A:rk’s Days 第2話

「…やっと見つけた。貴様が…貴様が父さんや母さんを…」
「ふん、貴様程度…私が直接戦わなくとも、と思っていたが、見くびっていたな。
 この私と戦えることを光栄に思えっ!!」
剣が交差した。赤い部屋で戦う2人の人影。
「誰が、貴様なんかぁっ!!」
「くくっ、貴様のような小僧に、私が倒せるはずが無かろう!!」
その声とともに弾き飛ばされる少年の体。使い古された長剣が根元から折られていた。
「…くそっ…ならば…アレを…使う!!」
そうして鞘から抜かれた2本の剣。
左手の剣は虹色に輝き、右手は眩しいほどに白い。
(カリン…こんなものを作るとは…)
お互い、一瞬だけその剣に見とれ、
「貴様が持つには惜しい…その剣、私がもらうっ!!」
「黙れぇっ!!」

「…夢?リアルだな…」
「兄ちゃん、いる〜?」…ナナカの声。
「ああ。お前も見たのか?あの夢」俺達は他人の夢を共有することがたまにある。
…と、とりあえず部屋の中が話しやすいよな、普通に。
そう思って俺はドアを開け、ナナカが部屋に入ったことを確認してからドアを閉める。
「…あの剣って、どこかで見たこと無い?」
「…カリンって、確か『22騎士』の『雷鳴の狙撃手』だったよな」
「「…」」

「だから、俺はお前に会うために来たんじゃなくて…」
「それでもうれしい♪タクト君がいると幸せなのっ♪」あーもう、やっぱり来なけりゃ良かったかもしれない。
「あの、シルフちゃん…リョウさんはどこにいるの?訊きたい事があるんだけど」
「『運命の騎士団』入隊なら銀の国までお越しくださいよ?」いや、その用じゃない。
「…リョウ、あんた、もしかして…」
そしてそこから数分ほど今朝見た夢を話して…
「…ああ、全部合ってるよ。…気の遠くなるぐらい昔の俺の記憶だがね」
「そうか、やっぱり…」俺がそう言いかけるとリョウの後ろに天使の女の人が出てくる。
「リョウ、準備は…あら、お話中?」…準備?何の準備だ?
「ああ、準備はできてるが…おい、君ら」
「何だ?」「何ですか?」俺とナナカの声が重なる。
「一緒に『銀の国』まで行くか?俺ら、これからちょいと月間報告で行かなきゃならん。
 お前らも銀の国に行くのには転位とか飛行とかできなきゃ『金の国』の航空機で行かにゃならんが、それも結構高い。
 で、どうする?こっちは数人増えた所で困りもしないしな」
…なるほど、『銀の国』に行くついでに俺らも連れて行ってやる、と?
「…じゃあ、行かせて貰う。後で行くのも面倒だし、今日は休日だし、な」
「あ、兄ちゃんが行くなら私も行くよ」ナナカが俺の腕を掴む。
「あ、じゃあ僕も一緒に行っていいかな?ちょっと気になるんだ〜」シルフも俺の腕を掴む。
「OK、じゃあ国王に報告しとかんと…っと、おう、国王。いつからいたんよ?」
…立派な髭を生やした男がそこにいた。渋い。
「ああ、リオの『行っていいかな?』あたりだな。…三人とも、気をつけなさい」
「うん、父上、ありがとうございます♪」

『銀の塔』受付─────────────────
「と、言うわけで2人の入団試験と見学を1人、よろしく」
リョウが書類を受付嬢に渡しながら言う。
「分かりました。では…タクト様とナナカ様は目の前の階段を降りて真っ直ぐ、リオ様はここを真っ直ぐ行ってください」
「…2人とも、頑張りなさい」カリンの応援。
「はいっ、がんばりますっ!!」ナナカが意気込む。…まぁ、『22騎士』に応援されるのは特別な気分になるしな。
──
「さて、俺らも行くか。つったって、一時間早いから待たなきゃならんがな」
「そうね。…でも、カリナちゃんや幽ちゃんがいるでしょ?」
「ああ、あの幼女2人組み、か。…今思ったが『22騎士』って幼女や少女多くねえか?」
「確かに…でも、なんだか必然のような気がするわ。だって作…
「カリンさん、それ以上言ったら闇に葬られますよ!!」

…黒い部屋、か。上のほうに窓が見える。…ああ、シルフがいるな。
「…なにが出てくるんだろうね、兄ちゃん」ナナカが言う。
この部屋は一応照明があるのだが…内装が黒なのだろう、亜空間にいるような気がする。
「…まさかベヒーモス、とか?」ナナカの声。
「全く…何が出るのやら」俺がそう言った瞬間、前方からブロンズゴーレムが2体。
「…楽勝だな」「楽勝だね」声を重ねると、俺は右のゴーレムに切りかかった。
ナナカは、トカゲの幻獣を呼び出し左のゴーレムに炎を放つ。
────────────────────────────────秒殺。
「やれやれ、手ごたえの無い…」俺がそう言ったとたん、今度は両横からでかい蟹が2匹。
しかし、こいつらも秒殺した。「さて、次は何がでてくるのやら」
その俺の台詞に答えるように…リッチが2体。
「「『浄魔言陣』」」同時ということもあってか、効果が相乗され、リッチ2体が崩れ落ちる。

─────────────────────会議室
「…ふむ、ならば各国は平和、と」
「『銀の国』にしても各国国民にしても嬉しいものだな」
「これも皆の者が奮闘してくれているためだ」
会議室頭上からの老人達の歓喜の声。
「ええ、ありがとうございます。して、今日はこちらに来るついでに有望な新人を2人連れてきました」
「…どうせ貴様が紹介したものだ、当てにはならん」犬耳の侍が答える。
「セリアさん、本当は逆でしょう?ほら、尻尾も千切れそうな勢いで暴れてますし」黒いマントの男性が侍に言う。
「…全く、お前は素直じゃないな。たまには『お父様大好き』みたいな事も言えんのか?」ハイエルフの女騎士が続けて言う。
「黙れっ、あんたたちには関係ない!」セリアと呼ばれた犬耳の侍が机を叩く。
「…三人とも、落ち着け。趣旨が変わる。…で、その二人は今試験中だが…今、リッチを撃破した」
「…じゃあ、小隊にはもう入ることは確定なんですね」紅い髪の隻眼の女性が嬉しそうに言う。
「でも、その2人は…こちらまで登って来れるでしょうかぁ?」阿呆面をした女性が尋ねる。
「ま、俺に時空魔法を使わせはしなかった。だが…磨けば光るぞ?」リョウが返す。
「楽しみじゃのう!その2人が入れば、後は1人か?」筋骨隆々の男が言う。
「あの…おとうさま、僕のほうもよさそうな人を一人連れてきたんです。もしかしたらこちらまで登ってくるかもしれません」
「…ま、結果としてあの俺製のドッペルゲンガーを撃破すりゃあこっちに来るからな」
「あのドッペルゲンガ−、すごくいいから、苦戦するんじゃ…」そこまで言うと、緑のローブを着た女性は椅子ごと倒れる。
「…馬鹿か」隣に座っていた体に紋章を刻んだ男が女性が立つのを助ける。
「まあ、後は彼らのやる気次第だろ?皆」ゾンビーの男が笑顔で返した。
「運も必要ですよぅ、龍夜さん」金髪の少女が返す。

─────────────────────試験場
「ふう、まさかグレーターデーモンが出て来るとは、な」
「さすがにきついね。兄ちゃん」ナナカが答える。
「さて、次の敵は…あの男か?」俺は、戦闘態勢を維持したまま後ろに向き直る。
そこにいたのは、狼の獣人。…が。敵意が感じられない。
「…ううん、次の相手は…あっちの2人のようだよ?」
ナナカの指した方向に顔を向けると…赤い髪の隻眼の女性と『金の国』の忍者装束を着た少女がいた。

「「で、今回出したのは誰のドッペルなの?リョウ様」」双子が同時に言う。
「ああ、リュートに幽憐。さて、あの二人、どう対抗してくれるかが楽しみだ。
 ああ、そうそう。レミ、あの獣人の娘はもうちょいと待っててもらわんと…」
「あ、受付でそういうこと言われたので大丈夫ですよ、おとうさま」

「『ファイアーボルト』!!『ライトニングボルト』!!『アイスニードル』!!『ブラックファイア』!!」
隻眼の女が放つ手裏剣と魔法の嵐を避ける。
「くっ、無詠唱魔法なんざ、詐欺だ!!」悪態をついてもどうにもならないが、仕方ない。
「気功闘具『追跡飛針』!!『爆裂円剣』!!」気で作られた針とチャクラムを投げる。
しかしそれも全て相殺される。くそっ、面倒臭い!!
「ならば本気だ!!気功闘具『完全武装』!!」俺の作れる最強の武具を作り出し、突進する。
手裏剣や魔法を切り払いながら懐まで間合いを詰め…
「『アクアトルネード』!!『ガイアランス』!!『スパーク』!!『ホーリークロス』!!」
しまった!!…防御体制をとる暇も無く、魔法を全て喰らう。
そして、俺の意識は…途絶えた。

「『分身の術』!!あなたに、見切れますか!?」私よりも年齢の低い女の子が複数に分裂した。
「それじゃあ…お願い!!『竜騎兵』!!」
白い竜を召喚する現世最強の幻獣。けど、アレが分身なのは分かっている。だから…
「そこっ、ウェーブウィップ!!」本体は私の真後ろ!!
「…ふふっ♪」彼女はそう笑うと…霞となって消える。って、分身!?
私が気付いた時にはもう遅く、首の後ろに手刀を受けた感触。

─────────────────────会議室
「…惜しいねぇ。アレだけ強ければ問題無いけど?」寝巻きを着た少年が口を開いた。
「…リーピィ、あんた起きてたんかい。珍しいな。 まあ、彼らはまだまだ磨く余地があるさ」
「男の子の方がものすごく楽しみな気がするよ」黒いマントの男が続けて言う。

結局、俺達は『運命の騎士団』の入団試験には合格した。
実は3戦でまず『運命の騎士団』に入れるかどうか。
後の3戦…現『22騎士』のドッペルゲンガーを倒せば『22騎士』になれるのだという。
「ああ、そうそう。ドッペルゲンガーはオリジナルよか弱めに設定しとるよ」
リョウは笑顔でこんな事を言う。そして、俺たちへのアドバイスもくれた。
「タクト、お前さんはいい線行ってるが…今は器用貧乏だ。
 攻撃するなら攻撃、防御するなら防御に重点をおけ。せっかくの気功闘具が無駄だ。
 ナナカ、実際問題竜騎兵よりも『七つの大罪』を3体以上同時召喚したほうがいい。
 そいつらの総合能力は3体で竜騎兵を上回るからな」
「…待て。ナナカの幻獣はともかく、何で俺の気功闘具にアドバイスできるんだ」
「ああ、昔…いや、俺にとっちゃ昔じゃないが。ほんの5〜60年前か。
 御風カナエっつーのが『22騎士』にいてな、そいつが気功闘具使ってたんだよ。
 そいつを『解析』したんよ。だから、気功闘具に関しては多分俺が今一番詳しい」
「…そういえば、御風カナエって…『変幻自在の現れ』って言われてたよね…」
「ああ。気功闘具ならそう呼ばれるのも無理はないだろう。
 …で、何で今更俺たちに言う?今まででも言う機会は十分にあっただろ?」
「ああ、タイミング外しただけ。…で、お前ら。
 本当は左利きだろう?何で右利きのように振舞っているんだよ」
「…私も兄ちゃんも両利きだよ?」
「え…そうなの?」リョウが阿呆面をする。

そして、訓練室。
「…気功闘具『高速体勢』!!」練習用ダミーに高速の攻撃を加える。
「…なるほどな」リョウの言ったとおりだ。『完全武装』よりも攻撃・防御力が低いが速さは段違いだ。
「ベルフェゴール!!アスモデウス!!マモン!!」3体の悪魔を召喚してダミーに攻撃を加えさせる。
…確かに、竜騎兵より能力が低いが、小回りが効く。攻撃範囲が広い。
後は高位幻獣3体召喚にナナカの魔力が耐えられるか…
「…もぅ、いっぱいいっぱい」俺が訊くと、ナナカはこう返した。
「じゃあ、一旦休むか」そして俺達は休憩所へと足を進める。
「ちょっと、2人とも…僕を忘れないでよぉ」シルフが声をかけた。…忘れてたな、俺。

「…貴様、私の頭を撫でるな!!うっとおしい!!」
休憩所で犬耳と犬の尻尾を生やした天使がリョウに頭を撫でられている。
「尻尾振りながら言っても説得力ないよ?セリア」
「もう、セリアちゃん。素直になったら?」カリンがちゃちゃを入れている。
「かっ、母様!!悪い冗談を!!」セリアと呼ばれた犬耳の天使が顔を赤くさせながら反論。
「おねえさま、おとうさまも素直になって欲しいんですよ」甲殻人の女の子がつなぐ。
「…なぁ。あんたら、退いてくれないか?」俺たちにとって邪魔なところで戯れている四人に言った。
「おお、赤風兄妹に姫さん。休憩か?」
「ちょっと『七つの大罪』複数召喚はきついんだよぉ〜。ねぇ、兄ちゃん」
「…いや、俺分からん。で、何飲む?いつものアレか?」
そういいつつ俺は自分用のミネラルウォーターのボタンを押す。
「うん。お願い、兄ちゃん…」大きく息を吐きながら椅子に座るナナカ。
「きつそうだな…えーと、確か…あったあった、『魔力符』」
「ふえ?」振り向いたナナカの額に呪符が貼られる。
俺はナナカのオレンジジュースを取り出しながら見ている。
「…どうだ?楽になったろ?この呪符は言うなれば魔力タンクみたいなもんだから、
 これでまたやれるだろ?長時間の休憩挟まなくても、な」
「…あ、ありがとうございます」ナナカが礼を言う。
「…企んでは、居ないよな?」「ん、ああ」ナナカにジュースを渡しながら訊くと即答された。
「…おい、君たち。私と戦ってはくれないだろうか?無論、それなりの礼はさせてもらう」
「…おや、セリア、ずいぶんとやる気やね」犬耳天使にリョウが茶々を入れる。
「黙れ。貴様、いい加減にしろ!!」犬耳が顔を赤らめて返す。
「あ、わたしもお願いできますか?」そこに甲殻人の少女が続けて言う。
…まあ、いいか。

金属のぶつかる音が響く。
「気功闘具『攻撃体制』!!」重量のある気の剣を振り上げる。しかし…
「…!!」居合に入った犬耳天使が刀を抜き始める。
跳んだ。重剣の重さに身を任せて空に投げ出す俺。
「く!」重剣を刀で左に流された。即座に俺は防御を右に集中させる。
拳が俺の作った盾に激突する。今度は気を足に集中させ、「気功闘具『高速体制』!!」
一旦離脱してナナカの援護。「はあっ!!」「うやっ!?」「なっ!?」
そのまま甲殻人に踵落しを打ち込む。そしてタイミングをずらしてのナナカの鞭。
両腕を封じたのはいいが…「レミ!!伏せろ、『横一文字』!!」
避けるしかない。「リヴァイアサン!ベリアル!ルシファー!」
「危ない、おねえさま!!」3匹の攻撃を甲殻人がまともに喰らう。
「レミ!!くっ、『斬空閃』!!」地面を衝撃波が走る!!
ナナカがそれを打ち消したが、天使は既にナナカの目の前。
俺は蹴りを放ったが、流されて、ナナカが斬られる。

「…なかなか」いつのまにかリョウの横に老人が立っていた。
「…ちょいと擦っただけなのにあそこまで成長するか?」リョウが驚いた顔で言う。
「…」絶句して声も上げられないリオ。
「ふむ、ならば彼らは『22騎士』に入れるかのぅ」老人が言う。
「つったって、規則で昇格試験は前の試験から1年、と決まってたよな」すかさず返す。
「リョウ、リオちゃん、どう?戦況は」カリンがトイレから帰ってきた。
「ナナカちゃんがレミを倒した。タクトも気功闘具を上手く使いこなしている」
「見立てはどう?セリア、勝てそう?」モニターを覗き込みながら訊くカリン。
「タクトを倒せないような娘じゃないぞ?…だが、数年後はどうだろうな。ひょっとしたら今の状態のセリアと互角…」
「…そこまで。彼らには何か憑いてるのかしら?」
「…姫さん、どう思う?」リオに流れを渡す。
「いや…そんな事言われても…」

正直、スタミナ切れだ。追い詰められている。
「…レミを倒したのは、…誉めよう。だが、…お前達が私を倒すのには、まだ多少早い…
 『今の私』を倒したいなら、数年だ。それだけ君たちの能力が秀でている」
『今の私』…?まだ、何か隠しているのか?
「…『22騎士』に入れるだろう。1年後が楽しみだ」
それだけ聞くと、「『鏡斬剣』!!」…無数の硝子だか何かの破片が俺の体を貫く。

…?ここは…休憩室?
「おお、気付いたな」「兄ちゃん、大丈夫?」「タクト君…?」
リョウとナナカ、シルフの顔が俺の視界に入る。
「ああ、大丈夫だ」ベッドから起き上がる。
「…すまない、加減を間違えた。傷跡は残ってないよな」天使がばつの悪そうに言う。
「ああ」俺がそう返すと「礼だ。アミュレット。ちゃんと付けて置けよ」
青い宝石のついた護符を渡される。ナナカのは赤い宝石らしい。
「…って、セリア!!それ俺がこの間やったアミュレットだろ!!」
「うるさい!そもそも、私がこんなもの持っていても、意味がない!
 敵の攻撃は防御するのでなく避けるのだからな!全く、父親面するならもっと私のことを考えろ!!」
「…聞きましたけど、プレゼントを貰ってその場で開けずに部屋でこっそり開けたって?」
シルフが即座に尋ねると、セリアといわれた天使はちょっとびくっとしたような反応。
「…セリア、そんなに期待していたのか?」またびくっと反応。
「…どうせ期待した私が馬鹿だったんだ!!」そういい残し、脱兎のごとく逃げ出した。
「「「「「「…」」」」」」辺りを沈黙が包んだ。

「本当に、夕食まで…良いのか?」カルボナーラスパゲティーを飲み込んで尋ねる。
「心配なさんな。装備の調整とかは俺達は金がかからんからすぐに貯まっていくからな。
 回復とかも自前だし、普通の生活以外に金使う要素が見当たらん。
 寄付にしても『管理が大変』といわれて俺の平均的な収入ですら余るほど」
…おい、一体どんだけ稼いでいるんだ!?
「…父様…大好き…離れないで…」セリアの声。昼間とは別人だ。
「誰だよ、酒飲ました…」俺たちが振り向くと、カリンとレミと呼ばれていた甲殻人が…
「おい、お前ら、一体どんだけ開けてんだ!!特にレミ!お前まだ酒飲める年齢じゃ…」
そう言いかけたとたん、レミがリョウの後ろに素早く回りこみ、カリンが酒をラッパ飲みさせる。

「…駄目だ、酔っ払いにゃ勝てねぇ」酔っ払い2人から開放されたリョウが呟く。
ちなみにビール瓶30本以上は開けている。…こいつら、一体何者だ?
「「…大丈夫?リョウさん」」ナナカとシルフが声を重ねる。
「ま、なんとかな。…で、この2人どうしようか」セリアを抱えながら呟いた。
「…俺に言われても」「…私に言われても」「…僕に言われても」ナナカ、シルフと共にハモる。

結果、俺達はホテルに泊まることに。
次の日は何事も無く無事帰宅。
「…ふぅ。いるんだろ?お袋?」半ば呆れつつ声をかける。
「…やっぱ本職にはかなわないよぅ。こっちもいろいろ頑張っているのよぅ?」背の低い女の子。これが、俺たちの母親だ。
「お父ちゃんは〜?」ナナカが訊く。そういえば、何かうまそうな匂いが家の中からしている。
「帰ってきてるよぅ。今回も運良く同じ時期に休暇とれたよぅ♪」
いつもこの二人はお互いに相談なく休暇を取るが同じ時期に取れるらしい。
…運がいいとかの問題じゃあないだろ?

暖かな光の中、学校の生徒の屍が累々と…。いや、冗談だ。夢の中に入っているだけだ。
「…(『君たち、寝ている人たちを起こしてやってくれ』、とスケッチブックに書いて見せる)」
一般教養・物理。一応此処は高等学校だからこんなこともやる。
「…気功闘具『追跡飛針』」寝ている奴に針を刺す。全員が飛び起きる。
「でも、やっぱり声が出せないと不便ですよね、先生」ナナカが言う。
「…(『まあ、仕方がないよ』とスケッチブック)」
そう、この先生は言葉が喋れない。そして授業が続く。

「そういえば入学試験の成績、今日発表らしいぜ」「見たか?俺、お前よりも上だぜ!!」
休み時間。廊下に、入学試験の成績が張り出されている。
ちなみに、俺たちの成績はというと…
「すご…。タクト君、ナナカちゃん、2人とも全科目満点だなんて…」
これのおかげで変な眼鏡に因縁をつけられた。さらに、シルフは…
「…95、70、89。平凡だな」「確かに、平凡だね」
「…もう、いいでしょ?平凡のほうが。君たちみたいに誰かに因縁つけられることも無いし」
「…おい、赤風」アーセ、か。クラスメイトの男のハイエルフだ。
子供の頃から男のハイエルフとは何故か相性が悪い。「…なんだ」「…何?」
「貴様達、入学試験の点数が良いからっていい気になるな。人間風情が」
…やっぱり、ハイエルフの男は嫌いだ。いつもいつもこればっかり。
「おい、キザ男。俺達はハーフエルフだ。そこをしっかり覚えておけ」
「…くくっ、ハーフエルフ、か。所詮できそこない、貴様が我らに勝つなど…」
「アーセ、黙りなさい!」アーセが後ろから股のあたりを蹴り上げられる。うわ、痛い。
「全く、あなたは…何度言ったら分かるのです?ハイエルフだからとて、多種族を罵って良い訳がありません!
 生物は全て平等です!何度言えば分かるんですか、この石頭!!」
…後ろから現れた少女に説教をかまされている。アリエスだ。彼女もハイエルフである。
「わ、分かりました、すみません、アリエス様」アーセが頭を下げる。
「…私より、この方たちに謝るべきでしょう?あなたって人は…」
「ふん、この出来損ない…」ボグッ。…アッパーが股に入った。全く、この二人、見ているだけで痛々しい。
「あなたは、性転換したいんですか?」冗談とも思えない発言。
「…アリエス、今のアッパーは、酷いわ」後ろからリアが声をかける。
「私も、戯れでタクトのそこに入れたけど…タクト、ものすごく悶えてたし」
…ああ、そんなこともあった。その後リオが痛みを和らげてくれたな。
「…もう、リアったら。恥ずかしくないの?」リオが顔を赤らめて言う。
「それはリオちゃんが夫婦の営みに強い関心持ってるからでしょ?」ナナカがすかさず口を挟む。
「ちょ…、ナナカちゃん。何を言って…」さっきよりも赤い。
「えっちぃね、リオちゃん…」そこまで言うと、リオのメイスがナナカに直撃した。
「酷いよ、ナナカちゃん!!」泣きかけだ。そこでチャイムが鳴る。

「そんで?そんでこんなことになっとるん?」妙な口調のワニの獣人。
フェイカーだ。彼女の使う武器は、『ミサイルランチャー』とか言う『金の国』の兵器である。
「ふん、所詮下等生ぶ…」「いい加減にしなさい」アリエスの足がやはりアーセを蹴り上げる。
「…退いて」声のほうを向くと、ミルファーがいた。ミルファーは、槍を使う女戦士だ。
「おや、ミルファー。いつでも仏頂面やなぁ」フェイカーが笑いながら言う。
「…ええ」否定せず、歩き出す。
「なあ、ミルファー、さっさと決めたらどうや?本人此処におるんやし」
「…見るでしょ」「せやけど、呼び出すんやったら今のうちやで?お前さん、タ…」
風が吹いた。ミルファーからフェイカーに向かって。
「…余計な」「…ごめん、ほんまごめん」ミルファーの殺気にお気楽のフェイカーもたじたじだ。
「…タ?タって言ったら…」おい、何故そこで俺を見る。後ろから刺されるぞ、シルフ。
「「…タクト、よね」」アリエスとリアが同時に。おい、何で俺が。
「…」顔を赤らめるミルファー。…ああそうか、なるほど。
「そういえばお兄ちゃん、物静かな人がいいって言っていたっけ」
「え!?じゃあ僕は範囲外ですか!?」もちろんだ。むしろうざい。
ここでチャイムが鳴る。

…帰り道。
「…なんか、疲れた」あれから、結局休み時間ごとに話し込んでいた。
が、そこに…数人の男が立ちふさがる。
「よぉ、兄ちゃん。ちょいと金貸してくんねぇかな?」「嫌だ」
スッパリと即答すると、キレるか脅す。これが普通だ。
「あのなぁ、兄ちゃん。俺達は泣く子も黙る暴走族『夜磨亜羅死』のメンバーなんだぜ?
 今のうちに言うこと聞いていた方が、痛い目にあわずに済むんだがよぉ?」
「…やれやれ。何でこう、春には阿呆がよくいるんだ?ナナカ」「知らな〜い」
「おい、テメェ、人の話を聞いているのか!?」聞く価値すらない。
「じゃ、帰るか」「そだね」こうすれば、大抵キレる…いや、キレないのは気が長い奴か、馬鹿だけだが。
「おいテメェ!!無視してんじゃねぇ!!」ほら見ろ。
「「…やれやれ」」声を重ねると、戦闘体制に入る。といっても、相手は只の素人。数段楽な姿勢で構える。
「死ねぇ!!」ナイフを振り回す。だが、チンピラ達は俺たちの目の前に来る前に瞬殺された。
「やれやれ、全く」リョウだった。しかし、奴は…いきなり現れた。
チンピラたちに攻撃を放ったそぶりもない。攻撃を放ったなら、そう解釈できる動体視力を持っているはずだが…
「…何をしたの?見えなかった…」ナナカが訊く。
「ああ、時空魔法をかけてね。ま、もったいなかったなあ」…おいおい。
「いや、何でここにいる?」「買い物の帰り」即答される。
「いやあ、偶然って恐ろしいなぁ」「あえてこの道通っただろ」
「あ、分かったか。流石だねぇ」全く、この男は…

そして次の日。教室で、だ。
「今日は学級委員を決めたいと思います。では、まずは委員長になりたい、推薦したい人がいる人はどうぞ〜」
「はい!」…変な因縁つけてきた眼鏡が手を上げる。そして俺のほうを向き、いやみったらしい笑顔を向ける。
「他に居ませんか?」「タクトくんが適任だと思いますっ!!」…は?
「…タクトか、なら納得できるよなぁ…」「いや、私もタクト君を薦めようとしてたんだけど…」
いきなり騒がしくなる。「おい、俺はそんなの…」
「やっぱり君も来ると思ったよ、赤風。それとも尻尾を巻いて逃げ出すのかな?」
「…いや、そんなことはどうでもいい。面倒なだけだ」全く、この眼鏡は…
「兄ちゃん、やりなよ♪」「おい、ナナカ、何を言って…」
見ると、ナナカの手には…『ポテトチップ・鮒鮨味』。…おいおい。
「…」困った。リアは面白がるだろう。フェイカーもノるだろうし、アリエスはアリエスでアーセのためとか言いながら薦めるだろう。
…全くもって八方塞、お手上げだ。…?待てよ?そもそも…
「…そもそもシルフ、お前が変なこと言うから…いや、まて。お前がやればいいだろ?一応生徒会長になったんだしさぁ…」
「残念ながら生徒会長と委員会の兼任は出来ませんよ」…嗚呼、先生。そこで崩すか。
「絶対、貴様を打ち負かしてやる!!」…もういい、誰か助けてくれ…
「待て!屑ども!俺はアリエス様を推薦…」「それは使うなといっているでしょうがぁ!!」
…いつもの急所ヒット。

結果。
眼鏡(クライスとか言うらしい)1票(眼鏡自身が入れた票)。アリエス、1票(アーセの入れた票)。
そして、俺、38票(俺は棄権した)。
…圧勝してしまった。全く、面倒すぎる。誰か、助けてくれ。頼むから。