A:rk’s Days 第1話

「兄ちゃん、やっぱり格好良いね。」
「…そうか。おまえも似合ってるぞ。」
「ありがとう。私、兄ちゃん好き♪」
「…あいよ。」
…青空の中を歩く俺達。
俺たちはこれから学校に向かうところだ。
「…とまれ、ナナカ。」
「どったの?」
俺が制した瞬間、ナナカの答えと…派手な音が響く。
…俺たちが通う学校の女子制服だ。見事にゴミバケツに頭を突っ込んでやがる。
下着が見えてるのを尻尾で必死に隠そうとしているようだ。助けてやるか。
「おい、助けてやるぞ。」
「了解、兄ちゃん。」
ナナカとともに女生徒をゴミバケツから引っ張り出す。
…蒼い髪に犬の耳が飛び出ている。
「…ふえ?君達は誰?それより、僕は何でこんな事を?」
「…おまえがゴミバケツに突進、はまったから俺らで助けた。
 俺の名は赤風タクト。アクリフィート学園の新入生だ。」
「私は赤風ナナカ。兄ちゃんと同じ学年。貴女は?」
「あ、同級生の人?僕はリオ=シルフェリアスって言うんだ。これから三年間、よろしくね。」
…?リオ=シルフェリアス?どっかで聞いた事が…ああ、この『青の国』の姫さんか。
「よろしく。姫さん。」「よろしく、お姫様♪」
ナナカと声が重なる。…似てないとはいえ、一応双子だからこんなことは結構あるが。

アクリフィート学院。俺達がこれから通う学校だ。
難しくは無いが簡単でもない試験を通ればどんな種族でも入学できる。
また、この学校は通学手段が自由である。…俺にとっては通学手段は徒歩が封じられなければ良いだけだが。

そうこういっているうちに学院に着いた。
「…クラス発表はどこだっけ?」
「「入学式会場入り口」」
「あ、なるほど。じゃ、先行ってるね」
リオはそう言うと会場の方に走っていった…
「兄ちゃん、私たちもいこ?」
「…ああ、行くか」俺たちも、歩き始める。

時は変わって。今俺たちは教室で自己紹介をさせられる。
一応入学式の次の日だ。っと、そういえば俺は最初だっけか──
「…赤風タクトだ。性格は両極端、と言ってもいい。
 好きなことは戦うことだが、のんびりした時間も好きだ。…以上」
「はい、赤風タクトくん、ありがとう。じゃ、次は赤風ナナカちゃん」
────────本当に、ちっちゃい先生だ。教卓より、少し高い程度だしな。
名前は、確かカレン=フォルスティア、だっけ…
「赤風ナナカです。性格はほがらかな感じで、
 好きなことは寝ることと兄ちゃんと話をすることです。」
ほがらかな感じって、何だよ。

「リオ=シルフェリアスです。性格は陽気で楽観的。
 好きなことは機械を触ることで、好きな人が居ます!!」
それを言うと教室中から「おお〜」という声がする。
「赤風タクトくん!!君です!!」
「…ああそう。」面倒臭い。何で俺なんだ?
「おやおや、熱狂的だねぇ。
 じゃあ次は同じ名前のリオ=シン=エレウスちゃん、お願い。」
「あ、え、えと、リオ=シン=エレウスです、性格は内気で、
 えと、好きな事は、あの、勉強です。」
…がちがちだな、昔から変わってねぇ。
幼馴染だってのに俺に対しても敬語を使うっつーのもあまりいただけない。
「ありがとうね。では次はリナ=シン=エレウスちゃん。」
…さっきの姉のほう。そういえば、ガキの頃、あいつが好きだったなぁ。
「リナ=シン=エレウス。性格は陰気。
 好きな事は死霊を操ること。」
今の一瞬で皆が引いた。そりゃあそうだろう。
ネクロマンシーなんて不気味なだけだ。…あいつを好きになった俺が言う台詞じゃねぇが。
…?ツッコミどころ間違えたかな…

そして、休み時間。
「おい、赤風。お前いつの今にあんなかわいい子を落としたんだよ?」
「知らん。勝手に言ってるだけだ。」
「タックトさぁ〜ん。」…来やがった。
「ああ、お前か。シルフ。」リオじゃあ区別つかねーしな。
「?シルフ?…僕の名前はリオだよ?」
「シルフェリアスを略してシルフ。で、何か用か?」
「なるほど…。あと、用は無いよ?ひっつきたいだけ。」
何なんだこいつは…

この学院に入学するまでに聞きなれたチャイムの音。どうしてこうもチャイムの音は同じなんだ?
まあいい、後は帰るだけだが…面倒臭い物が机の中に入ってやがった。
「…赤風タクト君へ。放課後、体育館裏まできてください。先輩方が、あなたに用があります。
 …俺、別に目立ってすらねえが、まあ、行かないわきゃねぇだろ。」
「じゃあ僕も行かせて貰うよ。」…出た、犬。
「俺だけが呼び出されているんだ。シルフ、あんたは行かなくていい。
 ナナカ、先帰って飯の準備しかけてくれ。買い物は俺がやる」
「あ、うん。分かったよ、兄ちゃん」
さて、行くか。

「君が、赤風タクト君、ねぇ〜。かわいい子ねぇ」
…女言葉を使う男子学生が煙草を吸っていた。
なるほど、世間一般で米を炊く調理器具の人か…
「…俺を呼び出したのは誰だ?」
「ア・タ・シ。ねぇ、貴方、私達のためにお金集めてくれない?」
「…パス。面倒くせえ」ってか何のために金を集めろと?
「もう〜、そんな事言わないでよ〜。
 逆らったら、どうなるか分かる、わよねぇ?」
退路をチンピラどもがふさぐ。全く、用意周到だな。
「…全く、面倒くせえと言っているのがわからねぇのか?」
「アナタ、二度目よ?…逆らっちゃだめよぉ?」
逆らう?従いたかねぇな、こんな奴にはよ。
「さっさと帰らせてくれ、こちとら暇じゃねぇ」
「…アナタ、年上は敬え、と教わらなかったの!?」
「そちらこそ、他人に迷惑をかけるな、と教わらなかったのか?オッサン」
強力な一撃を叩き込んでやった。そろそろ…
「やっちまいなさい、アンタ達ぃ!!」
釣れた。まぁ、こんな無能どもに俺は触られねぇよ。
「ぐぁ…」「がっ…」「げふっ…」ほら、こんな風に。
「…な、ア、アンタ、一体、何者!?」怯えてやがる。
「俺は、赤風タクト。それ以上でも、それ以下でもないぜ?」
「君達、何やってるんだよっ!!」!?この声は…
「先生方が許そうと、この僕、リオ=シルフェリアスが許さないっ!!」
「おい、シルフ。引っ込め。お前は呼んですらいない。
 そもそも、こんなアホども、俺一人で何とかなる。手を出さなくともな」
「アンタ、それってアタシらを挑発しているの!?」
「勿論」即答してやった。

「…一体、何をしたの?」夕日が眩しいな。と思いつつ
「知らないのか?手を出さずに特定の位置にきたときに攻撃、だ」と答えた。
「一応学校の中だからこちらから手を出すわけには行かないから、な。」
「ほえ…」馬鹿みたいな声を出す。全く、この女は変わってやがる。
「あ、じゃあ僕こっちだから。また明日ね♪」

「で、用事ってなんだったの?」
「カツアゲ」全く、時間の無駄だった。
「だから今日はカラアゲなのかぁ…」…突っ込むべきはそこか?
「くだらない事言うな」野菜にドレッシングをかける。
爆発音。それもかなり近く…いや、この家だ。
「…荒っぽい客だ」「礼儀って物を知らないのかなぁ?」
そして玄関へと向かう。

「…全く。懲りろ、オッサン」昼のオカマだ。
「ブチコロス!!」いきなりか。
オカマの腕が空を切る。しかし、その直線上にあったものが爆発した。
「…やれやれ、面倒だ」俺が戦闘体制に入ろうとしたとたん…
「シャギャアア!!」幻獣、か。ナナカだな?
「もう、私達より年上だって言うのに、礼儀をわきまえてよね、オバサン」
蛇の幻獣が水の塊をオカマに放った。しかし、水は命中せずに飛び散る。
「…空気爆発、か。火じゃねぇから水では押さえ込めねぇな」
「分かってるよ。リーヴィア、アクニトに交代!!」
轟音とともに、幻獣がいなくなる。いや、入れ替わる。
出てきたのは、亀。砂塵を操り、オカマを包み込む。
オカマは慌てて爆発させようとする、が、こいつの砂の壁はその程度では壊れない。
…封じた。「なんなのよっ、出しなさい!!」
「出して欲しかったら二度とこんな事とかカツアゲとかしないこと、それと、破壊した物は弁償してもらうよ」

次の日、学校にて。
「全く、ゆうべは面倒だったな」窓からさしてくる陽光を背に、ナナカに言う。
「何かあったの?タッくん。」またこの女か。何気に愛称までつけられてやがる。
「タッくんって…兄ちゃん、そういうの嫌いだと思うよ」ナイスフォロー、ナナカ。お前はよくできた妹だ。
「じゃあどう呼べって言うんだい。って、それよりも、昨日何かあった?」普通に呼べ、普通に。
「カマの襲撃に遭った。で、家具幾つかぶち壊された」俺が喋り終わると同時に予鈴がなる。

1時間目、調理。
この学校は、入学時に時間割を選ぶシステムになっている。
それによってクラスも変わる、ということだ。ちなみに、俺のいるクラスは冒険者・兵隊希望者クラスだ。
「あ、そうそう、タッくんタッくん」
「やめろ、うっとおしい」なんなんだ、本当に…
「昨日の先輩ね、なんか生徒会の人たちもてこずってる人なんだって」
「あんな人に先輩ってなんかもったいなくない?」ナナカが口をはさむ。
「おい、無駄口叩いてる暇ねえだろ?さっさとやろうぜ」やれやれ、面倒臭い話はごめんだ。
「む〜…そういえば、タッくん料理上手いねぇ…」だからやめろ。
全く、何でこんな女がクラスメイトなんだ?
「タッくん?タッくん!?タクトくん!!?」
「んだよ、うるせえな」やれやれ、面倒な女だ。
「さっきから君の事呼んでたのにぃ〜
 …料理、上手いんだねぇ。家でやってるの?」
「ああ、親父もお袋もほとんど家にいないしな」
「…ご両親、何の仕事やってるの?」
「ああ、親父は学者で、主に地殻の研究をしてる。
 今は『赤の国』の火山を調査しているはずだ。お袋は『金の国』で科学者をしている」


『赤の国』『金の国』とは…まず、この世界の話でもするか。
この世界は12の国に分かれていて、それぞれの国には色がついている。
一応言っておくと、今のところ、情勢は穏やかだ。
おっと、世界の名前を忘れていたな…名前は『アーク』だ。

この12の国を統治する世界の警察みたいな役割をしているのが『銀の国』だ。
『銀の国』は『運命の騎士団』と呼ばれる最強クラスの軍隊を所有している。
『運命の騎士団』の主な任務は各国の情勢を探り、今いる国の治安を維持する。
ここ、『青の国』には、『運命の騎士団』中最強と噂される
『双頭の魔龍』の異名を持つ『【死神】リョウ=フェンディス』がいる。
そして、その右腕であり妻である『雷鳴の狙撃手』『【太陽】カリン=ゼロ』。
何故この国に最強と噂される男がいるかは、…端的に言えば、ここが一番危ないからである。
何故危ないかは、話が長くなるので略そう。
まあとにかく、この国は世界一美しいといわれている。今現在はな。

『赤の国』は、世界中で火山が最も多いとされる国だ。
ここにいるのは、火山ということもあってか、火属性の魔物・魔獣や鍛治師が中心だ。
ここの『運命の騎士団』は『静かなる聖獣』の異名を持つ『【戦車】シュン=フェンディス』。
こいつは先のリョウの弟だが…リョウの種族は魔族で、シュンはドラゴン。
本当は違うのではないか、という声もあがっている。
もう一人は『義眼の魔女』、『【隠者】パイロ=オプティス』だ。

『金の国』は、世界中で最も魔術や科学が一番発達している島国だ。
他にも、いろいろ独自の文化が生まれている。
東の『ハクリュウ』では携帯電話、銃器など科学を専門とする地域で、
西の『コクリュウ』には『巫女』やら『忍者』やら…『金の国』以外の国では
滅多にお目にかかれない珍しい魔法を操るやつらがいる。
『運命の騎士団』は『幻影の舞神』と呼ばれる双子…
『【月】マリア=フェンダース』と『【星】エレナ=フェンダース』を派遣している。


「…」「タクトくんすごかったよ〜♪」
おい、誰かこいつを何とかしてくれ。歩きづらい。
「んもうホント、おいしかったなぁ〜♪」いや、お前が作った分もなかなか…じゃねえ、重い。
「…やれやれ、面倒だ」そんなことを呟く俺の目の前に、竜人、獣人、ラミア。
どれも見知った顔だ。全員俺の親戚だ。
竜人は烈、獣人は戒、ラミアは美咲って名前だ。…三人とも結構優秀だから生徒会に入っている。
…血縁関係からすると三人とも俺が叔父にあたる。その理由は長くなるからパス。
「…よう、タクト。元気か?」戒が聞いてきた。「…ああ」
「それじゃあ、生徒会に入ってくれないか?
 あの蛇龍を倒すぐらいだ、会長でも俺たちは異論は無い」
「…蛇龍?あのカマか?いや、それよりもあのカマを倒したのは俺じゃねぇ。ナナカだ」さらりとかわす。
「ま、ナナカも蹴るだろうがな、この話」そういって、後ろを指差す。
「さっすが兄ちゃん、私の性格わかってるぅ♪」ナナカがいた。
「…今、うちは会長がいないんだよ、会長に相応しい奴がいればいいんだが、な」
「あ、じゃあ僕がやりましょうか?」…ああ、そういやシルフは姫さんだっけ。
「…君が?」戒は考え込んだ。そうこうしてるうちに美咲が俺の前に来る。
ああ、そういえばシルフは俺の上に乗って…おい!!早くどけ!!
「…なかなか素質はありそうね、いいわ。
 今日の放課後、グラウンドにきなさい。試験を行うわ」
「試験?」ナナカが答えた。受けるのはお前じゃないだろ?
「俺と、戦う、事、だ」烈がやっと口を開いた。
ここでチャイム。「詳しいことは昼休み、生徒会室で話すわ。」

昼休み。俺はいつもなら屋上で寝ているところだ…が。
「それで、どうすれば合格なんですか?」シルフ。原因はこいつだ。
「俺を、倒す、それだけ、だ」烈が答える。
「ちなみに攻撃方法の制限はなし。ライフキーパーを設置してもらうから命の心配は無い」
戒が付け加えた。ライフキーパーとは、一種の結界で、この中では死ぬことは無い。
傷は即座に回復するが、ダメージは残ったままとなる。
「…じゃあ、全力でやれるんですね♪」
「そういう、事、だ。いくら、お前から、見て、先輩だ、としても、手加減は、不要」
「聞いた話だけど、副会長をサイコロステーキにした会長だっていたわよ、ねぇ」
「百三十八代目、5年前の会長だな」おい、大丈夫だったのか?その副会長は。
「それじゃ、後は放課後、グラウンドで会いましょ」
「健闘を祈る。俺たちはこの後会議があるんでな」
「健闘を、祈る。・・・楽しみに、して、いるぞ。」
生徒会の三人は、それだけ言うと去って行った。

5限目、戦闘訓練。
担当は、カレン先生。2時間続きの授業だ。
「今日は、特別講師をお招きしてます。
 …どうぞ!!」
そういうと、先生が俺たちに目を向けさせた空間がゆがみ、髪を束ねた男が出てきた。
…まさか!!嘘だろ、おい!!
「どーも、『双頭の魔竜』こと『リョウ=フェンディス』です。
 さて、早速だが、俺と戦いたいって奴、いるか?5時間目中だけ戦う許可貰ってるんだが」
…棚からぼた餅、やらせてもらうか。
「「「はいっ!!」」」3人か。俺とナナカと…シルフか。全く、面倒だ。
「…ほう、やっぱりいるのか。それじゃあ、名前を教えてくれや。
 俺物覚え悪いけど、何とか覚えといてやるよ」
「赤風タクトだ」「赤風ナナカです♪」「リオ=
「あ、姫さんは知ってるからいいや。赤風のタクトにナナカね。覚えておくよ」
クラス全員がどよめく。おい、知らなかったのかよ。
…や、知らない奴は知らないよな。王国の行事にはあんまり出ないからな。
「さて、それじゃあ準備しますか」
「あ、もう準備は済ませてありますので、どうぞ存分にやってください、リョウさん」
おいおい、いつの間にライフキーパー張ったんだよ…

眩しいほどに白い長剣と虹色に輝く長剣がリョウの手に収まる。
ナナカは、制服の中から鞭を取り出す。『蛇使い座』という名器だ。
シルフのほうは、胸元からガンブレードを出す。
…待て、あの出し方じゃあ普通は気管を傷付けてるだろ?
まあいい。俺は、俺のやり方でやる。左ひざを曲げ、右ひざを下げる。
そして両腕を垂らす。これが俺の戦闘スタイル。
「おい、タクト…だっけ。武器はいいのか?」
「ああ、武器はもう準備済みだ。さっさとはじめてくれ」
「…OK!行くぜ!!」戦闘開始だ。
「斬・空・閃!!」衝撃波が地面を走る。
俺たちは、ばらけてそれをかわす。
「イファー!!」トカゲの幻獣が出てきてリョウに炎を浴びせる。
リョウは、虹色の長剣を地面に突き立てた。
「八竜が眷族の、生命の根源をつかさどる竜、水竜!!」
リョウが炎を防御しているうちに、シルフが横に回りこむ。
「爆撃乱舞!!」ガンブレードでの連続攻撃だ。
「気功闘具『追跡飛針』!!」俺が援護攻撃を行う。
「ふっ、あたたたた!!」ガンブレードを捌きながら、俺の針を掴み取る。なんて奴だ。
「気功闘具『魔力封剣』!!」間合いを詰めて連撃を繰り出す。が、これも捌かれた。
だが…「ソニックウィップ!!」炎の中から、鞭が伸びてくる。
そのときだった。「フェニックス・ウィング!!」視界が急に変わった。
そして、地面に堕ちた。「危ない危ない…なかなかのコンビネーションだ」
俺は、このとき気づいた。あの一瞬、何らかの方法で、ナナカの攻撃をかわし、俺を吹き飛ばしたのだ。
「…さすが、リョウ。最強の名は…半端じゃないんだね…」
…シルフも、か。やはり、この男、強い。
「…ナナカ!」「…うん」仕方ない、本気で行かせて貰う!!

…5分が経過した。シルフは既に戦闘不能である。
そして、俺たちはまだ戦っている。
「アクニト!!ウィガス!!」2匹の幻獣で同時に攻撃を放つナナカ。
亀が巨大な砂の塊を作り出し、もこもこの獣がその球を風圧で飛ばす。
「気功闘具『爆裂円剣』!!」反対方向から、俺がチャクラムを放つ。
回避先にかぶせるような軌道だ。無傷でいられるはずがない。
…しかし、奴は常識外だ。そのことを俺たちは忘れていた。
「『虎王』!!」砂の塊をやすやすと切り裂いた。
「みんな、戻って!!」幻獣が消えたと同時に横に跳ぶナナカ。もといた場所に奴が突き刺さる。
「『竜巻回転』!!」竜巻が発生し、ナナカが巻き込まれる。
「ナナカ!!こっちだ!!」俺がそういうと、鞭が俺の腕に巻きつく。
すかさず鞭を引っ張り、ナナカを助け出す。
「大丈夫か?」「うん!」それだけを確認すると、再度構える。
「…お前さんら、『運命の騎士団』でも通用すんぞ?いっそ今から入団試験受けるかぁ?」
笑顔で言われた。こんなときに笑ってるとは、な。
「やれやれだ。ここまでやって無傷でそんなことをいわれてもな…」俺は気で剣を作り出す。
「もう、私達は全力を出させてもらうよ」ナナカの足元に召喚陣が浮かぶ。
「…兄ちゃん、止めないよね?」「一応ライフキーパーがある。大丈夫だろう」
ナナカは、俺に笑顔を返すと…白い竜を召喚した。
俺は気を体にまとわりつかせ鎧を形作った。ライフキーパーの外でクラスメイトの驚く声がする。
「…ほぅ、なるほど。面白くなってきた」リョウは、構えを変えた。
「…気功闘具『完全武装』」「…現世最強の幻獣『竜騎兵』」
「「この力、受けきれるか!?」」同時に動いた。
俺は一直線に突っ込んだ。ナナカの竜は空へと飛ぶ。
「『梟』!!」奴の攻撃を、真正面から受け止める。
「ほぅ…」俺はそのまま剣を振りぬく。
リョウの顔から血がたれたことを確認し、バックステップをする。
そこに、竜騎兵が超音波のブレスを放った。
「ぐっ…」奴の周囲の地面が砕ける。
「翔べ!!気功闘具!!」俺は気で作った剣を投げつける。
───────────────仕留めた!!
そう確信したそのとき、…奴の姿が掻き消えた。
「…まさか『空間転位』を使わされる羽目になるとは」リョウは俺の後ろで頭をかいていた。
「なっ…。くっ、戻れ!!気功闘具!!」俺はリョウからステップを使って離れた。
その瞬間、リョウのいる場所に今度は瓦礫のブレスが放たれる。
しかし…奴には届かなかった。見えない何かでブレスが遮られている。
「やれやれ、やっぱり手加減しながら戦いのには少々つらいか。
 空間魔法、使わせてもらうぞ。…『空間抹消』!!」
ブレスが一瞬で消滅した。…殺気がやばい。戦術を間違えれば…どうなるかは想像できない。

5限終了のチャイムが鳴った。
俺とナナカは、ノビていた。
「…お前ら、その気になったら『銀の国』中央塔に来なさい。受付にゃ俺から言っておくよ。
 『運命の騎士団』入団試験をさせてやるよ。楽しみにしてるぜ。
 それと、一応言っておくがまだ『運命の22騎士』にはなれんぞ。22騎士なら時空魔法まで使わせる」
そういうと、奴はトイレに向かって歩いていった。
…『22騎士』、か。今の今まで知らなかったな。
「あの…タクト君、ナナカちゃん、大丈夫ですか?」
見慣れたリオの顔。「大丈夫だ。疲労はともかく精神のほうはな」
「にゃ〜、あの人強すぎ…。私達でもダメージ与えるのがやっとなんて…」
「や、ダメージ与えるだけ強いよ、君たち。僕なんか戦いになったとき指一本も触れなかったしさ」
シルフの声。それほどまでに強いのか…
「あの、回復魔法…かけましょうか?」さて、どうするか。
「いいんじゃない?」この声…リナか。「たまには自然に回復させるのもいいわよ」
「…いいの?」「ああ、お前がやりたくなけりゃやらなくていい」
「…いつまでもリオちゃんの世話になってられないからね、このまま寝転がっておくよ」
「でしょ?…あら、そろそろチャイムが鳴るわね」

そして放課後、グラウンドに俺たちはいる。
「で、タクト。彼女はどうだ?」戒が訊いてくる。
「戦闘訓練だったんでしょ?あなた」美咲がナナカの髪をいじりながら訊いてくる。
「…まあ、烈だと負ける、かな。あまり実力は分からなかったがな」
「そりゃ俺にかかりゃ一定の強さのない奴は同じだからな」後ろからいきなり声がする。
「よっ」ああ、リョウか。
「…え、りょ、リョウさん!?」戒が驚く。
「ああ、俺とナナカとあいつは、こいつと戦った」当然のように返す。
「ちょ、リョウさんをこいつ、なんて言っちゃ駄目よ!!」美咲が慌てて返す。
「や、別に俺の事はなんと呼んでもいいよ?でもオッサンとかは勘弁な。見た目老けてないだろ?」
「…すごい、あのリョウさんとあえるなんて」戒が感動しているように呟いた。
「で、君らは?」おい、今更か。
「獣人は戒、ラミアは美咲、であそこのシルフと戦ってる竜人は烈」
「年下のこの子達が私達の叔父、叔母にあたるんですけどね」
「ほおーぅ、めずらしい。じゃあ、その叔父、叔母が俺に『運命の騎士団』に来いって言われたの知ってる?」
「言ってねえからしらねえって」冷たくツッコミ。「まあ受ける気はあるが、な。あんたを倒したいし」

結局、シルフは勝ち、俺たちは一緒に帰ることにした。
「タクト、ナナカ、お前ら、すごい。一族の、名誉だ」烈が誉める。
「も〜、烈、楽しそうだね」ナナカが烈の鼻をちょこっと押す。
「…それにしても意外だな、タクト君が生徒会の皆さんの叔父さんだなんて。
 僕、そうとも知らずめちゃくちゃやっちゃったなぁ…」
「「遠慮するな」」俺と烈の声が重なる。
「タクトは、あの程度では、怒らない。もし、怒っても、何とか、止める」
「敬語使われるのは苦手なんでな。それに、殺さなきゃお前を突き放したりしねぇ」
…あれ、墓穴掘ったか、俺。
「え〜、じゃあタクト君は僕のこと友達として認めてくれてるんだぁ♪」
おい、むやみに抱きつくな。歩きづらい。
「っと、俺らはここでさよならだ。じゃ、タクトにナナカ。また『運命の騎士団』で逢おうぜ」

「そういえば兄貴は元気かよ?」
「ああ、元気も元気」戒がそう言ったとたん、コケた。
足元にあったのは…兄貴!?
「ちょ、不空兄ちゃん!?」「父さん、ごめん、大丈夫!?」
「…大丈夫よ、二人とも。父さんは気を失ってるだけだからどこかで介抱しましょ」
「なら俺の家だ。目の前だしな」さらりと俺が返した。

「で、兄貴。一体どうしたんだ?」俺がテレビを見ながら聞く。
「いや、実は…」兄貴がそう言いかけたとたん腹の音がなる。
「…父さん、また昼抜いたのか」戒があきれたように言う。
「いや…朝時間の都合で食べられなくて、昼帰って来るだけのお金残そうとすると何も食べられなくて…」
「大変だったね、兄ちゃん。今からオムライス作るからちょっとお菓子でも食べといて♪」
「え…オ、オムライス!!」ああ、そういや兄貴はオムライス好きだっけ。
「兄貴、まあとりあえずこれでも食ってろ。俺はナナカを手伝う」
そういって俺は近くにあった袋を兄貴に渡す。中身は…
「ポテトチップ・鮒鮨味…?」…うげ、嫌な味だ。
「すまん、それは捨ててこっちを食え」俺はそれをゴミ箱に放り込み柿の種を兄貴に渡す。
「ちょっと、兄ちゃん捨てないでよぉ。私楽しみにしてたのに」
「「「「「楽しみにするな!!!」」」」」俺、兄貴、烈、戒、美咲が同時に声を張り上げる。

そして、やっと夕食。
「わぁ〜い、オムライスぅ〜♪」
「兄貴。それが3児の父親の台詞か?」呆れながら言う。
「…本当に、父さん今年で30だろう?いくら童顔だってそれはないと思うよ」
「そうよ、父さん姿形はかなりショタだけど、中年なのよ?」戒と美咲が続けて言う。
「…中年言うなよぉ。悲しくなるじゃないか」
「本当の、事だろう?父さん、年相応の、事を、してくれ」烈がさらりと返す。
「うるさいなぁ、三人とも…」兄貴はバツの悪そうな顔をする。
「いや、本当に子供にしか見えないぞ、兄貴。本当に俺より先に生まれたのか?」
「あ、そうそう。私もそれ言いたかったんだよねー」
「…もう、みんな苛めないでよぉ。早くご飯食べようよぉ」

やれやれ、これからどうなるんだかな…