あるRTWPC達 第32話 平和っていいねぇ

今日も平和なプロンテラ。ある集まりに、チコラブが顔を出す。
「やほ、みんな待った?」「いいえ。集合時間よりも早いくらいですよ。…それで、其処の方々は?」
チコラブの後ろには、ぱふぇとヒュドール。「ああ、犬耳さんが二人も!?」アンバーの喜声がひびく。
「ど…どうも、はじめまして…」「はじめまして。御主人様がお世話になっております♪」
物怖じしているぱふぇと対照的なヒュドールの台詞に、アキハが目の色を変える。
「…御、主人…様?…チコラブさん、貴女という方は…一体何をやってらしたのかしら?」
「え…ちょ、待って…アキハさん、わたしゃいろいろと忙しくて…
 って言うか御主人様っていうのはヒュドールが勝手に言ってるだけで…」
「…お姉ちゃん、やましいことはしちゃ駄目だよ?」「…あらあら。…お仕置きが必要ですわね?」
「ちょ、ハサハっ…何勝手に…ってかヒュドール、助けろッ!!」迫り来るプレッシャー。
「嫌だよ…怖くて…えぐっ」泣き真似をするヒュドール。「いけませんね、チコラブさん…お仕置きです」
「ぱふぇーっ、たっすけてーっ!!」「ごめんなさい、先生…早退します…」距離を取り、救助拒否。
「…先生、とは…聞き捨てならない呼ばれ方ですね、チコラブさん?」注射針を突きつけられる。
「お姉ちゃん…あんな事やこんな事、教えてないよね?」「てきとーな事ぬかすなぁーっ!」
…チコラブの一喝に反応し、手の甲を目に押し当てるハサハ。「えぐっ…お姉ちゃん…ひどいよぅ…」
…いま、この場には泣いている(もちろん嘘だが)少女が二人。怯えている少女が一人。
そして、青ざめている少女を囲むように殺気。…チェックメイト。もう逃げられない。

そして、数分後。Aアルクがやってくる。
「…シエル、今回はどういうことさ。何でチコラブさんが犬耳を地面に貼り付けられ千切れたまま
 ハラワタをブチマケられながら頚動脈を掻き千切りつつ口から七色の泡を吹いているのさ」
もう、本当に悲惨な状況になっているようだ。ハサハ、ヒュドール、ぱふぇは既に避難している。
「ええ、それは彼女が私達の与り知らぬところで犬耳の少女にご主人様やら先生やらと呼ばせていたので」
「…へぇ。それじゃああちしも混ぜていただきましょうかっ!!」「ちょ、タン…」
Aアルクの一撃により、チコラブは皮膚の破れた首がすっぽ抜ける結果になりましたとさ。めでたしめでたし(違

「ああ、悲惨な目にあった」「普通はあれを悲惨と片付けられないと思うんですけど…;」
「あのー、反省しましたチコラブ様ー、おろしてくださいー」「お姉ちゃん、非道いー」
とりあえず扇動犯二人を吊しながら集会が始まった。

そして、集会も終幕。立ち去ろうとするチコラブ達に、エレイシアが声をかけた。
「チコラブさん…少々時間をいただけますか?」目が語っている。これから彼女が紡ぐ言葉を。
「おっけー…じゃあ、ヒュドール」「いえ、…同じ武器、同じジョブで…戦っていただきたいのです」
「え…エレイシアさん…?」「大丈夫だよ、ぱふぇちゃん。君が気にすることも無い」
「…返答は?」目で語る。…YESだ、と。

勝負条件は単純。互いにブリューナクを装備した聖騎士で戦うこと。
チコラブは装備を崩さず、常時使用しているセイントローブにネックレスを。
エレイシアはデモンズメイルに鈴付きの髪留め。…実力の程が伺える。
「…よろしいのですか?その装備で…」「大丈夫。…どんな敵が現われても、一緒に戦った相棒だからね」
会話を交わした直後…緊張が空間を走る。「これは…いい戦いになりそうだね」
「戦闘開始は…どうしましょう」「今からでいいよ。野暮ったい」
再び、静かになる。およそ1秒の後、ぱふぇのくしゃみが戦いの火蓋を切った

先ず先制攻撃を放ったのは、チコラブ。
長柄のブリューナクをやすやすと振りぬくブランディッシュスピア。
エレイシアはそれを潜り抜け、チコラブの懐にもぐりこみ…聖獣神衝を放つ。
だがチコラブはそれをオートカウンターで受け止め、その反撃をエレイシアが薙ぎ、
その隙を付いたチコラブのピアースをエレイシアは避けてほぼ真下からのスピアスタブ。
ブリューナクで受け止めたチコラブの体が宙に浮くのを確認したエレイシアは体を反らせる。
そして…エレイシアはブリューナクを投げる。
正確にチコラブを狙ったそれはチコラブに当たることなく
チコラブとエレイシアを結ぶ線のほぼ中点で相殺、エレイシアの近くへと刺さる。
エレイシアが投擲体制を戻すところに体制制御で無理やり体制を戻したチコラブがアイスウォールを放つ。
エレイシアは無理やりに避けるがブリューナクは地面に刺さったまま。
「ホーリーライト!」「ナパームビート!」全く同時のタイミングで魔法が発動する。
発動と同時に空中のブリューナクをつかみ、地面へと加速する。
ナパームビートで加速した落下速度をほーリーライトは追いつけない。…着地!
「ホーリーライト!」「アイスウォール!」
チコラブの唱えたアイスウォールはホーリーライトの行く手を遮るのみ。だが…
「まさかッ…!!」アイスウォールの表面は鏡のような平面を作っている。
「ホーリーライトったって光だからね、鏡で跳ね返せるはずだよ?」
その目論見通りに跳ね返る。エレイシアはそれを避けるが体制が崩れる。
その隙にチコラブがアイスウォールを足場にして飛翔する。手には二本の…ささくれだった氷の槍。
左手の槍を投げる。エレイシアが取り損なったブリューナクだ。
「ッ…!!」避ける。体制が戻せず反撃ができない。
チコラブは体制制御を使い、さらにもう一本…空中で回収しておいたブリューナクを投げる。

その頃、観客席──
「…凄い」「チコラブ様って、一体何者?リアルでは普通の一般人だって言ってたんだけど…」
そんな二人の横につく男四人。
「うっはwwwwさすが超有名PCwwww強すぎwwww修正されろwwwwうぇwwww」
「黙れこの馬鹿。…けどまあ、俺も修正されるべきだと思う」
「絶対彼女はリアルで暗殺者か格闘家かやってるって。でなきゃあんな動きできねーよ」
違うんじゃないかな、とぱふぇは思った。どちらにしても違和感がある。
「あんなふうにアイスウォール使うか…成る程ぉー」
「マジかよあれ、まるでダイの大冒険の…あの、氷の塔、なんてったっけ…あれみてえだ」
「ちょwwww体制制御強すぎwwww反撃されてねえwwww」
ぱふぇは視線を四人の男からチコラブ達に戻す。

「ミニオンブロウ!」エレイシアが辛うじて避ける。
そして、互いに自分のブリューナクを手に取り、離れる。
「…ありがとうございます、チコラブさん」エレイシアが深々と頭を下げる。
「礼を言われるようなことじゃないけどねぇ」恥ずかしそうに頬をぽりぽりと掻く。
「最近リアルで色々とあったのでロールプレイが最近上手く行かなかったんですよ。
 これでようやく吹っ切れてやれそうです。…ありがとうございました」
「あ、そうだったの。…大変だね、エレイシアさんも」
「ええ。ご迷惑をおかけしました」「迷惑じゃないよー、こっちも楽しかったし」

そして、コロシアムから出てエレイシアと別れるチコラブ。其処に…
「見つけたぞ!!」「んあ?」声のした方向には…男。
「…誰かな?あ、ボクのファン?サインは勘弁してよ〜」可愛らしく身をよじらせる。
「うるせえっ!!テメェ、忘れたとは言わさないぞ?
 あの時…テメェさえ居なきゃ俺だって有名PCになっていた!なのに…」
「…身に覚えがありすぎて誰だか分からないんだよ、他を当たってくれない?」しれっと言い放つ。
「覚えてねぇってか…この先のコロシアムに入ろうとしていた俺を、あんな目に遭わせてくれてよぉ!」
「ああ、あの馬鹿か…んで?それは何?『貴方だけは許さないから』?
 ふ〜ん、やっぱり升野郎は升野郎だね。…んなモンで手に入れた名声なんて意味が無いんだよ、阿呆が!」
「ほぉ…この野郎、ふざけたことをぐちぐちぐちぐちと…死ねやぁ!」
男の持つ大斧──これもチートで得たものだろうが──がチコラブに襲い掛かる。
「お前、馬鹿だろ?…いや、確認せんでも馬鹿か」オートカウンターが綺麗に決まった。
「BoterやチーターにMMOをやる資格はない!」そのまま男の顔を掴んで零距離からのコールドボルトを撃ち込む。
「死に戻りは勘弁願うよ」と、フロストダイバーで凍らせる。

「やれやれ…大変だったな、チコラブさん」瓦礫の街。経緯は既にヒュドールが語っている。
「まぁね。まったく、恨みを晴らしたいんならそのキャラで来いっての。
 別キャラで来られても身に覚えなんかねぇ。ま、垢BANされてっからそのキャラで来いッつーのは無理な話か」
尻尾を弄くりながら言い放つチコラブ。
『まあ、その程度…祭り騒動や魔王騒動に比べれば平和なものだ』
「だね。やっと日常に戻れたって感じ。…けどなぁ、退屈だと思うのは俺が異常だからだよなぁ」
「気にしちゃダメだよ、チコラブ様。どうせ元から異常だし」
「真澄ー、あいつの性格データ改善してよ」「ごめんなさいチコラブ様僕が悪かったです」

平和な日常は、何時も其処にある。 だが、異常な日々も、常に其処にあるのだ。