みなさん、こんにちは。お元気ですか?
 ステータスはラック寄りなのにリアルラック皆無の薄幸少女、ジノです。
 現在、わたしはフェイヨンフィールドを必死に走っています。
 また枝モンスターに追われているのかって? いいえ、違います。
 追われてる事に間違いは無いのですが、今わたしを追っているのは……

「ふははははははっ! プリライトC+クリーミーCから逃れられるものかぁっ!」

 真っ黒なローブに青白い仮面を付けた、いかにも怪しげなPC。
 時刻が夜なら気分はすっかりホラーサウンドノベルでしょう……(T▽T)



『異端の探求者』外伝 〜 ジノちゃん、危機一髪 〜



 事の発端は一時間ほど前……
 そこそこレベルも上がって、カードを二枚装備できるようになったわたしは、
猫耳のヘアバンドを手に入れるべくフェイヨンに来ていました。
 それはもちろん、プニャが実装された暁にはペアルックで街を歩くため……
(ここで言う『プニャの実装』とは、
 キューペットシステムとネコポリンの両方が実装される事です)
と言うのもありますが、前々から、道行く人の頭にちょこんと乗っているネコミミは、
わたしのハートをがっちりと掴んで放さなかったのです。
 とは言え、プロンテラの露店で売られているような高価な物に手が出るはずもなく、
結論は自然と『自分のラックを信じるしかなかろう』という物に帰結する訳です。
 いま思えば、それが間違いの始まりだったのかも知れません。

 正面から戦うには、まだ少し厳しい熊を避け、
横殴りをしてくるBOTの嫌がらせにも耐えながら、黙々とムジナを狩っていたわたし。
 けれど出てくるのは、いも、イモ、芋……渡る世間はいもばかり……(−_−;)
 中途半端にラックの高いわたしの持ち物は、いもで埋め尽くされていました。

やっぱりトレジャーハンターにでもならなきゃ手に入らないのかな?)

 などと思い始めた頃、一人のPCから声を掛けられました。
 話を聞いてみると、わたしの持っているカードに興味があるみたいで……
 でもそれは人から貰った大事なカードですから、手放すつもりはありません。
 わたしがその事を伝えると、その人の目が赤く光って……
 何事かをブツブツと呟いた後、いきなり襲いかかって来たんです!(XДX)



 そんな訳で現在、あらゆる手段を講じて逃げ惑うワタクシなのでありました。
 当然、落ち逃げする暇なんて、ありゃしません。

「あいたっ!」

 考え事をしながら走っていたわたしは、足元にあった木の根で転んでしまった。
 うぅ、こんな所までリアルに作り込まなくてもいいじゃんかよぅ……(T▽T)
 はっ、そんな事ぼやいてる場合じゃない。
 さっさと逃げないと、ムジナ狩りでコツコツ溜めた経験値が……

「水龍ッ! 神・掌ッ!」

 転ぶ前までわたしの頭があった場所を、渦巻く水流を纏った腕が通り過ぎていく。
 怖っ! このゲーム、お年寄りにはお勧め出来ないわ、心臓に悪いし……
 勢いあまった拳は、たまたま私の側に出現したビッグフットに直撃、粉砕した。
 じょ、冗談でしょ!? 一撃で熊を殴り殺してらっしゃいますよ、あの方……

「ちぃっ、外したか……」

 ゆらり、とこちらを向き直る仮面の人……
 わたしは慌てて立ち上がり、脱兎の如く駆け出……そうとして足を止めた。
 茂みの向こうでは、彷徨き様がゆっくりとした足取りで闊歩していらっしゃいます。
 まだこっちには気付いてないみたいだけど、
飛び出せばすぐに見つかって、即刻打ち首獄門ですよ……(T▽T)
 まさに、前門の侍、後門の仮面……
 あはは、プロンテラで
DOPとエンシェントデビルに挟まれた事を思い出しちゃう……(T▽T)
 こんな時にハエの羽は切れてるし……
 あぁ〜、どうしていつもわたしばっかりこんな目に遭うの……

「さて、禿に斬られるか、俺に殴られるか……好きな逝き方を選ぶが良いよ」

 ひぃぃ、無表情な仮面で楽しそうに迫らないでくださいぃぃぃ!(XДX)
 わたしはプロンテラへの死に戻りを覚悟した。と、その時……

「何をやっとるか、このBOT」

 木の上からヒラリと舞い降りた黒い人影が、
手にした短刀を仮面の人の後頭部にサクッと突き刺した。

「ひでぶぅ!?」

 仮面の人は、まるで昔の漫画のヤラレ役みたいな声を上げて倒れ込むと、
刺された後頭部を押さえながら転げ回っている。
 これもロールプレイって言うのかな?

「うむ、悪役らしい反応で大変よろしい」

 黒い人影は、そんな様子を眺めながら満足そうに頷いていた。
 手にした短刀と、頭に被った獣の骨は、ひょっとして……

「黒月さん……?」

「ん? 誰かと思えばジノじゃないか」

 くるりとこっちを向いた黒月さんは、やぁ、と片手を挙げて見せた。
 まだ、ちょっと緊張しているわたしは、ぎこちなく同じ動作をやり返す。
 そこで、ふと疑問に思った事を口にした。

「あの、助けて貰ってアレなんですけど……あんな木の上で何してたんですか?」

 わたしの問い掛けに黒月さんの動きが一瞬止まる。
 そして再び向きを変えると……

「で、イデモンよ、その装備は何だ? また、なんちゃって三次職ゴッコか?」

 あ、誤魔化した。

「なんちゃって三次職ではないッ!
 今の俺は拳の道を極めし者! その名も高き『ゴッドハンド』だ!」

 イデモンと呼ばれた仮面の人は、ガバッと起きあがると右腕を高々と掲げて見せた。
 その腕には、日の光を受けてキラキラ輝く綺麗な篭手が装備されている。
 わ、凄い! 追い掛けられてる間は、そんなの気にする余裕なんてなかったけど、
よく見るとセイントダイアナックルだよ、あれ。

「あ〜、はいはい、拳法Lv3と武闘Lv6の組み合わせね」

「違ぁうっ! ゴッドハンドだと言っとるだろうが!」

 ヒラヒラと手を振ってあしらう黒月さんに、
噛み付かんばかりの勢いで食ってかかるイデモンさん。
 あの〜、二人とも、そんなに騒いだら彷徨う者に気付かれちゃいますよ〜(^_^;)

「フヒュゥー」

 そうそう、フヒュゥーって息を吐きながら……
 ああっ、やっぱりー! って言うか、またこのパターン!?
 なんてツイてないわたし……ううん、むしろ何か憑いてる!?
 黒月さんに会った時くらいから、絶対!(T▽T)

「ん、さっきの禿か? もうキミに用はないから帰っていいぞ」

 片手で犬を追い払うようなゼスチャーをするイデモンさん。
 もちろんモンスターが、それに応じるはずはなく……
 それどころか恐ろしい速さで村正を抜刀したかと思うと、
強烈な範囲攻撃で周囲の木々をザックリと切り裂いた。
 そこに二人の姿は無い……ニヤリと口元を歪めた彷徨き様の目は完全にこっちを見てる。
 ああ、二人ともプロンテラへ戻されちゃったんですね。
 わたしもすぐに後を追う事になるんですけど……(T▽T)
 けれど、そこでグラリと彷徨う者の身体が揺れた。
 目を凝らすと、その傍らには黒い影。
 そこから伸びる腕は、彷徨う者の脇腹へキレイに決まっていた。

「ほーれ、ヒスミン、パース!」

 イデモンさんは脇腹にめり込んだままの拳を、
そこからさらに振り抜く。次の瞬間には彷徨う者の長身が宙を舞っていた。
 宙に放り出された彷徨う者が飛んでいく方向には、同じく黒い影。

「うわっ、こっちに放るのかよ!?」

 黒月さんは不満を漏らしながらも、手にした双剣で彷徨う者を両断した。
 へっ、両断……って、もう終わり?
 さ、彷徨う者をたった二回の攻撃で……何なんですか、あなた達は……!?(XДX)

「ちぇっ、十七分割を期待してたのに」

「そんなにポンポン使えるかって」

「まあいいや。ところで何が出た?」

「イグ葉だったけど……いる?」

「いらね、使ってくれる相方がいないもん。
 やっぱり、とどめをヒスミンに任せたのは失敗だったか……」

「いい加減にヒスミンはヤメロ」

「いきなり使い慣れた呼び名を止めろなんて言われても難しいぞ」

「出会うたびに言っとるわ!
 だいたい、彷徨きのドロップ品なんて全部持ってるんだろ?」

「村正、駆け出しの頃に露店で買った物しか無いのが気に入らないんだ」

「知るか、そんな事……」

 二人は、何事もなかったかの様に雑談に興じている。
 もしかして、今なら逃げられるかも……
 黒月さんには今度会った時に、改めてお礼を言えばいいよね。
 うん、それがいいわ、そうしよう。
 と言うわけで、あっしはここで失礼いたしやす……(^_^)ノシ

「っと、今日はキミと雑談をしている暇は無いのだ。
 そこのチーターに必殺の一撃を見舞わねば……」

 そう言うとイデモンさんは、
逃げだそうとしていたわたしの襟首をバシッと捕らえた。
 うぅ、やっぱり逃がしては貰えんのですね……(T▽T)

「チーター?」

 猫の様につまみ上げられて、
二人の間に放り出されたわたしの顔を黒月さんが覗き込む。
 ニューロゴーグルの視界は黒月さんの顔で埋め尽くされた。
 わっ、わっ、ちょっと、近い、近すぎますって……!
 RTWの精巧なグラフィックは、サラサラの前髪や、
細い長い睫毛の一本一本、澄んだ瞳、その瞳孔まで鮮明に見えて……
 やっぱり、このゲームって心臓に悪いかも……

「ジノ、チートなんて器用な真似が出来たのか?」

 相変わらず、この人の反応は予想外と言うか、普通じゃないと言うか……
 けれど、その声音がいつもより冷たいと感じるのは、気のせいだろうか……

「や、やだなぁ……そんな事できるわけないじゃないっすか、濡れ衣ですよぉ」

 訳も分からず恐縮してしまったわたしの口から出たのは、
何とも言い訳がましい言葉。
 ヤバイかも知れない、逆に今ので疑われたかも……
 ああ、この沈黙が痛い……ホントのホントに濡れ衣なんですって……(T▽T)

「だよなぁ」

 どうやら気にしすぎだったみたい。
 やっぱり、この人は暢気だ。うん、わたしとしてはそっちの方が好きだけど。
 いや、好きってのは、言葉のアヤという奴で……その何て言うか……
 親しみやすくていいって事であって、別に特別な意味じゃないっすよ、うん。
 って、誰に弁解しちゃったりしてるかな、わたしは……(^^;)
 と、とにかく、これで最悪の事態は回避出来たはず。
 後は、どうにかしてイデモンさんの誤解を解けば、晴れてわたしは自由の身だ。
 問題は、一筋縄ではいきそうにない事なんだけど……

「ふん、リアルラックの無いヒスミンは誤魔化せても、この俺は誤魔化せんぞ!」

「まだその話題を引っ張るのか、お前は!
 しかも『低い』じゃなくて『無い』のかよ!?」

「他の装備品を偽造するのは別に構わん……
 だが俺の愛するカードを偽造する事は、例え俺が許しても……」

「聞いてねぇな、人の話を」

 イデモンさんは、黒月さんのツッコミには耳も貸さず、
右手をグッと握りしめて語りモードに入ってる。そして……

「いや、やっぱりこの俺が許さんっ!」

 ビシィッっと、私を指差した。
 さすが黒月さんの知り合い……やっぱりこの人も変な……いやいや、変わった人だ。

「だいたい、キミのようなへっぽこ冒険者があんな物を持ってる訳がなかろう」

 うっ……確かにわたしは、レベルもそう高くはないし……
 むしろ同じようなレベルの人と比べてもへっぽこなのは自覚してますけど……
 正面からハッキリ言われると、さすがにヘコんじゃいますよ……(T▽T)

「だからこれは人から貰った物で……」

「まだ言うか!『DOPカード』をそう易々と他人に譲る人間が何処にいる!?」

 いえ、あなたのすぐ側にいらっしゃるその方ですが……
 うぅ、黒月さんも何とか言ってください……
 ん? すぐ側にいらっしゃる? 黒月さんが……?
 ちょっと待って、それってひょっとして……

「あー、盛り上がってるトコ悪いんだが、ここにいたりする」

「はい?」

 黒月さんの言葉に、わたしたちの世界が一瞬凍り付いた。
 まさかこれが噂に聞く『 Ragnarok Online 』名物、ザ・ワールド!?
 だからこの世界は『 Ragnarok The World 』!?
 って、現実逃避してる場合じゃないやん、わたし。Σ⊂(>_<)
 何で今まで気付かなかったんだろう……_| ̄|○
 このカードは黒月さんに貰った物で、
黒月さんは今ここにいるのだから、その当人に証言して貰えば良かったんだ。
 わたしって、もしかしなくてもお馬鹿さん?
 ヘタしちゃったら大馬鹿さん?(T▽T)
 そんなわたしの前には、ぽけーっと暢気に突っ立ってる黒月さんと、
頭が不自然な方向にガクンガクン揺れてるイデモンさん。
 たぶん、あの人の脳内ではDio様との死闘が繰り広げられているんだわ。
 人間、誰でも考える事は一緒なのかな? あ、止まった。

「ぱ、ぱーどん?」

 カクンと項垂れていた頭をギギギギギ……と、
まるで油の切れた機械人形のような動きで持ち上げるイデモンさん。

「だから、DOPカードをジノにやったのは俺」

「それは和訳すると、ヒスミンが、この少女に、
 DOPカードを、プレゼントした、と言う意味ですか?」

「日本語を一文節毎に区切って和訳するまでも無く、そう言う意味だ」

 その一言で、黒月さんとわたしの顔を交互に見ていたイデモンさんの足は
 ガクンと折れ曲がり、ついにその膝が地に着いた。
 勝った……勝ったのね、わたし! 何か趣旨が変わってる気がするけど……



 その後の黒月さんの説明で、どうやら私のチーター疑惑は晴れたらしい。
 現在は黒月さんによって、どの様な経緯で
DOPカードが私の手に渡ったのかが語られている。

「かーっ、またキミはそんな事を……
 青ポのお礼にDOPカードなんて初めて聞いたよ、俺は。
 謝れっ! 今日もDOPカード欲しさに死地へと赴く冒険者達に謝罪しろっ!」

「その前に、お前がジノに謝れ」

「はい、すみませんでした、僕が悪かったです」

 どっ、土下座っ!? いきなり土下座ですか!?
 ここって結構人通りが多いんですよ?
 ほら、あそこの剣士さんもこっちを見てる……いや、あれはBOTかな?
 と、とにかくこんな所で土下座なんてされたら、わたしの方が恥ずかしい……
 何とかして顔を上げて貰わないと。

「えっ、いや、あの……気にしないで下さい。誤解も解けたみたいだし……」

 わたしがそう言うと、イデモンさんは突然起きあがり、
 右手を自分の懐……恐らく内ポケットがあるであろう場所へと突っ込んだ。
 まさか、チャカですか? チャカが出てくるんですか!?
 わたし、何かお気に障るような事しちゃいましたか!?(XДX)

「お詫びと言ってはアレだが、これを差し上げよう」

 いいえ、お詫びの鉛玉なんて結構ですからっ!
 えぇっと、こう言う時は姿勢を低くして、手近な机の下に隠れるんだったよね!?
 そんなのあるわけ無いじゃん、フェイヨンの森の中に!
 ああ、いかん、落ち着け、わたし! せめて身を屈めて、頭を守って……
 けれども鉛玉はいつまで経っても飛んでこない。変わりに飛んできたのは……

「何だジノ、そんな物が怖いのか?」

 愉快そうな黒月さんの笑い声。
 恐る恐る目を開けると、目の前に差し出されていたのは、茶色くてほわほわの……
 はうぅぅっ!? そ、それは……夢にまでみたネコミミじゃないですか!?

「ん、ネコミミは気に入らんか?」

 気に入らんはずがありましょうか。欲しいですよ。ええ、欲しいともさ。
 今日はそれが目的でここに来てた訳ですし? でもやっぱり……

「う、受け取れませんよ。こんな高価な物……」

 プロンテラの露店で1M以上の値段で売られていた物を、
そんなにあっさり受け取ったら、しっぺ返しで何が起こるか分かった物じゃない。

「金銭的な事なら気にする事はないぞ、拾い物だし。
 Zenyは40M越えた辺りから数えるのを止めたから。
 くっ、これが現実に持ち越せれば、どれだけ生活が楽になる事か……」

「止めとけ、リアルマネートレードは垢バンの対象だから」

「分かってるよ……」

 いやいやいやいや、さり気にとんでもない発言をなさいませんでしたか!?
 よんじうえむ……先生、それってジャックカード何枚分ですか?

「それに正直な話、可愛らしい女性PCの相方がいない俺としては使い道がない訳だよ。
 チコラブくんは犬耳常備だし、そもそも彼はネカ……ゲフッ、ゲフン」

 イデモンさんは不穏な台詞を、わざとらしく咳き込んで誤魔化した。
 チコラブさんって言うのは、たぶんこの間モロクで出会った人の事だろう。
 黒月さんと親しかったみたいだし……
具体的に言うと、その……ほっぺたに……キスなんてしちゃうくらい……
 と、とにかく、それならイデモンさんと面識があっても不思議じゃない。
 まあ、いまのは台詞は……わたしも聞かなかった事にしよう。

「まあ、そんな訳だから遠慮せずに受け取ってしまえ」

 事も無げに言ってのける黒月さん。DOPカードの時もそうだったけど、
高レベルのプレイヤーになると、貴重品に対する感覚が麻痺しちゃうのね。
 それでもわたしが受け取る事を渋っていると、イデモンさんは……

「ああ、なるほど。
 突然PKを仕掛けてくるような輩からは何も受け取れん、と。そう言う訳かね?」

 うっ、その言い方はズルい。意味の取りようによっては、ある種の脅迫にも聞こえる。
 そんな事を言われたら受け取らない訳にはいかなくるじゃないですか……
 だから器用にしゃがみこんで地面に、のの字を書くのは止してください。

「そっ、そんな事ないですよ。ありがたくいただきます」

 結局、意志の弱いわたしは、それを受け取ってしまった。
 何だかんだ言っても念願のネコミミ、
自然と頬が緩んでしまう自分が情けない……(T▽T)



 その後、簡単な自己紹介をしてから知ったんだけど、
やっぱりイデモンさんも黒月さん同様、かなりの高レベルプレイヤーで、
実装されているジョブは全てマスターしてしまったらしい。
 カードの蒐集家で、どんなカードも使用用と保存用に、
最低二枚(それも露店売りに手を出さず自身の手で)手に入れないと気が済まないとか。
 ソロで神出鬼没の怪しい人物を演じる一方、
カード流通の元締めの様な事もやっているので知り合いは多いそうだ。
 『カードマンサー・ed』の通り名は、その方面では有名だと黒月さんは言った。



 自己紹介の後、わたしはここで経験値を稼ぐ事にした。
 BOTを片づけてくれる二人のお陰で、
一人でムジナを狩っていた時より断然効率がいい。
 二人はBOTが近くにいない時は地面に腰を下ろし、雑談に花を咲かせていた。

「ちなみに、カードの他には何を持ち歩いてるんだ?」

 いまの話題は、いつも持ち歩いてる荷物の事らしい。
 ひょいっと、イデモンさんの荷物を覗き込む黒月さん。
 ポポリンを叩きつつ、わたしも横目でそれを見る。
 中にはズラリ揃えられたアクセサリー。
 ポリン帽やパンダ帽を始め、装飾用卵殻、ネコミミ、ムナック帽にボンゴン帽……
天使のヘアバンドやウサギのヘアバンドまでありますよ!?

「何だ、この頭装備の山は?」

「俺好みの女性PCに装備して貰って、一緒にSSを撮る時の為にストックしてるんだ」

「それは『お嬢ちゃん、ネコミミあげるから、おじさんとイイ事しない?』
 と言う用法に用いていると解釈して構わんのか?」

「……だいたいそんな感じ」

 ちなみに、わたしもネコミミを付けた姿をしっかりと撮られちゃってたりします。



「てぇいっ!」

 気合いの入ったかけ声と共にエルダートレントへと、とどめの一撃を見舞うと、
カキィン、と甲高い音を立ててジョブレベルが上がる。やったね♪
 ちょうどその時、お母さんの声が聞こえてきた。いけね、もう夕ごはんの時間だ。

「あの……わたし、そろそろ失礼しますね」

「む、そうか。余計な時間を取らせて悪かったね。
 それと久しぶりに萌えなSSをありがとう」

「それじゃあな、変なPCには気をつけろよ」

 はい、あなた達二人でもう懲り懲りですから……
 なんて事は胸の内に仕舞い込んで、
わたしは二人に別れを告げ、RTWの世界を後にした。
 それにしてもあの二人、
こんな時間でものんびりしてたけど、リアルだと何してる人なんだろ?



── To be continued ──



── その後、猫耳を装備したジノ嬢が猫耳アーパーロールプレイヤーと、その仲間達……
   つまりは『変なPC』から勧誘を受ける事になったのは、また別のお話 ──


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