あるRTWPC達 第9話 それ行け僕らの偽勇者

「…と、言うわけだから、黒さん、イデモンさん、気をつけてね」
「ああ、分かった」獣の頭蓋骨を被った男が頷く。
「まあ、そんな奴が来ようとも返り討ちにするさ」仮面を被った黒ローブが返す。
「…ま、そういう忠告が無駄なのが『フェイヨンの三奇人』なんだけどね」
犬耳に首輪をつけ、ワニの尻尾を垂らしている少女が苦笑いしながら呟く。

事の発端は、ある掲示板だった。
その掲示板は、彼らが『いる』ゲーム…『Ragnarok The World』の
データベースサイトだった。そこは、武器・防具から技まで、さまざまなデータがそろっていた。
そして、そこに置いてある掲示板で…
「わははははっ、ここのデータ、非常に有意義だっ、ありがたく使わせてもらおう!!」
掲示板入り口にかかれてあった注意書きを全く持って無視した訪問者は、当然出入り禁止となった。
そこで終わればこんなことにはならない…が。
「何故この稀代の最強勇者様が貴様の掲示板に入れないんだ!!おい、理由を教えろ!!」
こんなメールが(笑)。無論、無視。そこに…
「貴様、生きてるかぁ?この勇者様を怒らせた大小は高くつくぞぉ?」
…犬耳のキャラを操るデータベースサイトの管理人(男)はこう思った。
(こいつ…馬鹿?アホ?何考えてんだ?)と。
勿論無視。そしてまたルール無視の訪問者によるメールが届いた。
「ならば貴様にじかじかに復習してやるまでだっ!!」
そして、今にいたるわけだ…

「デモンズランス!!」「メローファ!!」「ルイネーション!!」
戦士系のPCが崩れ落ちる。
そう…彼らがやっているのは通称『BOT狩り』である。
実際、PKはあまり好かれないが…BOT相手にPKを仕掛けると、そのBOTに邪魔をされた人たちから感謝される。
「よし、次はあそこでムジナ叩いてんの…っと!」
犬耳の少女はいきなりの雷魔法を避けた。
「…誰だ!!」3人は、戦闘体制に。
「ほう…貴様、掲示板に入れないようにしてくれたこの俺様を、覚えてねえのか。
 ならば教えてやろう!!この俺様こそが!!
 完全無欠超絶美形究極天才の!!勇者!!ユウ・シャー様だ!!」いきなり出てきた紅いマントのPCが言った。
「さて、なんか雷落ちたけど気を取り直してBOT狩り行きましょう」
「おい、こら!!貴様、俺様を無視するな!!」ユウ・シャーが慌てる。
「なんか声が聞こえるけど…」「多分空耳だよ。それかデータ転送ミス」黒ローブの問いかけに犬耳が即答する。
「もう怒った!!よくよく見れば、貴様らはPKしているな!?
 髪が許そうとも、この俺様の正義は許さん!!喰らえ、勇者ソード!!」
…いや、それ勇者ソードとか言う武器じゃなくて雷鳴刀だって。
それを三奇人は何も無かったかのごとく回避。そしてユウ・シャーは放置。
「おい、貴様ら…許しを請うなら今だぞ?この俺様は、寛大な心を持っているんだ。
 …どうだ?悪くないだろう?」
いや、あんたいきなり攻撃しただろうが。無論三奇人は無視。…いや?
「イデモンさん、みずかc貸していただけません?あの升野郎をちょっと静めてきますんで」
「ああ、じゃあ…はい」イデモンと呼ばれた黒ローブが犬耳にカードを渡す。
「ほぅ、ようやく許しを請う気になったか…だが、この俺様の怒りはただではすまんなぁ。
 そうだ、ドッペルゲンガーc3枚と最強武器でいいぞ。それで許してや…」
「『えいえんの盟約』」チコラブが攻撃を放った。
ユウ・シャーは断末魔の悲鳴をあげながら消滅した。
「即死効果発動したみたいやね…イデモンさん、ありがとうございました」
犬耳はイデモンにカードを返した。

十数分後。
「…また来た。懲りないなぁ。怒るどころか呆れたよ」
『フェイヨンの三奇人』の前に、またユウ・シャーが立ちはだかる。
「クックック…さっきのは引き分けということにしておこう」
「「「おもいっきし即死効果喰らってたじゃん」」」
『フェイヨンの三奇人』が声を重ねる。
「ふ、この俺様に敗北なぞない。なぜなら勇者だからだ!!
 …決まった。どうだ、この俺様の美しさを!!」
しかし…『フェイヨンの三奇人』はまたBOT狩りをしている。
「無視するな!!魔王にその側近!!」ユウ・シャーの怒る声。
「ねえ、今なんか言った?」
「多分BOTの断末魔ですよ。イデモンさん。BOTに断末魔あるかどうか知らないけど」
イデモンと犬耳はわざとらしく無視。
「…貴様ら、俺様を怒らせたことを公開するなよ?
 貴様ら、全員黄泉に送ってやる!!」
無論、ユウ・シャーの攻撃をさらりと回避。
「イデモンさん、後ろのBOTは任せました」「ああ、メロー・ファ!!」
高圧力の水が放たれて…瞬殺。
「…なんかBOT多くなったような気がしますが、気のせいでしょうか?」
「ははは、気のせいだよ。チコラブくん」イデモンが犬耳に言う。

更に十数分後。
「俺様は、何度でも復活する!!最強無敵の超絶美形勇者!!その…
出現そうそうご退場。理由はミニオンストライク連発。
「なんか最近ボッツやかましくなってない?」
「ヒスミン、そんなことは無いだろ?」イデモンが獣の骨を被った男に言う。

更に更に十数分後。
「貴様ら、いい加減に…
「邪魔だ!!」獣の骨を被った男の『十七分割』。
通常はこれ一撃でユウ・シャーが絶命するほどのダメージだが…
「しつこい!!」『虎輪刃』を放つ。ユウ・シャーの左手が地に落ちた。
「邪魔!!邪魔!!邪魔!!」獣の骨を被った男はもはや乱舞を繰り返していた。
「…黒さん、苛めモード入っちゃってるね。ぜんぜん死ぬ気配ないよ」
「…アレはただのENの無駄じゃあない?」イデモンが呟く。
「イデモンさん、刺されますよ。また」先刻チコラブと呼ばれた犬耳が苦笑いしながら言う。

また更に十数分後。
「俺は貴様らを捌く!!正義の菜の元に!!俺様を四度も殺したことを、人が許しても髪は許さん!!」
「いろいろ誤字出してるところがガキですよね、あの升野郎」チコラブが見た目に合わないことを言い放つ。
「貴様らを!!絶対に!!滅ぼしてくれる!!偉大なる天の怒り!!
 喰らえ俺様の最終奥義!!
 『スーパースペシャルデラめちゃくちゃつえー波』!!」
チコラブは鏡のような盾を使ってその『スーパー(略)』を跳ね返した。無論直撃。
「ふん、俺様の必殺技で俺様を倒そうなど、少子万全!!更なる恐怖を見せてくれる!!
 喰らえ俺様の最終奥義!!
 『スーパースペシャルデラめちゃくちゃ最強波』!!」
チコラブは表情を崩さずに盾で返す。
「この程度で俺様が倒れると思うな!!まだまだ恐怖は尽きん!!
 喰らえ俺様の最終奥義!!
 『スーパー・スペシャル・メガトン・ビッグ・スペシャル・デリシャス・ストライク俺様ミックス』!!」
やはり表情を崩さずに『スーパー(略)』を跳ね返す。

そうしてこのやりとりが3時間ほど続く…
ああ、そうそう。イデモンと獣の骨を被った男は既に別の場所に行った。

(…まだ来るのか。やれやれ…)
「貴様はこれ以上野放しにはしておけん!!喰らえ俺様の最終奥義!!
 『スーパー・スペシャル・メガトン・ビッグ・スペシャル・デリシャス・ベリうま・ストロング・アライバル・
 トレビアン・オメガ・キュクロプス・ストーム・テンペスト・デストラクション・ブラボー・ストライク俺様ミックス』!!」
何も言わず跳ね返す。
(こいつ本当にプレイヤー小学生か幼稚園児…いや、新生児かも…けどそれは彼らに失礼だしなぁ…)

かわいそうな犬耳の少女は、それから適当に逃げて…
「これで俺様の完全勝利!!悪は全て消した!!俺様最強!!」
自己中な阿呆が一名、フェイヨン東にいた。

その後、ユウ・シャーの勝利宣言が公式ページの掲示板に響き渡ったが…荒らしとみなされ記事削除等の措置がとられた(笑