題名未定のポケモン擬人化小説

これは…ポケモンと人間が共存する世界の話。
…といったって、ゲームやアニメのポケモンとは違う世界の話である。

この世界では、原作どおりのポケモンと人間達が暮らしていた。
だが、突然発生した…人化現象、と呼ばれる現象が発生した。
これは、あるウイルスによりポケモンがいきなり人の形になってしまうもので、
モンスターボールが通用しなくなる。
発生率は対極的に見れば低いのだが局地的に見れば高い。
この話は、その世界のある日常を描くものである…


家の中にフルートの音が響き渡る。
演奏しているのは、…元チコリータであった女の子。居間で演奏している。
…時刻は朝七時。この家の住人は、この笛の音を目覚まし代わりにしている。
居間に、男の子が現れる。「おはよ、チェリー」チェリーと呼ばれた女の子は、演奏を中断させずに礼をする。
其処へ…「和彦さん、今日の朝食は何がいいんだい?」恰幅のいいおばさんが居間に入ってくる。
チェリー用の朝食…ハチ蜜を控えめに塗ったトーストと牛乳を持ってきたのだ。
「じゃあ…焼き魚を頼むよ、エイミー」「じゃあ私もそれにしていただけませんか、エイミーさん」
階上から聞こえる声に、和彦と呼ばれた男の子が目を向ける。
「おはよう、ルーシー」「おはようございます、和彦さん」
金髪の美女が降りてくる。元ルージュラの女性だ。
「あいよ、ちょっと待っててね」台所から声が聞こえてきた。
とほぼ同時に「閣下、和彦君、おはよう…ああ、ルーシーもおはよう」
和服を着た男性が居間に入ってくる。彼はリザードンだった。
其処へ、エイミーが二人分の焼き魚、ご飯や味噌汁、それとお茶にコップと箸を持ってくる。
「エイミーさんもおはよう。…と言うか何時見ても壮観だね、サイコキネシスは」
「伊達に閣下の補佐してるわけじゃないからね」「能力の間違った使い方だね…」
「あのねえ、リデル。能力は賢く使うもんだよ」ちなみに、エイミーは元エレブーだ。
「…ただいま。やっぱり奴が最後か」そういいながら玄関から大男が入ってくる。
「バークレー、キティは低血圧なんだから仕方ないよ」「そうなの…」
続いて女性が居間に入ってきた。「もう朝はダメ…エイミー、和彦様、ちょっと散歩してくる」
揺さぶられると吐きそうな顔である。ちなみに彼女はキングドラ。
「…大変だよな、あいつ」「僕も同感。その分閣下や君は気持ちいいくらい早いけど」
「バークレー、バナナジャムトーストだっけね」「ああ、頼む」
「本当に、顔に似合わないね、バークレー」和彦が苦笑しながら言う。
「果糖は吸収が早い。俺にとっては甘さや色、食べやすさからしてあれが一番だ」
バンギラスのバークレーは、それだけ言うと、シャワーを浴びに行く。
喋っていたうちにチェリーの演奏が終わる。「…もう、皆閣下閣下言わないで下さい〜」
「といったって僕らの中で一番怖いのは閣下だし」「ええ、エイミーさんでも閣下に勝てないんですし」
「私は女の子だから、閣下なんて似合いませんよ〜」トーストを口に運ぶチェリー。
「僕は意外性が好きだけど?」あっけらかんとコーヒーを飲みながら本を読むリデル。
「…でもやっぱり女の子の心を知ったほうがいいな、リデル。
 意外性に関しては同感だけど、流石に閣下ってのはどうかと…」和彦が焼き魚をつつきながら言う。
「…でも気軽に名前を呼べませんよ」ご飯を口へと運びながらルーシーが言う。
「うあ〜、ルーシーちゃんからかわないでよぉ…」
「チェリー、自覚しろ。俺やエイミーですらお前に敵わないんだ。
 尊敬されるのは自明の理、そうだろう?和彦」バークレーが戻ってきた。
「閣下、あんた自分の能力わかってるかい?」エイミーが自分の分の朝食を持って来て席に着いた。

「じゃあ行ってきます」「行ってきま〜す」和彦とチェリーは一応学生である。
…いや、後者はこの騒動が起きてから編入という形で入学したわけだが。
「行ってらっしゃい、閣下、和彦君」リデルが二人を見送る。
「…あ、キティ。お帰り〜」ふと見ると、キティが帰って来ていた。
「ああ、二人とも、もう出る時間でしたの?気をつけなさいな。備えあれば憂いなし、ですわよ」
「確かに、最近物騒だからね。でもまあ…」「閣下がいれば問題無いですわね、確かに」
「む〜…」チェリーが眉をひそめる。「あはは…じゃ、そろそろ行こうか、チェリー」
ちなみに彼等はいつも早めに登校しているので少しぐらい玄関先で話しこんだってどうといったことは無い。
「あ、そうそう。今日は…」「健康診断でしたわね。皆さんわかってらっしゃるから大丈夫ですわよ、和彦様」
「あ、うん。ちゃんと準備しててね」「分かってますわ、行ってらっしゃい」
それを耳の中に入れると、二人は歩き出した。

車の通りが多い交差点。彼等は此処に差し掛かった。
「昨夜の『猿の揺り篭』は本当に面白かったね」
「あはは、思い出しただけでも笑みがこぼれそうです〜」
とまあ昨日見たテレビ番組に関するものなどの本当に他愛の無い会話。…其処に。
ギャギギギギギ!!車が交差点をドラフトしていこうとする。
恐らくは暴走車だ。そしてその先の横断歩道には…女の子がいる。
「危ない!」「蔓の鞭!!」チェリーが首から蔦を伸ばし、一瞬で少女を助ける。
そのついでで、タイヤにも蔦を突き刺してタイヤをパンクさせておく。
とたんに車はバランスを崩し、あらぬ方向へ。
急ブレーキをかけ、何とか建造物との衝突を免れるものの、後続の警察が暴走車両の運転手を捕まえる。
「さすが、チェリー」「えへへ〜」チェリーの頭を撫でる。
「…っと、君、大丈夫かい?」「え…あ、うん、大丈夫。有難うございます」
「それじゃあ、僕たちは学校に行くから」「あ、あの…学校って聖竜学院、ですか?」
「はい、そうです〜」「あの、すみませんが…案内してくれませんか?」
「いいよ、えと…」「あ、七海です。七海優です」少女は礼儀正しく頭を下げる。
「あ、僕は六理和彦。それで彼女はチェリー。よろしく、七海さん」「よろしく」「よろしく〜、七実ちゃん」
そして学校へと足を進める三人。「…チェリーちゃんって、ポケモン?」
不意に優が尋ねる。「ああ、僕の手持ちの中で一番強い…チコリータ」
「…まだ駆け出しなんだね」「ん〜ん、言っておくけど、和彦さんの手持ちの皆はとても強いんだよ?」
「ヘぇ…そうなんですか。今度、私たちと戦ってもらおうかな」「ああ、皆に言っておくよ」
「言っておくけど〜、エイミーさんやバークレーさんは強いですよ〜」
「ふふ、こちらだって負けないよ?」…とまあ、にぎやかに学校を目指す。

「おはよう、和ちゃん、チェリー」「はよ、和彦にちー」教室に入った和彦に声が掛かる。
ロングスカートの女の子に気のよさそうな男の子。彼等は、和彦の友人である。
「ああ、おはよう。奈々子に智也」「おはよ〜ございます〜」
そう言いながらかばんを自分の机に置き、二人に近付く和彦達。
「そういや、今日このクラスに転校生来るらしいぜ」智也が言う。
「朝にチェリーが助けた女の子が此処の場所聞いてきたけど…彼女かな?」
「その子、可愛いの?」「うん、かわい〜よ〜」
「…いつものアレが発動するのか?」「かもね…」ちなみに、奈々子は実はキス魔である。
可愛い人を見つけると、老若男女構わずキスをするという…かなりおかしい癖の持ち主。
そして予鈴が鳴る。

「う〜い、それじゃ、転校生来たから紹介すっぞ〜」髭の伸びた中年男性教師が言う。
見た目はだらしないが、実は頼りになるこの先生。授業もわかりやすく人柄も良いので生徒に人気である。
「七海、入って来い。皆が待ってるぞ」先生がそう言うと、優が教室に入り、一礼をする。
「七海優、レジェンドランクのトレーナーです。よろしくお願いします」
それだけ言うと、拍手が起こる。「さて、席は…六理の前だったな」
「え…六理、君?」「お?知り合いか?七海」「はい、朝、助けてもらったんです」
「おーし、じゃあ六里とチェリーに拍手」そう言うと、また拍手が巻き起こる。
「あはは、恥ずかしいな〜」チェリーがそう呟き、和彦は苦笑いする。
「それで六理、七海に学校を案内してやってくれるな?」「はい」
「よし、じゃあ休み時間でも案内してやってくれ。じゃあ、朝のホームルームを終わるぞ」

ちなみに。
この世界には、『トレーナーランク』というものがある。
トレーナーランクは、下から順に『ブロンズ』『シルバー』『ゴールド』『プラチナ』『レジェンド』の五つ。
おもに所持ポケモンの強さとトレーナーの機転で決定される強さの目安のような物だ。

休み時間。四人は七海に学校の案内をしている。
「それにしても、六理君と一緒のクラスだなんて、偶然ってあるものなんですねぇ」
奈々子に頬にキスをされながら優が言う。「そうだね」と、和彦。
「此処が理科室。この向うに、保健室があるんだぜ。それと、奈々、そこらへんにしとけ。困ってるだろが」
七個を剥がしに掛かりながら部屋を紹介する智也。
「いいじゃない、スキンシップスキンシップ♪」「その域を越えてる気がします〜」
「このキス魔…」チェリーと智也が奈々子の返答に苦笑い。
「そういえば、六理君」「あ、別に和彦、でいいよ。呼び捨てで。三人も名前呼び捨てでいいよ、ねぇ?」
「うん」「おう」「おっけ〜。あ、此処図書室ね〜」図書室の前を丁度良く通り過ぎる。
「じゃあ和彦。…やっぱり君付けさせて」「あはは、いいよ、別に」
「じゃあ和彦君、智也君、奈々子ちゃん…皆、トレーナーランクは?」
「「「レジェンド」」」三人がいっせいにハモる。「…仲いいんだね」
「たまには喧嘩もするけど、なぁ?」「喧嘩するほど仲がいいって言うものよ」
「…そういえば、智也君、奈々ちゃん。ポケモンは人化現象にかかってない?」
「人化現象にかかっているのは僕だけだよ」「そうなんだぁ…」
「優の手持ちは人化現象ポケでしょ〜」「…え、何でわかったんだい?」
「匂いで〜」「す、凄いんだね、チェリーちゃん…」「ちーは色々と凄いからな」
得意げに言うチェリーと、苦笑いするほかの4人。

昼。4人はいつもどおりに他人の椅子を借りるなどして集まっている。
優は、他のクラスメイトと一緒に昼食を楽しむ。慣れるまでこうして友好の輪を広めたい、だそうな。
「あ〜…それにしてもいいなぁ和ちゃん。美味しそうなタコさんウインナー…」
「じゃあ、この卵とじ一塊と交換しようか」「うん、いいよ」
「なあ、ちー。俺のチキンナゲットとお前のウインナー一本、目玉焼き四分の一とを交換しないか?」
「ん〜…レタス一枚つけてくれる?それで交換しよ〜」「いいぜ、交渉成立だ」
他愛ない会話をしながら箸が進んでいく四人。
「…そういえば、今日って人化ポケの健康診断だよな」「ああ、そうだよ」
「大変ねぇ、和ちゃん、チェリー」「うん、ポケモンだったときとはかかる病気とか全然違うからね〜」
「…あ、そうか。じゃあ優のポケも見れるんだな」「どんなポケか見てきてくれない?」
「うん、簡単な事だし、大丈夫だよ。…ポケモンの種類わかるかどうか不安だけど」
「大丈夫だよ〜」「あ、そうか、チェリーがいたっけか」「ちーは色々と凄いからな」
また得意げに言うチェリーと苦笑いで返すしかない三人。

チャイムの音で、今日の全ての授業が終わった。
「皆ー、一緒に帰ろ?」「一緒って言ったって、校門までなんだがな、俺たちと和彦たちは」
「ふえ〜…そうなんだ…」「いつも僕たちと智也たちは帰る方向逆だしね」
「…あら、校門に誰かいるわよ?」全体的に銀色っぽい女性がうつむいて立っている。
「…あ、エリス〜!」女性は、はっとしたように顔を上げ、そして翼を広げて飛んできた。
「ゆ…優様…大きな声で…呼ばないで下さい…」「…でも小さい声だと聞こえないでしょ?」
「それは…まあ…そうですけど…」もじもじと、うつむきながら指を動かす女性。
「そうだ、紹介するね、皆。彼女は僕の手持ちのエアームドのエリス。
 エリス、この人たちは僕のクラスメートの人たち。…ごめん、皆、自己紹介してくれない?」
いいよ、と智也が返し、そのまま自己紹介。そして其処からやっと歩き始める6人。
「…なあ、和彦、優。今日の人化ポケ健康診断は間に合うのか?」「大丈夫」「全然おっけ、だよ?」
「…で、奈々子」「なあに、智ちゃん」「離れてやれよ」
見れば、奈々子はエリスに抱きつき、まさにキスをせんとする体勢だった。
「…いいじゃない、智ちゃん」「あの…お願いです…やめて…くれませんか…?」
もじもじおずおずと言うエリス。しかし…「可愛い〜♪」逆効果。
「あはは、奈々ちゃんもっとやっちゃって♪」「優…あんた、エリスの主だろ?」
「うう…優様まで…」うなだれかけた瞬間、エリスのかかっていた体重が取れる。
「奈々子ちゃん、其処らへんで止めて置いたら〜?」
チェリーが苦笑いしながら蔓の鞭で奈々子を引き剥がしていたのだった。
「そうだね、僕もそう思う。でないと彼女、顔でお茶が沸かせちゃうよ?」冗談交じりに言う和彦
「んう…」「面白かったのに、エリスがあんなに顔を真っ赤にさせるなんて」
「…エリス、君も大変だな」「はいぃ…」

そして診療所。総勢14人が勢ぞろいする。…いや、他にも人はいるのだが。
「…その男の人以外、強そうには見えないね」「エリス以外強そうに見えるよ」
「…まあ、兎に角。自己紹介したほうがいいだろう」「そうそう、私もみんなの事知りた〜い!」
「じゃあ、…僕からでいいかな?六理和彦。皆も、ほら」
「チコリータのチェリーです〜」「彼女は僕たちから閣下って呼ばれてるから」
「閣下はやめて下さいてば〜」「あはは」チェリーをからかって楽しむリデル。
「私はエイミー。家事全般得意だから、何か困った事があったら、いつでも相談に来てくれてもいいわ」
笑顔で頼りがいのありそうな自己紹介のエイミー。
「俺はバンギラスのバークレーだ。宜しく」礼儀正しい自己紹介。
「じゃあ次は僕か。僕はリデル。リザードンだよ」笑顔で自己紹介をするリデル。
「私はキティ、キングドラのキティと申しますわ。こんな口調ですけど、いい人…なのかしら?皆」
「うん、いい人いい人」「キティは低血圧だけどいい人だよ〜」
「…とまあ、こんな私ですの。よろしくお願いしますわ」人のよさそうな自己紹介。
「あら…最後は私なのね。私はルージュラのルーシーです。よろしくお願い致します」
バークレー同様、礼儀正しい。「じゃあ次は優の番ね」
「あ、うん。僕は七海優。皆、よろしくね」元気に自己紹介をする。
「…ハッサムのストーンだ」「フィロウ。フーディンだ」無愛想な二人。
「俺はエビワラーのエディ。今の目標は、マッハパンチで亜光速を出すことだ」
「…腕は大切にしてね?エディ」優からの突っ込みが入る。
「じゃあ次はドミニクね!ドーブルのドミニクよ、よろしくね!」
…いかにも悪ガキっぽい。和彦たちはそう思ったが口には出さなかった。
「カイリューのカトリーヌです」「…?カトリーヌってあのモデルのカトリーヌか?」
バークレーが意外な一言を放つ。「ええ。モデルをやっております」
「…バークレー、あんた…」「エイミー、俺は雑誌も読むんだぞ?」
「…ほれてるのかい?」「ああ、惚れた」「…あんた、からかいがいがないねぇ」
「まあバークレーは誤魔化す事なんてのは余りしないしね」
「じゃあ、カップル誕生かしら?」「…俺とはつりあわないだろう?」
「あ、いえ…私も、バークレーさんに一目ぼれしちゃいました♪」
「…あ、はは…。カトリーヌのこんな姿、見たこと無いよ…」
まだ一人自己紹介していないことを忘れて雑談へと走る人たち。
「…え…あの…」「皆、エリスの自己紹介がまだだから、静かにしようね」
「和彦さん…有難うございます…えと、私はエアームドのエリスと申します…」
「エリス、しゃきっとしなさいな!」「そ〜だよ〜、何も恥ずかしがる事なんて無いよ〜?」
「う…え…でも…」「ま、こんな彼女だけどよろしくね、皆」
「…なるほど、優ちゃん…だっけね、君の手持ちの仲で一番強いのは…エリスちゃんと見た」
「そうそう、見立てがいいね、リデル君」「そんな…買いかぶりすぎです…」
「エリスさんは自分に自信が無さ過ぎ!もっと自信を持つの!」ドミニクがエリスに向かって言う。
其処まで話をしたところで和彦が呼ばれ、診療室へ七人が入って行く。

診断が終わり、このまま帰ってしまうにはもったいない天気になった。
そこで、夕食にもまだ時間があるため、十四人は公園で雑談にふけっているのだった。
しかし…「オイ、そっちは!?」「いや…見つからない!」なんだか慌しい。
「…なんだろうね?」そう言った次の瞬間、首筋に手が添えられる。
「…動くなよ!!」見れば、其処に居たのは弱った少女を抱えた青年。
「和彦!」「和彦さん!」全員が動揺する。が…
「大丈夫だよ。落ち着いて。…見るところ、君は追われているようだけど、僕たちは君を追う者じゃない。
 手を、下ろしてくれるね?」そう言っても、青年は手を降ろさない。
「これで身分証明になれば良いけど…」そう言って、青年に生徒手帳を見せる。
「…なるほど、すまない事をした」「いいよ、それより、その子は大丈夫?」
「…いや、できるだけ早く静かに寝かせてやりたい。消耗しているんだ」
「…じゃあ、皆」そう言うと、和彦の手持ちポケモン達が頷く。
「…何をするつもりだ?」「助けるつもり」「…何故だ?何故、会ったばかりの不審人物を」
「困ってる人は助ける。それに、君は僕たちに対して危険じゃない。この二つが理由だけど」
「…有難う。しかし、冷静だな」「慌てたって仕方ないからね」
其処まで言うと、…「いたぞ!あそこだ!」先刻の男が戻ってきた。
…そして、あっという間に和彦達は囲まれる。
「…おい、少年達。其処の二人をこちらに引き渡してくれないかな?」
「…どうするつもりかに依りますが、引き渡すつもりは有りません」
「…仕方ない。ならば、痛い目を見てもらうぞ!」全員がポケモンを出す。
「痛い目を見るのは」「貴方たちだよっ!!」「…優、台詞盗らないで」
「行けぇっ!」男の声と同時に、ポケモン達が飛び掛る。

…しかし、一方的だった。
エイミーが10万ボルト、バークレーが岩雪崩、エリスが電光石火、リデルが火炎放射、
ドミニクがエアロブラストを使い、能力の高いポケモン達を吹き飛ばす。
そしてキティとカトリーヌの竜巻で流れ弾を防ぎ、
素早いポケモンはストーンとエディが薙ぎ倒す。
精神攻撃に対してはフィロウやルーシーが相殺しながら攻撃していく。
そして、チェリーは…「今だよ!閣下!!」上空にいる!
光を充分に浴びた緑髪から、腕を通じて掌へと収束するエネルギー。
既に和彦達を囲んでいた男達は、ある点へと集められている。
そして、その点に向けて…「ソーラービーム!!」
膨大な薄緑色の光帯が男達に襲い掛かる。

光帯が消え去った。「うぐぐ…強い…」
「手加減しておいたから、もうこれ以上来ようと思わないこと!」チェリーが言い放つ。
「く…お…覚えてろ…」「嫌」満身創痍で逃げようとする男達に対して即答。
「…なるほど、閣下だね」「す…凄いな…チェリーちゃん…」
「閣下のソーラービームは絶妙だからね、アレは芸術的ともいえるよ」
「…幾らドミニクでも、コピーできないかも、あんなの…」
「綺麗でしたね、バークレーさん」「アレはチェリーの取って置きだからな」
「素晴らしい」「同感だ」「…いつかは俺もあのクラスのパンチが撃てるようになるのか?」
感心したり、尊敬したり…色々な感想があった。
「ん…んぅ…」不意に声が聞こえる。青年が抱えている少女が目を覚ましていた。
「ミスティ、大丈夫か?」「…大丈、夫…ミュラー君、は…?」
「…大丈夫だ、ミスティ」「…そう…良かった…」それだけ言うと、少女はまた眠りに落ちた。
「…さて、それじゃあもたもたしていられないね、リデル!」
「それじゃ、和彦君。お先に失礼するよ。彼女が心配だからね」
「あ、エイミーも連れて行ってあげてくれないかな」
「お安い御用です」「それじゃ、和彦さん、美味しい夕食、準備しておきますからね」
「うん、お願いね。それと、彼女は僕のベッドにでも寝かしてあげて」
「ええ、それでは、お先に」そう言うと、リデルは空高く飛び去っていった。
「…ふう、皆、大丈夫?和彦君達も」「大丈夫だよ。それにしても、やっぱりレジェンドクラス」
「そっちだって。特に、チェリーちゃん凄すぎだよ」苦笑いしながら返す優。
「…それじゃあ、優。僕は先に帰らせてもらうよ」
「あ、そうだね。朴達はもうちょっと此処に居るから、それじゃあ、また明日ね」
「うん、また明日」

「お帰り、和彦さん、皆」「うん、ただいま。彼等は?」
「ミスティ…女の子は、少しおかゆを食べさせて今は寝てるよ。
 ミュラー…男の子は、夕食を食べ終わって今は風呂に入ってるはずだよ」
「…心配は無いんだね。それじゃあ、ご飯食べようか。…そういえば、二人は先に食べた?」
「ああ、先に済ませたよ」「それじゃあ、用意しますかね」
「ああ、僕も手伝うよ」「私も〜」そう言いながら、エイミーと一緒に台所へと向かう和彦とチェリー。

「…さて、和彦、だったな。自己紹介をさせてもらおう。
 俺はミュウツーのミュラー。そして今、部屋で寝かせてもらってる彼女はミスティ。…ミュウだ」
「…ミュウ!?そうか、本当に存在していたんだ…だから追われて…」
「ああ。バルグ社の人間に追われていてな。…奴らは本当にしつこい」
「そうなんだ、苦労してるんだね。…ああ、そうそう。こっちの紹介がすんでなかったっけ」
そして、各自自己紹介をしていく。
「しかし…すまないな、俺達のせいで、君たちはバルグ社に目をつけられた」
「何度来ようが叩き返すから大丈夫っ!!…で、バルグ社って、何〜?」
「ああ、裏世界の大会社の一つだ。ポケモン売買で巨大な富を得、
 今尚ポケモン密売を繰り返している。…俺は、其処でミスティと出会った」
淡々と話し始めるミュラー。そして、和彦達は静かに聞き入る。
「俺は、彼女を守ろうと思い、彼女の相談相手にもなってやった。
 そして、ある日…俺たちに人化現象が発生した」
「其処で逃げ出したわけなんだね」そう言うとミュラーは微笑む。
「ああ。脱走は成功して、今日この日に至るまで…大体3ヶ月ほどか、
 バルク社の手先を退けながら、この町まで来た」
「…其処で俺たちを見つけ、バルク社の手先だと勘違いして人質に取ろうとした…か?」
「ああ。そのことは、本当にすまなかった。
 そして、君たちが助けてくれて、今に至るわけだ」
「うん、…見つけたのが僕たちで、良かったかもしれないね」
「ああ。ミスティを病院に連れて行ってやらないとならない、と思っていたが…
 エイミー、有難う。貴方のお陰でその必要は無くなった」
「いんや、礼には及ばないよ。あんたたちはもう、家族だと思っているからさ」
「は?俺は貴方の主人を人質に…」「それは仕方なかったんだろ、それぐらい許すさ」
「…分かった、有難う。エイミー」「だから礼には及ばないって」

そして夜の十時。
「…そういえば、あの部屋は誰の部屋だ?」「僕の部屋。けど、今日は使っててよ」
「いや、だが…」「大丈夫、…それより、ミスティちゃんの傍に居てあげたら?」
「…すまない、有難う」「ははは、何かミュラーはそればっかり言ってるような気がするね」
「…確かに、そう言われればそうだな。こんなに他人によくしてもらった事はないから、だろう」
「うん、大変だったね。これからは、甘えたって大丈夫だよ?」
「…ああ、すまないな。ミスティにも、言っておくよ」「うん、明日は元気な顔を見させてね」
「ああ、おやすみ」「おやすみ」和彦はそう言って、今は客室として使用されている部屋へと向かう。

一日目でボリューム有りすぎです。
とりあえず小説の世界で一日経過毎に上げていくつもりです。
ちなみに、エイミー・バークレー・ストーン・ルーシー・キティは俺のポケ銀のポケモン達が元ネタだったり(だからどうした