あるRTWPC達 第1話 犬耳娘と奇妙な男

ある日、ある場所で、山道を歩く4人の男女が居た────────────────────────
「…]
「おい、本当にこっちであってんのか?カズ」鎧を着込んだ青年が尋ねる
「合ってるって、うるさいなぁ、レツヤは」数と呼ばれた軽装の少年が答える。
「なんか同じような道ばっかり…」「うるさい。心配ならマップ識別コード見ろ。」

─────────────彼らが居るのは、Ragnarok The Worldという世界。
ある町に向かっている模様だ。
ちなみに、マップ識別コードとは、今居るマップから近い町を表示してくれる機能のことである。

「あ〜あ、チコラブさん、強いことは強いけどドゥナ・ロリヤック行った事無いって言うのが致命的だよ〜」
「…ごめんなさい」犬耳と首輪をつけた女の子が口を開いた。
後ろから見ると、緑色の鱗で覆われた尻尾が伸びている。
「だっていままでFDとかしか行った事無いし…」
「それにしても、本当に妙な名前だよなぁ。」
「カズ、知らないのか?チコラブっていうのは、どこだったかでこれのデータベース作ってる人だぜ?」
「へ?じゃあなに、君はそれの管理人さん?」
「カズ、チコラブさんはロールプレイしてるって掲示板の過去ログにあっただろ?
 それにシャハルの鏡を入手したプレイヤーはチコラブさん以外聞いた事ないぞ。」
「…チコラブさんて、そんなにすごい人?」
「あの時は、大変でした…」

────────────────────────ちなみに。
シャハルの鏡を手に入れたクエストは、過酷極まりなかったそうな。
主な有名PCはなぜか参加していなかったため、彼女が入手できたという寸法。
が、彼女は主にガンスターで二丁拳銃をやっているため、現在宝の持ち腐れ状態となっている。

「…あ」長い黒髪の少女が口を開いた。
「!!彷徨う者!?」
「トールショット!!」鎧の青年が振り返るとほぼ同時に犬耳の少女の銃が火を吹いた。
見事に命中し、続けざまに青年の「斬鬼」が繰り出され、彷徨う者は地に伏した。
「大丈夫か?レツヤ、チコラブさん」
「ごめんなさい、レツヤさん。いきなり技を放って…」
「や、DEF型だから大丈夫だよ。セリンは?」
「…」大丈夫だ、という顔で青年を見ている。
「じゃあ行こうか。」少年が歩き出し、その他の3人も続いて歩き出す。

そして。
「何で来た早々こんな目に!!」レツヤの吼える声が聞こえる。
ドゥナ・ロリヤックでは現在、枝テロによる戦闘中である。
「本当に、間の、悪い、時期に、来ましたね…」チコラブが敵を屠りながら応える。
今回は運の悪いことにバルムンクたち有名なPCが一人も居ない。
モンスター達の攻撃に一人、また一人とPC達が倒れ、今残っているのはレツヤ達4人だけだ。
「愚痴るな、これで経験値とアイテムが大量にゲットできるだろ?」カズがグリムトゥースを仕掛けながら言う。
「…呑気」セリンがさまざまな補助魔法をかけながら言う。
「おい、そう考えなきゃ気が滅入るんだって!!」カズのソニックブローが綺麗に入った。
「確かにカズさんの言うとおりですよね」ハリケーンショットで最後の敵が倒れた。

────────────────────────そして、戦果。
「…泣きたい」「俺も泣きたい」「本当に何ででしょうか…?」
その内容は凄惨たるもの。経験値はともかく、アイテムが両手の指で数えられるほどしかなかったためだ。
「…カズ、おまえトレジャーハンター目指せ。」
「…だな。」この4人の中ではカズが一番LUCKが高いのである。

「気を取り直して、買い物でもするか!!」と意気込む男二人。
女二人は、草原の上で寝転がっている。
「あ〜、いい天気…」呑気なものである。その横のセリンは、既に眠っている。
「風も、気持ち良い…」それだけ言うと、彼女は眠った。

「…なんであんなに労力使わせてあまりいいものが売ってないんだ?」
「まあそこんとこ仕方ないだろ?文句があるなら運営チームに言えよ」
男二人が戻ってきたようだ。
「おい、…」二人の横には、見慣れないPC。ジューダスタイプのPCが二人の横で寝ていた。
「…誰だよ、こいつ…」
「カズ、おまえって黒月さんもしらねえのかよ。有名なPCだぜ?
 確か称号が異端の探求者。いろいろ変なことをやってるらしいぞ」
「ふーん…。まあとにかくこの人は置いといて、二人を起こすか。」

「で、どうする?」カズがたずねる。
「あ、僕はちょっとここで抜けたいけど…良いかな?」チコラブが逆に問う。。
「ああ。いいぜ。」レツヤが即答した。「俺もちょっと用事ができたからな。」
「私は落ちなきゃ…」とはセリン。
「じゃあ、ここでいったん解散、ということで。」

「黒さん、黒さん。」ジューダスタイプのPCを起こそうとしているチコラブ。
「ん…」それに答えて、起きるPC。
「わは〜」チコラブが挨拶のようなものをする。
「…」PCはまた寝た。
「…僕もまた寝ようかな…」

「ん…」チコラブが目を開ける。
「おはよう」ジューダスタイプのPCが挨拶した。
「おは、黒さん」返事。まだ眠そうである。
「何で俺らの横に…?」性格が豹変した。これが地であるが。
「なんとなく、かな。寝やすかったし」
「…で、次なにやらかすつもりですか?」
「さてね…」
「ああ、そうそう。DOPタイマンなんてまだできないけど…
 戦ってくれません?あそこで」
「嫌」即答。
「…くs」
「何か言った?」七夜の宝刀を鞘から抜きながら言葉をさえぎる。
「…何も。それじゃあ俺、落ちますわ」
「はい、はい」

─────────────────────日が落ちていく中、一人のPCがログアウトした。