あるRTWPC達 第23話 出会ったのなら別れは来るさ

「『ピアッシングショット』!」強力な回転が加わった弾丸が、二人の人間を掠める。
「くそ…さすがチコラブさん…『斬鬼』!」「一筋縄じゃいかねぇ…『ペンタストレイフィング』!」
襲い掛かってくるレツヤを銃身を使い綺麗に流し、もう片方の手に持った銃で矢を打ち落とした。
「レツヤ…どいて!『ビッグバン』!」魔力が爆発を引き起こした。「…手応えが無いわね」
「ま、避けたからね。手ごたえは無いよ…『二丁拳銃乱れ撃ち』!」
PvPエリアの壁から反対側への壁へと飛び移りながらの乱射。ただし、明後日の方向に飛ぶ弾も…
「油断するな、チコラブさんの事だ…恐らく、跳弾が来る!」「ああ、重々承知だ…!」
「とにかく、周辺の銃弾を叩き落すわ!下がって!
 …虚空に漂いし無色の精霊よ、汝、我が牙となれ!…『ソウルストライク』!」
詠唱によって発現した魔力弾が銃弾を追いかけ、直撃した。
途端、爆風がPvPエリアを吹きぬけた。
「い…今のは…」「やられた、わね…」「くそ…そんなのありかよ」
「とにかく、チコラブさん相手にのんびりやってられない!…カズ!左から援護してくれ!」
「オッケイ、レツヤ!『ダブルストレイフィング』!『チャージアロー』!」
カズが返事をした次の瞬間に矢を放つ。裂帛の気が篭った矢はチコラブに襲い掛かるが…
「三本の矢を無効化できる一点を…『精密射撃』」
銃弾は三本の矢を弾きながら、カズの左肩を貫いた。


──10分ほど前、山岳都市フェイヨン
「…チコラブさん、俺たちと戦ってくれないか?」「ほえ?何で?」
待ち合わせ場所につくなりいきなり言われ、首をかしげる犬耳の少女。
いつもの四人組ではこんな事は今までに無い。
「最近俺達、チコラブさんに頼りすぎてるんじゃないかって思ってて…
 この間の騒動だって、俺たちは何の役にも立ってなかったけど、チコラブさんが全部解決して…」
「そうそう。俺たちがこの人の足を引っ張っていいのかって思ってさ。
 それで三人で相談したんだけど、俺達三人とチコラブさんで戦って」
「みんなが勝てば今までどおり…でしょ?」先回りした問いに頷く三人。
「そう…チコラブさんが勝てば、俺たちは修行する。チコラブさんがいるとどうしても頼っちまうし」
「…まぁ、みんなの頼みだし…いいよ、受けても。ハンデは三対一のほかにはいいかな?」
「…そうでないと、この戦いの意味は無いわ」そういうやり取りをして、四人はイズルードへ向かった。


「…くそ、これでまだチコラブさん全力じゃあねぇんだよな…」
「まぁ、ねぇ…そもそも、キャラステータスよりもプレイヤースキルの占める割合が多いけどねぇ」
ワニの尻尾を弄くりながらあっけらかんと言う。
「…どうするの?まだやるんならその負けムードをどうにかするべきだけども」
「…ごめんなさい、チコラブさん」「…ダメだ、やっぱり修行しないと」
「それじゃあ…君達はどうするの?これから」「まず…ドッペルゲンガーを倒せるようにするわ」
「でもその前にボスをまともに相手出来ないと…チコラブさん、単騎でも渡り合えるだろ?冥魔とか」
「所詮はプログラム…癖とかがわかれば楽勝だから…教えようか?コツ」
「や、修行なんだからチコラブさんには頼れない。…本当にすまない、チコラブさん」
「…うん、皆、がんばってね…」溢れそうになる涙をこらえて言う。
「…また、会いましょう。チコラブさん」
「そうだぜ、いつか俺らでチコラブさん倒せるぐらいになってやるから!」
「チコラブさん…我侭ばかりで申し訳ないけども…」
「…うん、ちゃんと…戻ってきてよ…皆…」笑顔を作りながらチコラブはまだ涙を流さない。
「…じゃあ、いつか…また」「引退しないでくれよ、チコラブさん」「本当に重ね重ねすまないな…」
カオスゲートへ入って行く三人を見送ったとき、途端に涙がこぼれ始める。
「…っ…」俯き、泣き顔を誰にも見せまいとして、必死に涙をぬぐう。

──接続者一万オーバー記念フィールド
「…ふっ…ふぅ…」人が集まってきたので仕方無しに移動したチコラブ。
テンサウザリンに埋もれて泣いている。
それをポリンやドラップスがどうしたの?と尋ねるような顔でチコラブを見つめているのだ。
「…うん、大丈夫…かな。…ありがとう、テンサウザリン…ごめんね?」
立ち上がるチコラブの言葉に、ふるふると体全体で「別に構わない」、と言いたげな行動をする。
「あ、チコラブ先生だぁ☆」「!?」怪訝な顔をして声のした方向へと振り向く。
少女──天使の翼と犬耳・犬尻尾が生え、さらに首には首輪が嵌っている──が走り寄って…
「わぷっ!?」衝突。例によって例の如く押し倒される形になっている。
「あいたた…」「だ、大丈夫ですか!?」
「あ、うん…大丈夫だけども…どいてくれないかな?」「あ、はい、すみません」
立ち上がりながら少女を見る。やっぱり犬耳をつけている。首輪や尻尾、翼もついている。
服装は白いローブだ。…もう一度顔を見てみると、鼻にミニグラスが乗っかっている。
「えっと…じゃあまず、…先生?僕が?」「そうです!RTWの犬耳の第一人者、チコラブ先生!」
「…あはは、僕は僕の好きなようにキャラメイクしただけなんだけどね」
「あ、そうだ、自己紹介してませんでしたね。私はぱふぇっていいます!」
礼をしたところで、後ろに二人の人影が見えた。
「ぱふぇ、いきなり走り出して何かあったのかい?…って、チコラブさん?」
「あ、チコラブさんだ〜」「ナイラさんに…リフィール?珍しい組み合わせだねぇ」
見慣れた青年と幼女の姿であった。
「あのね、お父さんとリフィールちゃんに頼んでテンサウザリン倒すのに協力してもらうんだぁ♪」
「…ナイラさん、子持ちだったんですか?」「ええ。…今はいわゆる『やもめ』ですがね」
「…そうなんですか、ナイラさん…大変ですね」まずい事を聞いてしまったような気がする。
「いえ、それほどでもないですよ。ぱふぇはああ見えてしっかりしてます。リアルではね」
「ねぇ、お父さん、早くテンサウザリン倒そうよぉ」ナイラの服のすそをつかんでのお願い。
「…よし、じゃあテンサウザ、がんばれ〜w」「チコラブさん、どっちの味方ですかw」
苦笑するナイラをよそに「大丈夫!私がいるからっ!」とリフィールと
「よぉっし!いっくぞぉ〜!」エクスカリバーと黒の章を構え、気合を入れるぱふぇがいた。

…激闘が続く。ぱふぇの攻撃力は意外に高く、テンサウザリンの体力が尽きるのも時間の問題だろう。
「へぇ…さすがナイラさんの娘さん…強いねぇ…」
チコラブは何処から取り出したのかポテチを周囲のポリンやドラップスと一緒に食べながら観戦している。
「…チコラブさん、貴方は、一体、何を…『水龍神掌』!」
「んもうっ、そんな平和なところ見たら戦う気が…『炎帝覇王断』!」戦いながらの突っ込み。余裕である。
「『雪月花』!…手伝ってくれないんですか、先生ぇッ!」「いや、僕は先生と呼ばれる筋合いないし?」
「…しかし、さすがポリンマスターと呼ばれるだけのことは有りますね、チコラブさん…
 普通なら奪い合いになるはずなのにそこまで和気藹々と…」「きのせいきのせい」

…結果、テンサウザリンの根負け。ぱふぇはテンサウザリンcを入手した。
「…そういえば何で今更テンサウザ狩り?レベル的にももうとっくに手に入れてもおかしくないけども」
「ああ、実は昨日訊かれたんですよ」チコラブの方向に振り向き、返事をするナイラ。
「『チコラブ先生のミニオンストライクって、一体何の職の技なの?お父さん』…って聞いたんだ♪」
其処にぱふぇがうれしそうな顔で割り込む。
「それで、このエリアのことを知って…それで、リフィールちゃんと三人で来たの」
「へぇ…」「それで、先生…マスターストライクとか、教えてくれますか?」
「…えっ!?ちょい待ち…なんでそれ知ってるの?…まさかナイラさん?」「はい、勿論」
「…そんな笑顔で返されてもなぁ」笑顔で返してきたナイラに微妙に困る。
「そう言えばチコラブさん、レツヤさん達はどうしました?」「ああ、実は、ね…ちょっと修行に」
「なるほど、修行…」「なんか僕に頼りすぎてるから強くなるってさ」
「…じゃあ、チコラブさん今フリー?じゃあ、リフィール達と組んでくれますか?」
「ええっ、先生といっしょに行動するのぉ!?」「まぁ、それもありかな」
「では、チコラブさん…ぱふぇをよろしくお願いします。私はアンク君達と組んでいますので」
「おっけー、とりあえず出来るだけはやるよ」「じゃあ、お願いします、先生!」
「…あはは、チコラブでいいよ。そう言われると返答に困る…;」

「そう言えばチコラブさん…ロックバスターどうしました?」
「ああ、なんだかメンテナンス中らしくてさ…
 あの騒動終わったときに何かおかしいなって気付いたら消えてた;」
確かに、前の騒動でつけていた武器を持っている様子は無い。
「…先…じゃなくってチコラブさん、何でメンテナンスだってわかるんですか?」
「本人に聞いたからね。…いあ、持ってった本人だよ?向こうから言ってきてくれたんだ」
「へぇ…それで、メンテナンスって何時終わるの?」「さぁ?其処までは訊いてないなぁ…」
「…その、メンテナンスをしている人、とは?」質問攻めにされてもなぁ、と言う顔をしつつ答えるチコラブ。
「いや、なんか勝手にメールでメンテナンスしてるから使うのはもう少しまってくれ…って」
「「「…なんだか、おかしい」」」三人が声をそろえて言う。
「皆鋭いねぇ;…本当の事を言えば、アレ…ロックバスターに訊いたんだよ。
 彼女、人が寝こけているときに精神の中に入り込んでくれるからねぇ…」
「い、いくら先生でもそんな突拍子の無い話は信じられません!ねぇ、お父さん?」
だが、帰ってくるのは沈黙。「…ぱふぇは知らないからそう思うのも無理は無いでしょうね」
「うん。リフィールもナイラも、それに似た事をこの間聞いたの。
 まぁ、チコラブさんを信頼してるのもあるんだけど」にはは、と笑いながら返すリフィール
「ええ、だからこそ…チコラブさんの今の話は疑うつもりは無いんだよ、ぱふぇ」
「…そういうものなの?」「そういうものなんだよ、ぱふぇちゃん」

──最早チコラブの溜まり場ともなっている瓦礫の街
「レーニャ、どう?最近」『何の話だ…まぁ、機嫌は上々だがな』
「そうか、良かった。そういえば、ナイラさん…覚えてる?」『ああ、あの中国服の男か』
「娘さん居たんだってさ」『…本当か?意外だな、それは』
「さて…そろそろ落ちるよ。ごめんね、来たばっかりで」『ははは、構わん』
「それじゃ」『ああ、お疲れ様』軽く手を振るチコラブとレーニャ。

「あ〜あ、メンテナンスがまだ終わらないって…腕落ちたか俺?」