あるRTWPC達 第4話 連結失敗!

────────────────────────蒼い。
目の前に広がるのはただ蒼いだけのフィールド。
地面と空の区別の無い空間である。
そこに、4人はいた。

「…迷い込んだみたいだね。」犬耳の少女が言う。
「どうやって出るんだ?」その横に居た少年が訊く。
「コード識別不能…ね。」後ろに居た黒髪の少女が口を開く。
「識別不能って言ったら…まさか!!」鎧を着込んだ青年が言う。
「それは無いよ、ここは暫定的なマップだよ。」犬耳の少女が答える。
「え…?」

彼らの紹介をしておこう。
少年の名はカズ。主にアサシンで行動している学生である。
青年の名はレツヤ。重装備で決めている会社員だ。
黒髪の少女はセリン。主婦で、無口な少女をロールプレイしている。
そして、犬耳の少女がチコラブ。犬耳だけでなく、首輪とワニの尻尾までつけている。
この姿にした理由は「かわいいから」だけの、…妙なPCである。
データベースサイトをやっていて、男子学生である。…「ネカマ」、というやつだ。

「前にフィールドをめちゃくちゃにした罰でここで作業させられたからね。」
チコラブは、苦笑いしながらそう言った。
「…で、脱出方法は?」カズが尋ねる。
「出口ができるのを待つしかないんだよねぇ…」
「…何か、来る」セリンが呟く。
「!みんな、隠れて!!」チコラブがいきなり叫ぶ。
「え、あ、ああ。分かった。…気をつけろよ。」3人がシーフのアビリティ「隠密行動」がついていること、
結構遠くに逃げたことを確認してチコラブは笑顔から一転、真剣な顔に変わった。
「…ジョブは、エクソシスト。さらに、デモンベインとサンタポリンC×3…。OKだね。」
それだけ言うと、横に跳んだ。
破壊音が鳴り響き、チコラブがもといたところに棒の付いた鐘が刺さっているのが見えた。
「こんな状況じゃなきゃ、月夜花タンかわいいって言ってるのにねぇ…」
チコラブはそういって、モンスターの繰り出す一撃をかわす。
「…彼女はなんなんだい?」いつのまにか眼鏡をかけた男性が横に居た。
「月夜花。ラグナロクオンラインのボスキャラ。…下何もはいてないからちょっちえっちぃけど。
 ROでは火や地属性に強く水に弱いけど、どう変わってるか分からないよ。」
「OK。じゃあ、前線は任せてもらいます」
男性は、そういうと眼鏡を指で上げ、憤然とモンスターに向かっていった。
「喰らえっ、水龍神掌っ!!」モンスターが吹き飛ぶ。
モンスターは一瞬ひるみはしたものの、お返しとばかりに炎の弾を放った。
眼鏡の男性はそれをなんとかかわし、もう一度同じ技を放つ。
「喰らえっ、福音弾の五連発っ!!」チコラブは弾丸をモンスターに放つ。
見事に命中し、モンスターが倒れる。
「…さすがですね、チコラブさん。でも、何でエクソシストでやるのですか?」
「悪魔族だから。これだけで十分」
「…ああ、そうか。さて、今度のはさすがにやばいですね…」
「…大丈夫、魔法攻撃さえ防げば物理攻撃は低いはずだから。」
チコラブは腕に銀色に光る盾をはめながら言った。
彼女はいつのまにか侍にジョブチェンジし、装備を整えていた。

「七梨、あそこにPCが迷い込んでるぞ。」
「…行ってくれ、樂打。」銀髪の男性が答える。
「…なんと言っておけばいいんですか?」
青い髪の男性が装備を整えながら尋ねた。
「…自分で考えてくれ。頼む」

「天地爆裂」強烈な衝撃が放たれた。
チコラブはそれをシャハルの鏡で弾き返したが、それはモンスターにあたることは無かった。
「しかしまあ、リムサリアなんてプレイヤーのほとんどが知らなさそうなものを…」
「…何気に真琴以上の破壊力を誇っているしね」
「物理攻撃はたいしたこと無いくせに。」そういうと、天地爆裂をまた跳ね返す。
直撃した。モンスターの悶える声が辺りを包む。
「「まだまだっ!!」」二人はそのまま、連続攻撃を叩き込む。

「大丈夫ですか?」青い髪の男性が言った。
「月夜花タンはともかく、リムサリアは実装するには無謀だよ?」
チコラブがけろっとしたかのように言う。
「…なぁ、カズ。俺、チコラブさんが何で俺らとPT組んでるのか疑問に思うんだが」
「聞くなよ、俺だってわかんねぇ」
その後ろで青ざめた顔で話す二人。
「ああ、そうだ。リムサリアのドロップの『精霊の剣』は返さないとね。
 …なんで僕ってこんなときだけ運が良いんだろ。」
「チコラブさんは常日頃からいい行いしてるからだと思いますよ」眼鏡の男が答える。
「関係ないと思いますよ?そんなこと。」青い髪の男性は剣を受け取りながら答える。
「まあ、無駄話はおいといて…早く出口開いてくれません?」
「そうでしたね、すみません…」青い髪の男性がそう言った直後、空間に穴があいた。
「では、ここで見聞きした…
「おっけーおっけー。言わないよ。ねぇ、みんな?」
その場に居た全員が頷く。
「それじゃ、管理作業頑張って下さい。」

────────────────────森が生い茂っている。
「フェイヨンフィールド…ちゃんと戻ったみたいだぜ。」
「っとにレツヤは心配性だよなぁ…」カズが呆れたように答える。
「ナイラさん、ありがとうございました。多分僕だけじゃ2匹とも倒せませんでしたよ。」
「や、礼はいいですよ。また私を使わなきゃならないんだったら呼んで頂いて構いません。
 できるだけ駆けつけますよ」眼鏡の男は、そういうとフェイヨンのほうに歩いていった。
「…誰、だったの?」セリンが尋ねる。
「あ、この間メンバーアドレス交換した人。結構いい人だよ?」

「…なぁ、チコラブさん。あんたって一体何者だよ?」
「そう。前々から思っていたんだが、…あんなモンスターを二人で倒すとか…」
レツヤとカズは訊いた。確かに、レベル60を超えた彼女は一体何者か。
「…学生で、ゲーマーで、シャハルの鏡所持者。」
「いや、それは分かってるから。」レツヤが呆れたように答える。
「…ガンスター修練中で、両手武器職以外ほとんどマスターしてるPC。」
「それもいいって。」カズも呆れた。
「…言わなきゃだめ?」チコラブはかわいらしく首を傾げて言った。
「…駄目」セリンが答える。
「…」一瞬の間があいたあと、
「…RTWのデータベースを公開しているHPの管理人。」
「「「それも分かってる」」」3重奏。これ以上ごまかすことはできない。
「…Ragnarok Onlineのβ版だけやった。…駄目?」
「「「それがどうした!!」」」

このやりとりは小一時間ほど続いたという…