『魔王』と『死神』

 キン――ギィン――
そこは、何も無い空間……。
 ギヂィ――ギャリン――
漆黒よりもなお暗いその空間で……。
 ギャギャ――ガィィン!
死闘が行われていた……。
イヌミミをつけた銀髪の女性PCと、闇よりも黒い漆黒の衣を着た男性PCの……。

「STS(スキル・トレース・システム)『ストレイヤーヴォイド』!」
「ちぃっ!?」
亜空間を通じてし掛けられるチコラブの攻撃を蒼牙と雪舞で受け流すマサミ。
「貰った! STS・エクステンド『エリアル・レイド+チャージキック』!!」
その隙を突いて、チコラブが空中に跳び、マサミめがけて急降下する。
「甘い! 我が命に応じて、その姿を変えよ…」
その言葉に答えるかのように、蒼牙と雪舞は百本近くものナイフへと変化し、宙に浮く。
そして…、
「いけ! 『シューティング・レイ』!!」
マサミの意志に答えるかのように、百本近くものナイフが光を帯び、急降下をするチコラブに向かって飛んで行く。
しかし……、
「甘いのはどちらだ? STS、キャンセル……。
 STS・エクステンド『メタルブレード+ジェミニレーザー』!!」
まるでその攻撃が来るのを予期してたかのように、先ほどの攻撃を止め、チコラブは無数の円刃を放つ。
そして、光を帯びたナイフと無数の円刃はぶつかり合い、四散する。
「ちぃっ!」
落ちてくるナイフを次々と回収し、それを素早く元の姿に戻して構えるマサミ。
しかし、次の瞬間…。
「!?」
チコラブが…、マサミの目の前に出現した…。
「遅い…」
チコラブがそう呟いた途端、マサミの体が吹き飛ぶ。
しかし、『それ』は吹き飛ぶ途中で霧散し、消える…。
続いて…、
「『水牙龍翔閃』!!」
チコラブの真横に出現したマサミが、水の牙を放つ!
「くっ!」
チコラブはそれを瞬時にかわし、バックステップで距離を取る!
「やるな。まさか、纏った闘気で瞬時に偽者を作り、
 我の隙を突き、貴公の苦手な水属性の技を放ってくるとは…な」
微笑みながら言うチコラブに、マサミは冷徹な目で言う。
「『黒霧の幻影』と『属性変化』と言う技だ…。
 覚えておいて損はない…。」
「ほう…。だが、その程度で我を倒せると思うか?」
「……。戯言に付き合っている暇はない…」
「言うものよ。それほどまでに『彼女』が心配なのか?」
その言葉に、マサミが技の放つ体制に入りつつ、言う。
「だとしたら、どうする…?」
チコラブもまた、バスターシューターを構えつつ、冷えるような声で言う。
「なれば、『彼女』を攫って来たかいがあったという事だ…」
そして…、お互いの姿が闇に消える…。

何故、彼等が戦っているのか……。
事の起こりは、数時間前に遡る……。

──数時間前、プロンテラ。

「あれ? もしかして、マサミさんですか?」
プロンテラの露店を見て歩いていたマサミは、聞き覚えのある声を聞く。
「うん?」
マサミが振り向くと、そこには見知った少女が二人、立っていた。
「よぉ。
 確かリフィールとぱふぇ…だったかな?」
「うん、ものみの丘以来だよね」
「ははは…。
 アレは本当に悪かったよ…」
マサミはかつて、ものみの丘でGMの管理不行き届きにより
モンスターになってしまった彼女達の仲間を攻撃した事があったのだ。
「別にいいんですよ。
 先生も気にしていませんし」
「それはそれで、なんか恐いな…」
マサミは苦笑しながら、言う。
「ところで、今日はお一人なんですか?
 ──さんがいないみたいですけど…」
リフィールが辺りを見まわしながら、マサミに質問する。
「ん? ああ、あいつか…。
 あいつなら、ソロで別の所に行ってるよ」
「ソロって、いつもPTを組んでるんじゃないの?」
今度はぱふぇが、マサミに質問した。
「まあ、いつもならPTを組むんだけどな。
 月に何回かソロでやる時があるんだ。
 まあ、気分転換って奴だ」
「へぇ〜…」
「そう言うお前等こそ、あいつはどうしたんだ?」
今度はマサミが二人に質問する。
「先生ですか?
 何でも用事があるとか言って、何処かに行ったみたいですよ」
「用事ねぇ…。
 まあ、俺にはあまり関係ない事なのかもな…」
そう言って、マサミは自分の腕時計を見る。
「やべ…!
 もうこんな時間かよ!?」
「どうしたんですか?」
急に慌て出したマサミに、ぱふぇは怪訝な顔で質問する。
「今日は昔の仲間達や知り合いとの交流会があるんだ。
 早くしないと…」
「とりあえず、少し遅れる事は通知しておいた方がいいんじゃないんですか?」
「それもそうだな…。
 …………これでよしっと」
そう言って、マサミはメールを送信する。
「ごめんね。リフィール達が話しかけなければ間に合ったかも…」
申し訳なさそうな顔で、リフィールが言う。
「別にいいって。俺もそれなりに楽しかったし。
 んじゃ、またな」
そう言って、マサミはカオス・ゲートへと走っていった。
その先に、悲劇がある事も知らずに…。

──未実装フィールド・『始まりの草原』

「なんだよ、これ…」
リフィール達と別れてから数分後…。
マサミは、自分の仲間が集まっているフィールド──『始まりの草原』と呼ばれる空間内で立ち尽くしていた。
空間の至る所に焼け焦げた後があり、その中央の大樹付近に仲間達が倒れていたからである。
「一体、何が…」
大樹に近づいたマサミは、仲間の容態を確かめながら呟く。
どうやら全員、気絶しているみたいで傷の手当ては既にされているみたいだった。
『マサミ…』
そんな時、すぐ近くから鈴のなるような声でマサミを呼ぶ者がいた。
マサミは、その声の持ち主を一人だけ知っていた。
「花月か…!?」
その声の主がいるであろう方向に、マサミは目を向ける。
そこには、この空間の意志と呼ばれる存在──『天宮花月』が座っており、
そのすぐ側では、この空間の住人──『リルファ』が泣いていた。
「花月、一体何があった!?」
『………』
マサミの言葉に、花月は静かに口を開ける。
『今から二十分ほど前に…、銀髪の魔王がこの空間を襲いました…』
「っ!?
 本当…なのか…!?」
『はい…。
 カイン達も応戦しましたが、数分もしない内に…。
 私も手伝いたかったのですが、リルファを護っていた為に力を振るえず…』
『銀髪の魔王』…その名前をマサミはよく知っていた…。
RTW内で起こったとある事件を解決したPCの一人にして、マサミの知る数少ない高レベルプレイヤー。
そして、禁忌武装・シャハルの鏡所持者でフェイヨン三奇人と呼ばれる者達の一人…。
『神速の射手』チコラブの事を…。
マサミが『魔王』としてのチコラブを知ったのは数日前、偶然迷い込んだフィールドでの事だった。
チコラブに変装した『偽りの魔王』と彼女の仲間達が戦っている現場に遭遇したマサミは、その一部始終を見ていた。
その時にマサミは、チコラブが『銀髪の魔王』と呼ばれる存在だと知ったのだ。
確かにGMであるナナミを倒せるとしたら彼女と、その知り合いである黒月やイデモンぐらいである…。
「なんで、あいつがこの空間の存在を…。
 いや、それ以前になんでこんな事を……!?」
マサミは辺りを見回しながら呟き、ある事に気がつく。
カイン、鳳、ユウキ、ナナミ、アルリア…自分と交流のある仲間達がここにいる。
だが、ただ一人…いつも共にいた仲間がこの場にいなかったのだ…。
その仲間は今日、この空間で先にカイン達と談笑をしているはずだったのだから…。
マサミは、花月に問いただす。
「あいつは…?
 ──はどこに行ったんだ!?」
その問いに花月は、言う…。
『彼女は…』

──未実装フィールド・漆黒の狭間

漆黒の闇が支配する空間で、二人は向かい合っていた。
「ようやく来たか…待ちかねたぞ」
いつもとは打って変わって偉そうな口調で、マサミに話しかけるチコラブ。
「どう言うつもりだ、チコラブ…?」
そんな彼女に、感情を押し殺した声で質問するマサミ。
「どういうつもり、か。見て解らぬのか?
 …本気になった貴公に戦いを挑みたい、理由はそれだけだ」
「だったら、PvPで勝負を申し込めばいいだけの話だろ!?
 何でカイン達を傷付け、あいつを攫ったりする!?」
怒気を露わにするマサミに、チコラブはからかう様に言う。
「本当に解らないのだな…。
 我が求むる『本気』になった貴公。
 つまり…」
一呼吸おいて、チコラブは言った。
「『黒衣の死神』と呼ばれる…貴公と、な」
「なっ…!?」
マサミは驚愕する。
『黒衣の死神』…それはマサミしか知らない唯一の秘密。
それを何故、チコラブが知り得たのか…。
「何故分かったか…瓦礫の街の会話ログだ。
 あそこにはこの世界のあらゆるフィールドの会話ログが萃まる。
 貴公の『死神』の事も知リ…興味が湧いたのだ」
マサミの考えている事がわかったのか、平然と種明かしをするチコラブ。
「だが、貴公は敵との本気の殺し合いでは『死神化』はすれども、
 知り合いがいる場合には、例え殺し合いであろうが『死神化』は愚か『魔神化』すらせぬ。
 それも解っておるのでな…」
「だから、あいつを攫ったのか…!?」
「その通り。
 彼ら…そして、彼女に危害が加われば、本気になった貴公は『死神化』する。
 そこが狙いなのだよ」
まるで、新しい遊びを思いついたかの様な顔で、淡々と語るチコラブ。
そんなチコラブの言葉を聞きながら、マサミは静かな声で聞く。
「それで…、あいつはどうした…?」
「あいつ?
 ああ、彼女の事か。
 心配せずとも、このフィールドの安全地帯に寝かせている。
 無論、我等以外にここに来る事のできるPCもいない」
「そうか…なら…」

──心置きなく、本気を出せるな…。

そう言った瞬間、マサミの服が徐々に黒く染まっていく。
その様子を見たチコラブは気付く。
マサミの周囲に、少しずつ闘気が纏われていく事に…。
そしてその闘気が『黒い』事に…。
「なるほど…。それが『黒衣』の意味か…」
「その通りだ…」
マサミは静かに眼を開ける。
その眼はあまりにも赤い…いや、『紅い』と言っていい眼だった。
「『黒衣』って言うのは、黒服を着ている事が由来じゃない…。
 その者が纏う闘気が、まるで黒き衣を纏っているかのように見える事が始まりだ…」
普段の彼からは考えられないほどの冷たい声で、マサミは語る…。
「俺にこの姿を使わせたのは、PCではお前が始めてだ…。
 誇りに思ってもいいぞ…?」
「ふむ、光栄の極みだな…」
「ただし…」
瞬間、マサミの周囲の闘気は空間の闇より一層冥く、全てを溶かし込み始める…。
さながら、闇を喰らう黒き炎のように…。
「『死神』に見初められた以上、その先に待つのは『死』だけだがな…。
 例え、お前が『魔王』と呼ばれる存在であってもな…」
それを聞いたチコラブは、満足そうに頷きながら…。
「本気で我を狩る…か。流石は『死神』と呼ばれるだけの事はあるわ。
 ならば、我も本気で相手をするとしよう」
そう言った刹那、チコラブの髪の色が栗色から銀色へと変わり始める。
チコラブの周囲はまるで其処で何かが発光してるかのごとく光が闇を貪っている…。
マサミは素直にそう感じた。
「さて、始めようか…。
 手加減はせぬぞ、『死神』…」
『銀髪化』が完了したチコラブ、がバスターシューターをマサミに向けて構える。
「それは俺のセリフだ…。
 もっとも、お前を相手に手加減なんて出来る訳ないがな…」
マサミは静かに蒼牙と雪舞を構える。
「死合うとしようか…、『魔王』…!!」
そして、戦いが始まった。
銀髪の魔王と呼ばれし者と、黒衣の死神の名を受け継ぐ者の戦いが……。

……。
この時から、お互いにわかっていた…。
どんな結果であれ、これが…。
──最初で最後の、死力を尽くす戦いだと言う事に…──


──そして、時は現在へと戻る。
「STS『恋符「ノンディレクショナルレーザー」』!」
「飛翔・瞬光閃!」
チコラブの放つレーザーの嵐をマサミが素早い動作でその間を縫い始める!
「舞踏・鳳凰舞連斬!」
チコラブの懐に入ったマサミが剣舞で攻撃する。
しかし、それを見抜いていたチコラブは絶妙のタイミングでカウンター攻撃を入れる!
「カウンターを忘れているな?
 STS・ダブル・エクステンド…『オートカウンター+シェルブリッド+超熱拳』!!」
しかし…。
「なっ!?」
本来なら敵を吹き飛ぶはずのカウンターが空を切る。
チコラブのカウンターが当たる寸前、マサミの姿が掻き消えたからである。
「お前がそこでカウンターを入れるのは既に予測済みだ…」
どこからかマサミの声が聞こえ、チコラブは素早く身構える。
「カウンター攻撃が聖騎士のスキルやSTSを使った技だけだと思うな…。
 反技・双空牙!」
蒼牙と雪舞を構え、上空からチコラブに斬りかかるマサミ。
「くっ!」
それをギリギリの位置でかわすチコラブ。
しかし、そこに致命的な隙が生じる!
「逃がすかっ!」
マサミはその隙を逃さず、連続攻撃を仕掛けようとする…が。
 ――ギィィン!
「な…んだと…!?」
攻撃がチコラブに届く寸前、一本のナイフが蒼牙を止めていた。
「間に合ったようだな…」
チコラブの声が止むと同時に、闇が一本のナイフを持った銀髪の女性を模った。
「こいつは…!!」
「少々押され手着たからな…奥の手の一つを、使わせてもらおう。
 …弾幕(や)れ。わが僕(しもべ)よ」
その言葉を確認したかのように、攻撃を放つ女性。…女性の声が、冷たく響く。
──幻符「殺人ドール」

何十本にも渡るナイフが、マサミに向かって様々な方向から飛びこんでくる。
「くそっ!?」
マサミは、向かってくるナイフを瞬時に見切り、切り払い、叩き伏せる。
「この攻撃の仕方といい、その姿といい…。
 東方紅魔郷の十六夜咲夜か!?」
「そう…、良くわかったな。
 だが、それがわかったからと言って…事態が好転すると思うか?」
確かに、マサミは闘気で身体能力を上げているとはいえ、少しずつ追い詰められているのがわかる。
だが…マサミは不敵な笑みを浮かべながら、言う。
「だとしたら…、どうする!?」
マサミは迫り来るナイフを切り払いつつ、チコラブめがけて突撃する!!
そこに、チコラブを護るように咲夜が割り込むが…。
「邪魔…だぁ!」
蒼牙と雪舞を構え、そのままのスピードで咲夜を攻撃をし掛ける!
「奥義・翼龍斬翔破!!」
そう言うと同時に、一瞬にしてマサミの姿が掻き消える!
そして…。
──っ!?
何が起きたのかもわからずに、咲夜は…。
『十六夜咲夜』だった者は…まるで霧が散るかのごとく消え去っていった…。


「ん…」
漆黒の闇の中、一人の少女が目を覚ます…。
「あれ…、ここは…?」
少女は辺りを見回す。
漆黒の闇しか見えないその空間に少女は、聞き覚えのある声を聞く。
──成る程、その体で咲夜を倒すとは、な…
「チコラブさんの声…?
 そうだ…。あたし、チコラブさんに眠らされて…」
少女は、自分がどのような立場に立っているのかを認識しようとする。
しかし…。
──お前こそ、切り札を倒された割には余裕だな…
自分にとって聞きなれた声が…聞き飽きたと言ってもいい声が、それを阻む。
「えっ、マサミ…?」
少女は二人の声のする方向へと足を運ぶ…。
──まあ、な。あれだけが我の切り札という訳では無いが…な
──確かに…な
胸の中に、ある種の胸騒ぎを感じながら…。
そして、彼女は二人を見つける。
互いの本気をぶつけようとしている二人を…。


「…ったく。
 本気を出し合ってるって言うのに、まだ奥の手を隠してるとはな」
マサミが頭をかきながらぼやく。
その身体は、先ほどまでの戦闘のせいか、あちこちに傷を作っていた。
「貴公こそ、われのことは言えぬだろう、『死神』」
チコラブもまた、身体のあちこちに傷を作っている。
しかし、その顔にはまだ、余裕の笑みが浮かんでいた。
「まあ…な」
苦笑いを浮かべつつ、マサミは言う。
しかし、突然真顔になり、チコラブに言った。
「なあ…。
 そろそろ決着をつけないか…?」
「決着…?」
マサミの突然の提案に、チコラブが聞く。
「このままじゃ、互いに消耗戦に縺れ込んだままだ。
 それじゃ、俺もお前も納得がいかないだろ?」
「ふん、勝とうが負けようが我には関係ないが…
 面白そうだな、乗るとしようか」
そう言って、警戒をそのままに構えを解くチコラブ。
「それで、勝負方法は?」
チコラブの言葉が終わった瞬間、両者の闘気が一斉に吹きあがった。
そして、互いに距離を取る…。
「今現在の状態で出せる最強の技で決着をつける。
 これなら、どちらが勝っても悔いは残らないはずだ」
「よかろう。
 ならば、始めようぞ」


──止めなくちゃいけない!──
そんな考えが彼女の脳裏に浮かぶ…。
──止めなければ、何か大切なものを失ってしまう!──
その想いが彼女を突き動かす…。
彼女──リフィア=クロスと呼ばれる少女──は、ただ真っ直ぐに走り出した。
死闘と言う名の戦場に向かって…。

…もし、この場に第三者と言う名の人物がいたとしたら、気がついていただろうか…?
彼女の背に、うっすらと二対の白い翼が生えていた事に…。
そして、その二対の翼が…。
──白銀の輝きを放っていた事に…。


「黒翼の死天使よ、我が身に宿れ…。
 最終殺技…」
マサミが目を閉じ、静かに二刀を構える…。
その身に、漆黒の闇に同化しようとする黒き翼を背負って…。
「バスターシューター、完全開放…。
 STS・ダブルエクステンド…」
チコラブは、両腕を広げ、目を閉じる…。
その背に、紅き翼を持つ天使が浮かび上がっていく…。
「降魔…」
マサミの身体に黒銀の輝きを放つ光が…、
「『魔砲「ファイナルマスタースパーク」+…」
チコラブの身体に白銀の輝きを放つ光が集まり始める…。
「殺撃…」「エターナルブレス+…」
それぞれ輝きが、最高潮に達した時…。
「…瞬断閃!!」
マサミが、瞬速のスピードでチコラブに突撃する!
「…チャージバスター』!!」
チコラブが壮絶な光帯をマサミに向けて解き放つ!
黒と白の二つの光帯がぶつかり合おうとした…。
その瞬間!

──だめぇぇぇぇぇぇぇっ!!

二人の間に、白銀の輝きが飛びこんでくる。
『なっ…!?』
二人は、輝きの中心に立っていた人物を見て驚愕する。
「「リフィアっ!?」」
二人の言葉に、リフィアは叫ぶ。
「なんで二人が戦ってるの!?
 二人が戦う理由なんて無いじゃない!
 だから、だから…!」
リフィアは、目に涙を浮かべながら、その言葉を紡ぐ。

──もうやめてよっ!!

その言葉に応えるかの様に、光は、より強く輝き始める。
その輝きは次第に広がり始め、二つの光帯を飲みこみ、漆黒の闇を明るく照らし出す。
そして、全てが白に染まった…。

そして光が収ったその空間は、再び本来の姿を取り戻す。
「なん…だったんだ…?」
「さあ…な…」
二人は呆然と立ち尽くしていた。
理由は、リフィアが飛び込んで来た事もある。
だがそれ以上に、先ほどの出来事の方が、二人にとって立ち尽くす大きな理由となっていた。
先ほどの光に二人が包まれた瞬間、互いの技が急にキャンセルされたからである。
マサミとチコラブは、倒れているリフィアを見つめた後、互いの姿を確認する。
『!?』
そして、二人はその異変がなんだったのかを同時に自覚した。
マサミが己の身体を見つめつつ、言う…。
「嘘だろ…。
 『死神化』と『死天使化』が解除されている…」
チコラブもまた、己の身体とシューターを確認しながら言葉を紡ぐ…。
「こちらもだ…。
 『銀髪化』も『解放』も自然に解除されている…」
そう、二人の『覚醒』が『解除』されていたのだ。
二人の身体に負荷をかけることなく、自然に…。
確かに二人の『覚醒』が解除されれば、技がキャンセルされても可笑しくはない。
しかし…。
「どう言う事だ…?
 本来『覚醒』とは、使用者の意志が無ければ解除されないはずだ…。
 先刻の我の技とて、キャンセルは出来ない…」
そう、マサミの技はキャンセルできても先ほどのチコラブの技は、通常ではキャンセル出来ないはずなのだ。
だが、現に二人の技はキャンセルされ、『覚醒』は解除されている。
「考えられる理由の一つは…」
その理由を考え込むチコラブに、マサミは言う。
「リフィアが放っていた、あの光が大きな理由だと思う。
 あれはLADの特殊能力の一つ、『慈愛の輝光』に酷似していた…」
「『慈愛の輝光』…?」
「敵の特殊能力及び、特定の技を封じこむ神官系統の特殊能力だ。
 もっとも、その効果はそれほど高くはない」
そう言いながら、マサミはリフィアの側に歩み始める。
「だが、あの光は我等の『覚醒』や技を解除している。
 もしあれがその特殊能力だとするのならば、些か強力すぎる」
チコラブも反論しながら、リフィアの元に向かい始める。
「確かにな…。
 だから俺も不思議なんだよ。
 何でリフィアが『慈愛の輝光』を使えたのか…。
 そして…」
マサミは、何かを確信したかのように言葉を紡ぐ。
「何でこいつの背に、『白い翼』が生えているのかが…な」
その言葉に、チコラブも気付く。
リフィアの背に、うっすらとだが、二対の白き翼がついている事に。
そして彼女も確信する。
先ほどの光は、リフィアの想いと『白翼』の力が生み出した『奇跡』だと言う事に…。

「それで、リフィアちゃんの様子はどうなんだい?」
さっきまでの雰囲気とは打って変わっていつもの雰囲気でチコラブが聞く。
「心配ねぇよ。
 馴れない力を一気に解放した事で、軽い睡眠状態になっているだけだ。
 小一時間位すれば目も覚める」
「そっか…」
「んで、どうするんだ?」
マサミもまた、いつもの口調でチコラブに聞く。
「なにが?」
「おいおい…。
 さっきまで俺達、戦ってただろうが…」
平然と聞き返すチコラブに、マサミは半ば呆れながら言う。
「ん〜…。
 互いの『覚醒』も解けちゃってるし、また戦っても疲れるだけだしね〜」
首を傾げながら言うチコラブに、マサミは苦笑する。
「ったく、お前らしい答えだよ。
 OK、そう言うなら俺も止めておくよ」
蒼牙と雪舞を仕舞うマサミに、チコラブは少し驚きながら聞く
「あらら、あっさりと了承したねぇ?
 確か、俺を倒してリフィアちゃんを助けるのが目的じゃなかったんけ?」
その言葉に、マサミは苦笑しつつ、言う。
「さっきまではそのつもりだったさ。
 だけど、リフィアはもう助けたようなもんだし、
 要は『お前の望む結果』が出せればそれでいいんだろ?」
マサミの言葉に、今度はチコラブが苦笑する。
「参ったな…。
 いつから気付いてたんよ?」
「戦っている時から薄々と…な。
 本気を出しながらも、何処か俺を試してるような雰囲気が見え隠れしていたし、
 俺と本当の意味で死闘をしたいなら、お前の口からそんな言葉は出てこないさ」
マサミは、気絶しているリフィアを背負う。
「それに、リフィアの事もある。
 こいつは…、優しすぎるからな…。
 理由がどうあれ、知り合いが殺し合いをやっているのを黙って見過ごすわけにはいかない筈だ…。
 また俺とお前が戦えば今度こそ、命を失う覚悟で戦いを必ず止める…」
まあ、そんな性格だからこそ、白翼の意志はリフィアを選んだのかもしれないな…と、マサミは心の中で付け足した。
「確かにね…。
 だからかね、君がリフィアちゃんや他のみんなの前で『死神化』をしないのは」
「まあ…な。
 出来ればこいつや仲間達には、俺やあいつみたいな『戦い方』を見せたくはなかったし、
 何より、それがあいつの願いだからな」
「……その人はLAD七英雄の一人、『碧翼の戦乙女』とやら、の事かい…?」
その言葉に、マサミは少し悲しい笑みを浮かべる。
「それを調べたのも…、真澄か…?」
「………」
マサミの言葉に、チコラブは沈黙する。
「その沈黙は正解と取らせてもらうぜ。
 まあ、どうでもいいけどな…」
そう言いながら、二人はカオスゲートへと向かう。
「マサミっちゃん…、その『碧翼の戦乙女』って人は…」
「あらかじめ言っておくけどな」
チコラブの言葉を遮り、マサミは言う。
「俺はあいつが死んだなんて思っちゃいない。
 今でも何処かで、俺やリフィア達を見守ってるに違いないんだからな」
「どうして、そんな事が言えるのさ?」
その言葉にマサミは、前を見つめながら言う…。
「それはな…」
──あいつの魂の鼓動が、まだ消えて無いからさ…。


マサミ達が、『漆黒の狭間』を後にした数分後…。
「なるほど…。
 あれが『死神』と『魔王』の力か…まだまだ荒削りだな」
誰もいなくなった空間に、一人の男が姿をあらわす。
「まぁ…いい。
 俺の仕事は、奴らをこの世界から抹殺する事だけだ。」
男は不敵な笑みを浮かべ、マサミ達の消えていった空間を見る。
「最初は『死神』、次に『魔王』…。
 あいつには悪いが、二人を仕留めるのはこの俺が先だ…」
クックックと笑いつつ、男は漆黒の闇の中へと消えていった。
後にはただ、静寂のみが残されているだけだった…。



互いの力を認識した『死神』と『魔王』…。
そして、それを狙う黒き影…。
誰にも知られないところで、運命の歯車は…。
──ただ静かに、回り始める…。


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