影傀儡

雨が降りしきる日の事である。
その日は、昼でもまるで夜のような暗さであった。
いや、「夜」ではないかもしれない。
厳密に言えば、新月の夜のような暗さではない。
太陽が沈みきった後のような暗さである。
町は、時折光る。
その数秒後、雷の落ちた音があたりに響く。
かなり落ちているようだが、停電という状況にはまだいたっていない。

話は変わるが、とある寂れたアパートの一室にキーボードを打つ音が響いている。
部屋の中には、髪の長い女性以外には誰もいない。
その女性は、仕事を片付けているようだ。
質素な部屋である。
部屋の中央の机の上には、湯を注いだばかりと思われるカップラーメン、
ヤカン、携帯電話、そして何らかの書類がファイルに閉じられている。
不意に、携帯電話の音が響く。
女性は、その音に気づき、携帯電話を取る。
彼女は、電話の相手と、親しそうな言動を見せる。
そして、電話を切った直後、・・・また携帯電話の音が響いた。
さっきの着信音とは違う、その音は、彼女の作っていたカップラーメンが出来たということである。
携帯電話を触ったことのある読者なら分かると思うが、アラームである。
携帯電話のアラームを切り、カップラーメンの蓋を開ける。
どうやら、カレーヌードルのようである。
・・・箸が無い。そのことに気づいた彼女は床を左手で触る。
すると、触れたところから、何か黒いものがするすると机の上に上ってくる。
その黒いものは、箸の形を取った。
彼女は、その箸を使い、カップラーメンを食べ始めた。

──────────────────────────────────スタンド。
一部の者のみが使うことのできる超能力で、彼女はこの能力を持っている。
また、例外を除きスタンドはスタンド使いにしか見ることは出来ない。
この能力は、人により能力が違う。炎や、冷気を操ったり、相手に幻覚を見せるスタンドも存在する。
戦闘能力は本体の精神力に左右され、やはり戦うには最高のコンディションがいい。

彼女の能力は、「影傀儡(シャドウドール)」といい、影を物体に変化させる。
その能力は、非生物だけで無く、生物、果てにはスタンドにまで変身する。
しかし、影のままでは戦闘能力が低い。
プランクトンとしか渡り合えないパワー、亀に負けず劣らずといったスピードなのである
さらに、左手で太陽光が当たってない地面、もしくは地面に接触している非生物に触らなければならない。

携帯電話の音がまた響いた。
彼女は、カップラーメンを食べながら電話に出る。
・・・・・・
どうやら、さっきの相手とは違うらしい。
彼女の顔はどんどん真剣になっている。

「・・・分かったわ。サーバーにあげてメールを送るから、落としたら再度電話をしてくれない?」
『ああ、わかった。所で、例の件だが・・・』
「ごめんなさい。もうしばらく考えさせて。それじゃ。」
その言葉を言うなり、彼女は電話を切った。

部屋にラーメンをすする音が響く。
既に彼女の手の中にあった箸は、フォークになっている。
…箸では食べにくかったのだろう。



彼女の名は、平中亮子。
19歳、職業は普通のOLである。
・・・いや、スタンド使いである彼女は厳密に言えば普通とは言えないが。
趣味はクレー射撃。部屋の片隅には、それのための銃が置かれてある。
腕前はかなりのものらしい。銃の横に賞状の入った額がいくつか置かれてある。
体型は、モデルのようである。細く長い腕、足、指。
だが、恋人はいない。何故なのかは分からないが。

亮子はカップラーメンを食べ終えると、再び、パソコンに向かった。
何かのファイルをサーバーにアップロードしているのだろう。
しばらくして、亮子は携帯電話を取り、玄関に向かった。
その理由は、買い物に行くためである。
ファイルは相当大きいもので、落とすのに時間が掛かるだろうと思った彼女は、食料を買いに行くことにしたのである。

数十分後、亮子は手ぶらで出てきた。
「まさか今日が大安売りの日だったとは・・・。得しちゃったぁ。」
という言葉から、何かを買ったことは事実ではある。
「・・・あ。鶏肉買うの忘れてた。」
そして、中に入り、少しして戻ってくる。
「ふぅ、明日これが無くちゃあねぇ。」
亮子はそういいつつ、地面を左手で触る。「『影傀儡』!」
影が伸びてくる。そして、鶏肉が入っている袋を包み込むと影の中に戻っていく。
影傀儡を倉庫に変身させて使っているのである。

その帰り道。
「んー。明日は何にしようかなぁ。焼き鳥?・・・って串ないし。」
びしゃっ。と何か大きいものが濡れた道に落ちたような音がした。
・・・何かゼリー状の物体らしい。上に続いているようだ。
亮子は、何か嫌な予感がした。しかし、上を見ないと始まらない。
上を見る────────────────────何かが落ちてくる!
亮子は、とっさに避けた。びしゃっ。とまた音がした。
亮子の真上に落ちてきたものは、さっきと大して変わらない。
「スタンド使いだな・・・。」
亮子は影傀儡を自分の周りに絡ませ、警戒態勢を取る。
「ふむ、やはり・・・。ならば、死んでいただこう!
 我が『水人形』(ウォーターブルーフ)によって!」
「『影傀儡』!」刹那、『水人形』の攻撃が命中する。
「しとめた・・・か?」男は亮子がいた場所に近づく。
「『影傀儡』!『焼き林檎』(ヒート・アップル)!」いきなりの攻撃。
「なにぃっ!?」男はすんでの所で、突然の攻撃をかわした。
・・・?何か、どろりとしたものが足にまとわりつく。
─────!?コンクリートだ。コンクリートが溶けている!
「な・・・!?」コンクリートは、男の足を拘束した。
「くそっ、足が・・・」動かない。コンクリートは、再び固まっていたのだ。
「油断大敵、ってね。」亮子が出てくる。
「これが・・・貴様のスタンド能力か・・・?」
「んーん、私のスタンド能力じゃないの。」
「!?馬鹿な!周りには誰も居ない!!なのに何故!?」
「真似ただけよ。他人の能力を。」亮子は、さも当然のような口調で言った。
「なん・・・だと?」信じられない。男は、そう思っている。
「私の『影傀儡』は、物体に変化する能力を持っているの。
 無機物、植物、動物、人間・・・。スタンドにだって変身させられる。」
「『変身』する・・・能力!?」
「さて、そろそろおやすみの時間だよ。」
「やられる前にやってやる!!『水人形』!!」
しかし、スタンドは動かない。気付いてみれば、
巨人の形だった水がすべて無くなり、UFOのようなスタンドが露出しているだけであった。
「なん・・・だと?」
「『馬鹿な、何故だ、何故水が集まらない!!』って?」
「───!!」

なぜ、スタンドが動かないのか。
それは、『影傀儡』を使い瞬時に相手のスタンド能力を封印したのだ。
どんな能力で封印したのかは、定かではない。
夜のような暗さの中、漆黒の『それ』を視認することは出来ないのだから。

そして。
携帯電話が鳴った。
「もしもし?亮子よ。」
『私だ。ファイルは落とした。全く、重いファイルだな。』
「本当。アップロードにも時間が掛かったわ。」
『さて、例n』
「まだ考えてる途中だから。」
電話を切った彼女は、携帯電話をポケットの中に入れる。
「さぁてっと、明日は唐揚げにしようかな〜」
────────────こんなことを言いながら。



平中亮子
────無傷。

男(本名不明)
スタンド名『水人形』(ウォーターブルーフ)
────病院送り、全治3ヶ月