だが、二人は微動だにしていない。
黒月のマントが浮き、チコラブの髪が輝く…先の金属音が、戦いの証。
「ッ!」「『スラッシュクロー』!」互いの片手の武器が飛ぶ。
『虎王』が、『スパイブレイク』が主の手を離れ、跳ねる。
中心点をそのままに二人が動く。
不可視の速度で己の獲物を手にし…
「『デモンズランス』!」「『トールショット』!」
漆黒の槍と鈍色の銃弾は、黒月寄りに弾けた──
「…この程度か?」「いやいや黒さん。…まだタネは存分にありますからご賞味あれ」
地中からの鉄球の攻撃を、黒月は難なく回避する。
「まだまだ…スキル・トレース・システム・エクステンド…『メタルブレード+ジェミニレーザー』!!」
無数の円刃が黒月に襲い掛かる…だが、
「『虎輪刃』!」自分の周囲の円刃を切り払う。
しかし円刃は床、壁、天井を跳ね返ってまた黒月へと迫る。
「はっ!」打ち払うのは無駄だと認識し、円刃を破壊するが…
「『マグネットミサイル+ナパームボム』!!」爆弾が黒月めがけて発射される。
放たれた爆弾を破壊、爆発より迅く離脱する事でダメージを0に抑えた黒月。
「予測済み…『クラッシュボム』起動!!」黒月の足元の爆弾が…爆発!!

「…やれやれ。まさか、お前を相手に使うとは…」黒月の姿が変貌する。
爆発に巻き込まれたのに、ダメージ一つすらない…
そんな状況を、チコラブはただ楽しむかのような表情で見つめていた。
「本当に殺してしまっても…謝れんぞ?」
「殺す?冗談じゃない。こっちだってもっととっておきを出させてもらうさ。
 たとえば…『エリアル・レイド+チャージキック』!!」
チコラブが空中に跳び、黒月めがけて急降下する。
黒月は難なく回避し、暗光旋風を放つが銃で攻撃を流される。
暗光旋風を流しながらチコラブが近づき、攻撃が途切れた瞬間…
「『タップスピン+スラッシュクロー』!!」高速回転し、真空の刃で黒月に襲い掛かる。
黒月はバックステップで避けるが、服の一部が削られた。
黒月の意思か、闇がチコラブに襲い掛かる。
「うおっと!」暗黒弾を避けた先に…黒月!
「『黒牙・穿刃』!」刃がチコラブに迫る…その差、実に13cm。
「がっ…」あばら骨の隙間から刃が──

──黒い衝撃が放たれた。
だが、手応えはない。
チコラブは…黒月の左、離れたところにいた。

ぽたっ

チコラブの左胸から滴る血が、止まる。
傷口を凍らせて、出血を抑えているのだ。
「…こういう時、冷気を選んでよかったって思うよ」「ああそう」
黒月が一瞬で距離を詰め、攻撃する。
「『カウンターゲート・コールドボルト』ッ!!」零距離で、巨大な氷塊が黒月に直撃…
いや、残像だ。黒月は攻撃を止められた瞬間にバックステップし、距離を離す。
「まだまだ…」チコラブはそのまま撃ち出した氷塊を掴み…
「『エモーション・トーレント+神槍「スピア・ザ・グングニル」』!!」
巨大な氷塊はチコラブの手により音速を超え、空気の歪みを引き起こしながら進んでいく。
回避できないと踏み、…十七分割。
そしてそのままチコラブに近づき…斬る!
「!?」違和感を感じ、その場から勢いをそのままに離れる。
「…さすが。『ダミーだこりゃ+ナパームボム』を仕込んでたけど…ねぇ」
そうチコラブが言い放った瞬間、爆発する。黒月もチコラブも爆発の効果範囲外である。
「さて…スキル・トレース・システム・ダブル・エクステン…」

「ちょぉっとまったぁ!」

声の主…イデモンは客席からチコラブ達に向かってくる。
「…イデモン、何なんだ一体」「そうだねぇ…折角ノって来たとこだったのに」
「いやいやいやいや、君たちが戦うのは意味をなしてませんから。寧ろそれこそが彼の策略なんだよ」
そう言いきり、客席と闘技場の間の柵を跳び越える。
「イデモンさん、それ判りにくいです…まぁとにかく簡単に言いますと、
 黒月さんが見たチコラブさんはチコラブさんじゃなくて
 チコラブさんが見た黒月さんも黒月さんじゃない、ということなんですよ」
イデモンに続いてアンクが反対側の柵を跳び越えてきた。
「つまりチコラブさんと黒月さんは戦う必要なかったんですよ」
「…ま、まぁそのことはおいといて…」「なるほどねぇ…それで奴がこんな事を仕組んだわけか」
その場の四人全員がある方向を向く…虚空の闇、いや…

空間にノイズが走る。
そして眼前に…
「…気付いていたか?だが、その満身創痍の体で何ができる?」
知った顔…風貌こそはユウ・シャーではあるが発せられる闘気は明らかに違う。
「あのな、魔王さん…あんたその姿、俺の知ってる超絶馬鹿と全く同じなわけで…
 それで何ができるってこっちが言いたいっての」男を指差してきっぱり言い切る。
「ち、チコラブさん…冗談を言ってる場合じゃ」「楽勝だ」「ヒスミンもそう思うかい?」
「黒月さんにイデモンさんまで…!!」「自惚れるなよ?ヒト風情が」
「手前ぇこそ調子に乗るな。その程度の殺気で俺たちに自惚れるななど…片腹痛い」
「!?」ぞわり、と。チコラブの言霊が男を凍てつかせる。「く…貴様…何者だ!」
「何者と言われましても…『フェイヨンの三奇人』が一人『ポリンマスター』チコラブですが?」
「…チコラブくん、君ばかり目立って…たまには俺にも出番をくれないか?」
「…確かに、イデモンだけ地味なんだよなぁ」「だね。じゃあイデモンさん、こいつあげるーw」
イデモンが口を出した途端和やかに。「貴様等、ふざけているのかっ!!」
「君なんかにそう言われてもねぇ…シリアスになるほどでもない」「土管」…同感の意なのだろう。
「…ならば貴様らの愚行、己が身に刻みつけろ!」男がそう叫ぶと、四人の頭上にツララが生成される。
そしてツララが…落下する!!
「やれやれ…俺もなめられたもんだねぇ。『ファリウローム』」
魔力で作られた水流がイデモン達をツララから護る。
「…ならばこれは」「おいおいおい、ちょっとあんたさぁ…俺の真似事ばっかりしてるんじゃないよ」
「!?」体の心まで冷えるような殺気が男を襲う。「あんたアレだけ勿体つけたんだから面白いオリジナル技でも出してこいよ」
「ちょっとチコラブくん、彼は俺に任せるって言っただろ?」「あ、そうだった。ゴメン、イデモンさん」
「このっ…調子に乗るな、人間風情が!!」巨大な氷柱を作り出し、チコラブ達に投げる!」
だが…「全く、困った奴だねぇ」イデモンが跳び、強烈な水圧を伴った拳の一撃で氷柱を粉砕!
「…さて、と。そろそろ飽きたからねぇ…退場してもらいますか」

「…ってゆーかあの野郎オリジナル技持ってねぇの?つまんねぇ」
チコラブが悪態をつくとほぼ同時に、黒月が背を向ける。「あれ?黒さん、どったの?」
「イデモンでもあの程度は倒せるだろうから戻る」「ん、黒さん乙〜」「お疲れ様です、黒月さん」

…一方的な戦闘が繰り広げられている。
「げはっ!」男の体が跳ねる。「おやおや、先刻までの威勢はどうしたのかなー、『水龍神掌』!!」
今度は男の体を地面にめり込ませるほどの強烈な一撃。
そして体を地面から引き抜き…「くそ…この…人間風情が…」
イデモンの周囲にツララを生成…発射!「喝っ!」だが、イデモンの気合のようなものでツララは砕かれ、男は闘技場の真中へ吹き飛ぶ。
「…あーもうダメダメ、こんな三下相手じゃ楽しめないなぁ。あ、とどめ刺しといて。面倒くさいし」
「じゃ、アンク君、ごー」妙な顔でとどめを促すチコラブ。
「あ、は、はい…『グラビティスタブ』!!」アンクが男に槍の一撃を放つ。
男は断末魔を上げて、そのまま霧散消滅した。
「乙ー」「アンク君、おつつー」「あ、お疲れ様で…す」

「…とまぁこんな感じ」「…なぁ、チコラブさん、訊いていいか?」
「にょろ〜?」「…あんた、俺の想定し得ない方向にヒュドールつかってる?」
「ん。まぁね」「…あんた、一体何者だよ?戦闘用プログラム外の行動まで起こさせるなんて…」
「俺はただの変人の一人…チコラブよぉ?」「…あんたに聞いた俺が馬鹿だった」
「とかにく、これで一件落着」「すればいいんだがな…奴はただの手下だそうだ」
「…マジ?じゃあいつぞやと同じような事が起きるのか…面倒くさいなぁもぅ」

漆黒の闇に…何かが蠢く。その闇は…いったい何を現すのか。今はまだ…判らない。